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海軍王女アンネの異世界探検航海  作者: 海の向こうからのエレジー
チャプター4~タシフォーネの砦
69/159

4-14 シーリングス海峡自由航行保証作戦

――再誕の暦867年7月9日、探検艦隊旗艦ラズエム=セグネール、ブリッジ――


『着弾確認!88/81、73/82、91/89……』


「おい、かすりもしていないぞ!計算間違ってる!戦術分析士官、やり直せ!」


「はっ、はい!」


 インスレヤの指揮下でこちらの警告を無視した船団に威嚇攻撃をしたが、狙いを外して弾薬を無駄に消耗した。


「アンネ様もわかっているはずです。たまにこういうミスが起きると」


「ええ。わかっている」


 私の態度が良くないと、婉曲的に諌めるファルナ。いけない。どうやら私の焦燥が少し顔に出た。まだまだ余裕があるし、増援とともに来る補給品もあるから本当は心配する必要がないけど、こんな風に弾薬を大量に使い続けるのはやっぱりちょっと不安。


「座標G-22から、6隻で規模160人の集団が北へ向かっています!」


「カーシュレ、通話を頼む」


「はいはい、本当人使いが荒いですね」


 相手のことが知らなくても、レーダーの表示盤で位置確認すれば通話できる。これはカーシュレくらいの達人でないとできないから、どうしても負担をかけてしまう。まぁこれもすべてカーシュレの規則違反が招いた結果だと思うと罪悪感を覚えない。それに私たちの作戦概要はすでにクルジリオン支部を通して各商業ギルド支部に伝達したから、頻繁に通告する必要があり特に忙しいのは多分最初の3日くらいかな。


「そちらの船団に告げます。こちらはカリスラント海軍。現在シーリングス海峡は我々の管轄下にあり、海峡の治安を回復するための特別作戦を実施しています。タシフォーネ島周辺半径10KMを航行禁止エリアに指定、そして非武装の船団だけ海峡を通過することを許可します」


『はぁ?なんだ?遠話の魔法?カリス、ラン?何を言ってるんだ!』


 私の通告がまだ終わってないのに割り込むなんて、今回の相手はあまり品が良くないようね。


「具体的に言うと、魔導バリスタを装備するまま海峡を通過、それとタシフォーネ島への接近、この二つが禁止事項となります。違反する場合威嚇攻撃をします。それでも警告を無視するなら撃沈します」


『攻撃?ふざけんな!そんな勝手が許されるのか!』


「甲板の上に魔導バリスタがあれば武装しているとみなされます。自衛のために魔導バリスタを装備する場合、海峡を通過する間甲板から一時撤去すれば問題なし。これから海峡は安全になるから武装は不要です。こちらの作戦は七国同盟商業ギルドの承認を受けました。海峡の治安回復のため協力をお願いします」


 正確に言うと、まだ仮承認を得ただけだ。私たちが砦を攻略した経緯と自由航行保証作戦の詳細は、クルジリオン支部から議会に提出したが、重大な事項だからさすがにすぐに結論が出ない。それで1日間自由航行保証作戦の様子を見てから判断するとなった。今日中問題が起きないならそのまま正式承認してもらえる見込みだ。


『なんだと!ちょ、ちょっと待て、こっちには「フェインルーサの剣の誓い」があるんだ……』


 これ以上話しても無意味だから一方的に通話を切った。もうその「フェインルーサの剣の誓い」はただの黄色い旗、なんの意味もない。それを理解させるのもこの作戦の目的の一つだ。


「G-22の船団はレーダーで引き続き監視。気球班はE-12の船団の偵察を」


 次はさっき警告をした別の船団がちゃんと従っているかの確認だ。甲板の上に魔導バリスタを目視できなかったと気球班が報告したが、気になる点もある。多分こっちを騙すつもりじゃない。ただ撤去するのが面倒だから雑に隠しただけだろう。とにかく私たちにあんな小細工が通じないのを教えてあげないと。


「そちらの船団に告げます。東から2番目の船の甲板にある黒い布の下に、魔導バリスタが隠されていると我々が考えています。もし違うなら今すぐ見せてください。魔導バリスタなら直ちに撤去してください」


『……わかった。あれは確かにバリスタだ。言う通りにするから攻撃しないでほしい』


「わかりました。作業が完了次第海峡の安全通過を許可します。ご協力感謝します」


 警告を無視する船が威嚇攻撃を受けて炎上したのを、この船団は間近で見たからこっちの要求を素直に聞き入れた。そう言えばあの船は本当に運が悪いね。魔法があるこの世界では地球より消火能力が高いから、普通なら燃焼弾に一回攻撃されたくらいで大した被害にならないけど、たまにあんな感じに重要な場所がピンポイントに損傷を受けて、航行不能になることもある。それであの船は同じ船団の仲間にシーリンタまで曳航してもらってる最中。今頃シーリンタは大混雑しているだろうね。威嚇攻撃によってダメージを受けた船は修理のため最寄りのシーリンタに行く。こっちの警告を受けて迂闊に海峡を通過せず一旦シーリンタに入って情報収集する船団もたくさんいる。


「こんな広範囲を見通せるなんて、空中観測は本当にすごいですね」


 今はアインシリーが艦隊に同行している。彼女はクルジリオン支部の職員として、私たちの治安維持作戦が公平公正であること、そして不当に民間船に攻撃を加えていないことを証明してくれる。


 もう一つの船団に注意を向けるとき、気球のほうから遠話通信が入った。


『申し訳ありません。私の魔力がそろそろ尽きる。交代をリクエストします』


「わかった。帰還を許可する」


 この作戦では気球班がずっと滞空するから、操縦員の魔力消耗が激しい。朝9時から2時間の間ほぼ休まずに温度操作してるフィレリッタはもう限界のようだ。その前に出動したミレスファル班もまだ動ける状態じゃない。ここは臨時気球班の出番だ。


「ファルナ。これより外部の艦船に通告する権限を一時的に付与する。頼んだよ」


「はい」


 私はカネミング石のイヤリングを外してファルナに渡す。今からカーシュレも補助員として空に上るから、ブリッジから外部への遠話ができなくなる。だから臨時気球班の出動中は観測員のファルナが直接外部と通話することに。その間私は少し休もう。ブリッジで作戦の様子を見守るが、しばらくは指示を出さないようにするつもり。


「シーリンタから……座標K-11に艦隊の集結を確認!13……いいえ、14隻、400人規模です」


「……はぁ、懲りないわね」


 休むと決めたばかりなのに、タイミングが悪いね。これは私が直接指揮を執らないといけない状況。フェインルーサの海軍が再びこっちに挑もうとしてるから。しかも今はちょっと間が悪い。ファルナ、インスレヤ、そしてカーシュレ、ブリッジで重要な役割を担う3名が別任務の最中。どうしても効率が落ちる。まぁこれくらいのハンデでこっちの優位性が揺らぐことはないし、別に問題はない。


『K-11の艦隊はこちらの警告に対して一切返答しません』


「だんまりか。こっちに何を言っても無駄だとわかったよね」


 3時間半前にフェインルーサ艦隊は一度仕掛けてきた。遠話で警告を送ったら罵詈雑言で返された。その後威嚇攻撃されても強引に進もうとしたが、さらなる砲撃を受けて中型のダニシーサ艦(クルジリオン勢に聞いて艦種の名前が判明した)3隻ロストして逃げ帰った。また仕掛けてくるということは、前回の失敗を反省して策を用意したんだろうね。


「敵艦隊がJ-13まで到達しました」


『着弾確認。49/46、55/47、52/52、56/49……ティカミア(3本マストの大型艦の名前)1隻航行不能で脱落、残り6隻です』


「5番艦から報告です。A-12にレーダー反応あり。350人規模とのことです」


「8番艦も報告が!U-10から北へ、タシフォーネ島に直進している艦隊が……15隻、650人規模です!」


 フェインルーサ艦隊が犠牲を畏れず前に突き進み、半分以上が炎に包まれる頃、北と南に新たの艦隊の姿を捕捉した。シーリンタの港は完全に魔力レーダーの監視下だから、フェインルーサの他の領地から来た援軍となる。艦船40隻超えで人数1400以上、短期間でかなりの規模の戦力を用意したね。これほどの動員と統制能力があるなら、今まで誰もタシフォーネを攻略できなかったのも納得だ。


「ホーミルマ。A-12の敵への対応と3番艦への指示、戦術分析士官たちと計算してから提案を」


「はい!」


 3方向からの一斉攻撃を一人で捌くのはさすがにきついので、北の方はホーミルマに任せる(リミアは夜から指揮を引き継ぐ予定だから今は休んでる)。多分最初に現れた中央分隊と北の分隊は囮と牽制、南からタシフォーネ島を目指す兵員数が多い部隊が本命。島さえ取り返せば、今度は海賊ではなく私たちにもう一度攻撃する理由がないので、そうなると外交の場で情勢逆転。現在2番艦と7番艦は港の中でメンテナンス中。6番艦はトリスタ=フィンダール島から動けない。海峡自由航行保証作戦に投入したのは5隻だけ。向こうも高所(おそらく丘の上のリガンジエル城)から戦場を俯瞰して、こっちの数が少ないのに気づいたから、私たちが一番対応しづらい戦い方で来た。でも残念。技術力の差が大きすぎて、いくら戦術に工夫しても誤差程度にしかならない。このやり方で大体の敵を追い詰められるだろうが、私たち相手ならいたずらに被害を大きくするだけ。


「副艦長、4番と8番艦を前進させJ-13の敵に集中砲火を浴びせる。針路は北寄りで、U-10の敵に気づいていないように動く」


 動きを見る限り、相手の指揮官は部隊へ高度な統制力を発揮してる。私たちのような常識外れな相手なのに、初めて遭遇する状況を速やかに読み取って果断に動く能力もある。機動力と長距離打撃力で完敗だから私たちの船を追わずに島に向かい、それでこっちに決戦を強要、もしくはそのまま島を奪還する――その判断は間違っているが、それは私たちのことをまだ十分に理解していないから。そんな学習が早い相手になるべくチャンスを与えないようにするのが肝心だ。ここで一気に向こうの戦力を削り、しばらく脅威にならないようにしたい。そして向こうの戦力が回復するまでにタシフォーネの件を片付けよう。


「敵艦がO-17に、タシフォーネ島の10KM圏内に入りました!」


 25分後、旗艦、4番艦と8番艦の集中攻撃で中央の敵はもう完全無力化、北の敵も3番艦と5番艦によって半壊した。残りの問題は南から島に向かう敵だが、今から対処しても間に合う。むしろこの位置で攻撃を受けるのが相手にとって致命的。シーリンタから遠すぎるからもう退却は不可能。


「全艦引き返す、そして0-17の敵へ攻撃開始する」


 更に30分過ぎると、大勢が決まった。南の敵本隊が壊滅的被害を受けて、北の分隊は撤退を始める。


「C-15の敵艦隊、針路を北北西に変えました。行動不能の2隻と速度低下の2隻が脱落して、残り4隻です」


「敵本隊はほぼ無力化しました。アンネ様、降伏勧告を出しますか?」


「……残酷だが、出さないほうがいいと思う。私たちに捕虜の面倒を見る余裕がないんだ。二人はどう思う?」


「現在我々は戦争状態にはなっていません。明らかに違うけど、この状況では相手を海賊だとみなすこともできます」


「……投降しても、ザンミアルの時と違って、こちらは相手のことをよく知らないので信用できないと思います」


 今ブリッジにいる参謀二人に意見を聞いてみると、サーリエミとホーミルマも敵の降伏に対して否定的。現在タシフォーネを守っているのは海兵80人だけ。捕虜の収容にミスすると最悪の事態になりかねない。向こうに連絡手段がないから、これで彼らの運命が確定した。


「信じられません……これだけの規模の艦隊を、こんなにも簡単に撃退……いや、殲滅したなんて……」


 さっきフェインルーサが本気を出して攻勢に出たとき、顔が真っ青になって震えてたアインシリーだが、今度は声が震えている。一般人だし、私たちの力を正確に理解していなかったから、負けると考えたのは仕方ない。というか、私たちでなければ絶対勝てなかったんだろう。


「これで理解してもらえたかな?私たちがタシフォーネの防衛について全く心配していない理由を」


「え、ええ……十分すぎるくらい理解しました。できるだけ早くに、正確に報告しないと……」


 アインシリーだけの報告なら信じてもらえないかもしれないが、3番艦に乗っているクルジリオン支部の職員も一部始終を見たので、報告の信憑性が高くなるだろう。私たちにこれだけの力があるのを知ったら議会はきっと海峡自由航行保証作戦を認めてくれる。そして私たちとは敵対しないほうがいいと考えるだろう。


 1時間後、シーリンタに帰還できた7隻を除いて、出撃したフェインルーサの艦隊は全滅した。10日間継続のシーリングス海峡自由航行保証作戦だが、それ以降は特に変わったことがなく、順調に完遂した。


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