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海軍王女アンネの異世界探検航海  作者: 海の向こうからのエレジー
チャプター4~タシフォーネの砦
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4-15 作戦終了後の一時 1

――再誕の暦867年7月19日、タシフォーネの砦、アンネの執務室――


「アンネ様、補給品申請のリスト作成完了しました。ご覧になりますか?」


「あっ、そうね……2番艦が連絡に行くのは、明日の朝か。じゃこれは夜でチェックする。この後はクルジリオンの客人たちを迎えるから」


 昨日の日没をもってシーリングス海峡自由航行保証作戦は無事終了した。これからも海峡の監視と治安維持をするが、作戦中みたいに積極的に動くことはない。魔導バリスタを装備したまま海峡を通過するのも許可する。非常時期が終わったということだ。自由航行保証作戦は本当に負担が大きくて、艦隊のみんなが疲弊した。私もすごく疲れてるけど、今日は大事な用事がある。明日からちゃんと休もう。


「アンネ様、報告があります。レーダーにクルジリオンの船団と思わしき反応が現れました」


「予想より早かったね。じゃ私たちも行こう」


 現在ラズエム=セグネールは港に停泊中だが、魔力レーダーで海峡を監視し続けている。タシフォーネ島周辺は未だに航行禁止エリアのままだけど、こちらの要請で来たクルジリオンの船団にだけ特例で入港許可を出した。これから相手の身元確認のために遠話通信をかける。


「え?……父様が、自らここに?」


『ああ。私も一度アンネリーベル王女殿下に拝謁したいと思うから。取り次ぎを頼む』


 相手が確かにクルジリオンの人間なのか、アインシリーに確認を頼んだが……どうやら彼女の父、商業ギルドクルジリオン支部長が来ているらしい。偉い人なのにフットワークが軽いね。


「……アンネ様が何を考えているかは大体わかりますから言わせていただきます。これは単純に、より偉い方に会うために支部長が自分から動かざるを得ません」


「ん……そういうものなのか?」


 クルジリオンの船団が入港すると、軍礼服に着替えた私たちは支部長に簡単な挨拶をして、場所を執務室に移す。


「すみません。ここは無骨な砦で、高貴な方を迎えるのに最低限の用意もできていません」


「いいえ、つい最近まで海賊の拠点なのは知っています。どうかお気になさらずに」


 海兵隊の娘がお茶を用意して、私とファルナが、支部長とアインシリーがそれぞれ長机の両側に座った。


「娘がお世話になりました。そちらに迷惑をかけていないか心配でなりません」


「いいえ、アインシリーさんがいてくれて本当に助かりました」


 世間話もそこそこに、早速相談を始める。


「まず問題なのは……海賊の財宝を見つけましたが、資産評価の結果が予想以上に低いです。アインシリーさんの計算では、このままでは近年のテュークリム共和国の未払保険金の給付もできません」


 タシフォーネの海賊はスポンサーの援助で運営していたから、あまり略奪しない。溜め込んだ財宝がそう多くないのは予想したが……捕虜たちの話によると、去年砦を乗っ取った新しいボスは薬物中毒で薬を買うために大金を支払ったらしい。まったく、そのせいてこっちの計画が躓いたよ。


「殿下のご提案通り、こちらの手配で海賊の船と物資を換金しますが、それでも全然足りませんね」


 新時代海軍を運用する私たちはここの船をうまく扱えない。西の大陸の兵器と海軍戦術を研究するために1隻を残すが、他は全部売却処分して構わない。


「仕方ないね。こちらが出すしかありません。今所持してる貴金属と宝石を海賊の宝に偽装したいと思います。どうでしょうか?」


「それで問題ないかと。そちらにだけ負担をかけるわけには行きません。換金する時、クルジリオン支部も損をするのを覚悟して海賊の資産を高く評価するつもりです」


 今のやり取りをわかりやすく言えば、海賊の資産が足りないなら粉飾で水増ししようという話だね。未払保険金をより多く解決できれば、私たちの味方をしてくれる人も多くなるから、多少の損失をしてもやる価値がある。余裕があればテュークリム共和国の被害者だけでなく、他の七国同盟メンバーのも解決したい。しかしカリスラントが直接肩代わりすると非常に悪い先例になる。未解決の被害者がみんなこっちに給付を要求するかもしれない。だからこんな回りくどい手を使う必要がある。


「その換金の話ですが、ついでに貴金属を七国同盟の貨幣と交換したいです」


「もちろん問題ありません。詳細は後で取引の場でまた話しましょう」


 中央神殿のリクエストがあるから、ギースタ金貨と聖ビルム銀貨を西の大陸で使うわけにはいけない。それで探検艦隊は換金用の貴金属と宝石を積み込んだ。


「こちらが、テュークリム共和国議会がカリスラントのタシフォーネ島の現状での支配地位を追認する文書です」


「ありがとうございます」


 支部長が文書の内容を読み上げて、ファルナがカリスラント文の複製を作成した。カリスラントにとって非常に重要なこの外交文書を大切に保管しないといけない。カーチマス王国、そしてフェインルーサ大公との諍いはまだ終りが見えないが、この文書をきっかけに近い内に決着をつけたい。


「七国同盟のことはすでに本国に報告しました。次にこちらに来る船団はテュークリム共和国、そして七国同盟議会へのカリスラント王直筆の親書を届けてくれるでしょう。ただいつ出発するかはまだ未定ですから、正式に外交関係を築くにはもう少し時間が必要と思います」


 これからより具体的な事項を話すので、支部長はギーアル半島全体とクルジリオンの街の地図を机の上に広げる。地図というのは一種の軍事機密だが、私たちは空中観測で簡単に調べられる。だから向こうもこれくらいの情報を隠すのは無意味と感じたんだろう。


「クルジリオンにある8つの孤児院から志願者を引き取る、という話ですが……本気なんですか?」


「はい。今までより豊かな生活を約束します。カリスラント海外領地で暮らしたいと思う子供がいればどんどん迎え入れたいと思います」


 孤児の引き取りは現地人との交流をスムーズにするための重要な一手だ。どんどん受け入れると言ったが、本当は人手が足りないから現在面倒を見れるのは20人くらいまで。でももう少ししたら本国から増援の人員が来るから心配ない。


「その意図について聞いてもいいですか?正直に言うと、そちらにメリットがあるとは思えないので……」


「メリットなら十分ありますから。今は子供たちの養育が負担になるのは確かですが、子供時代は多言語を学ぶ能力が一番高いです。孤児たちをちゃんと教育すれば翻訳の人員として将来役に立ってくれます。いつまでもカネミング石だけが頼りというわけにはいきません」


「なるほど、確かにカリスラントとギーアル両方の言語ができる者は非常に有用になりますね」


「できれば、ギーアル語を教える人材、それとカリスラント語を学びたい成人も募集したいです。後はギーアルの文字を学ぶ教材もほしいです」


 艦隊の中でも有志を募って、クルジリオンの職員たちからギーアルの言語と文字を学んでいる。カネミング石を利用すれば言語の学習は非常にスムーズにできるから、すでにそれなりの成果があった。中で一番上達しているのはリエメイアとサーリエミ。二人は西の大陸の情報を集めるのが使命だから特に頑張っている。


「クルジリオンの敷地は広大で、スラムもあると聞きます。路上の孤児も使えるかもしれないが、品性が良くない人間は望ましくありません。もしそちらが問題ないと判断するならスラムから子供を集めるのもいいです」


 クルジリオンは貧富の格差がかなり深刻て、孤児が厳しい社会問題になったらしい。これは問題を解決する手段を提供して、こっちにも大きな利益をもたらす提案だ。まさにウィンウィンってやつね。まぁ簡単に言うけど、孤児の教育はきっとすんなりにはいかないだろう。それでもやってみる価値がある。言語の壁をなくすのはとても大事だから。


「わかりました。スラムでも適切な人選を探してみます。こちらも一つ聞きたいことがありますが、そのカネミング石の製品を、こちらが入手する可能性はありますか?」


「残念ですが、カネミング石はカリスラントの産物ではありません。私たちも入手するのに大変苦労しています。それにカネミング石は外交の重要資源だから条約によって各国への配分が決まるから、私たちが勝手に処置するわけにも行きません。でも西の大陸の話が広がるとそちらにもいずれカネミング石を獲得できるようになります。最低でも各国がイヤリング一つはもらえると思います」


 それからは、近い将来探検艦隊がクルジリオンに訪問する話もした。聞いた話によると、クルジリオンには大規模の歓楽街があり、貿易都市だから外国人の船乗りへのサービスも慣れている。すでに本国を離れて2ヶ月以上経ったし、艦隊の男性陣はつらいだろう。そんな話もするから私とファルナは気を利かせて、途中からケロスのじいちゃんたちと交代した。


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