4-6 ファーストコンタクト 3
商人レンダースの伝手を使って、外交支持を得てから海賊の砦を攻略する――方針が決まったところで、早速いろいろ調整しないといけない。でもその前に彼らの扱いについて説明しないと。女性だけの船だから、悪いけどちょっと行動に制限をかけてもらう。
「もう遅い時間ですし、今日はこのラズエム=セグネールで過ごしてください。客室を用意しますが、乗組員への配慮として外から鍵をかけます。明日ボートを出してあなた方を他の船に移動させますから、今日だけ不便を我慢してください」
「んむ。それも仕方ないか。だがワシは今からでも他の船に移動可能だぞ。盾さえあれば落水しても平気だ、ガハハ」
「フラスダーンさん、あまり無理を言って困らせない方が……」
「それもそうか。わかった。今日は大人しくするか」
「埋め合わせとして、他の船では機密事項以外の見学を許可しますから。遥か遠い東から来られた、我々の優れた技術力の片鱗をお見せします」
「ほぉ!それは楽しみだな!マストとセイルがなくて、一体どうやって船を動かせるのも見れるのか?」
「(外から見ても製法がわからないから)それくらいは問題ありません……あっ、そういえば、そちらから何も言わないから忘れましたが、レンダースさんの船のことはいいですか?助けてほしいと言われても困るし、もう間に合いませんけど……」
「ああ……あれは、もういいですよ。レンタルの船だし。荷物もどうせ……」
「やつらは契約を結んだレンダース殿のことを売ろうとしたんだぞ。助ける義理などない」
「え?ああ、そうか。殺害依頼の標的を差し出せば自分たちが助かると……だから二人で海に飛び込んだのですか?」
「ガハハ。そうだ。あれこそユールキ=ガーズルアの盾持ちの奥の手。逃げ切れれば勝ちってやつさ」
「フラスダーンさんが助けてくれなかったら僕はあそこで終わりました。この御恩はいつか報いると誓います」
「しかし、タワーシールドで海を漂流して追手を撒くなんて、よくそんなことを考え付きましたね。もしかして、私たちがいなくても地上まで帰還する手段があります?」
「いや、そんなことはできないぞ?ただ海を彷徨い、運が良ければ助かるから。ガハハ」
えぇ……?奥の手と言う割には、意外と適当なんだね。私たちが近くにいなければ一体どうするつもりだったの?
「では、私は色々指示を出さないといけないので先に失礼させてもらいます。リエメイアとサーリエミの2名は情報収集したいなら、ここに残って彼らに聞き込みするのを許可する。他の参謀は私とブリッジへ」
リエメイアとサーリエミは西の大陸を一足先に調査して、精度が高い情報を実家に持ち帰るのが役目だ。せっかく現地人がいるし、地理と気候、風習と文化、特産品、商品の需要、など……このあたりの様々なことを聞きたいだろう。今こっちに人手が必要ないから、二手に分かれるほうが効率がいい。二人がどんな情報を得られるか私も後で見てみたい。
「アンネ様。私も話を聞きたいと思います。ここに残留するのを許可していただけますか?」
「タスリカ?あぁ、もしかして、ザンミアルにその話を持ち帰りしたいから?」
「はい」
もう一度やるべきことについて考えてみる。タスリカが抜けても大丈夫だろう。それに、リエメイアとサーリエミだけを一緒にするとまた喧嘩になるかもしれない。先輩のタスリカも一緒のほうが安心だね。
「わかった。タスリカが作戦室に残るのも許可する」
ジャイラと海兵の娘たちも残って引き続き男性二人を監視する。私と他の参謀たちはブリッジに。
「長距離連絡用レーダーを使うから用意して。インスレヤ、これから2番艦分隊と海峡の北で合流する。合流地点の選定と、こっちの分隊への指示は任せた」
長距離連絡用レーダーで2番艦の居場所を見つけて、カーシュレの遠話で通話を始める。
「……そう、半島北部の地形調査は一時中断。今から海峡の北で合流。こっちは現地人を救助して、色々有益な情報を集めた。明日現地人の男性2名をそっちに移動させる。二人はラズエム=セグネールでは肩身狭いから早急に合流したい」
先に二人を3番艦に移してもいいけど、どの道クルジリオンでの外交工作のため2番艦に移動させる必要がある。ボートでの海上移乗は絶対安全ではないから、なるべく回数を減らしたほうがいい。
『現地人の男性をラズエム=セグネールに乗せたのですか?』
案の定、ケロスのじいちゃんは渋い反応を示す。
「ああもう、ファルナと同じことを言わなくてもいいよ。そっちにやってもらいたいことがたくさんある。救助した一人は南からの商人レンダース、2番艦分隊は彼の出身地クルジリオンに行って、一緒に商業ギルドに接触するように。あそこは共和国だから商業ギルドはかなりの権力者なはずだ。我々の力になってくれるといいね。それと、クルジリオンではできるだけ情報を集めて、レンダースの話はどこまでが真実なのかも確かめるように。もし事実と大きく乖離した場合なら、これからの方針について改めて検討しなければならないから、直ちに行動を中止するように」
クルジリオンという、西南にある大きい港町。どうやらそこがカリスラント人が初めて訪問する西の大陸の街になりそうだ。タシフォーネ島の攻略を控えているから、探検艦隊の存在はできる限り秘密にしたい。レンダースの話によれば、クルジリオンに城壁がなく出入り審査もしない、まさに自由港という名にふさわしい街だ。人目を避けて数人だけ入るのは難しくない。普通なら2ヶ月近いの長い航海の後では、乗組員はみんな街に入りたくてしょうがない。街の近くまで来たのに入れないとなると、反乱が起きてもおかしくない。でも私たちは規律正しい海軍だ。その点について心配はない。
『2番艦分隊がクルジリオンに行く間、アンネ様はどうされますか?』
「旗艦分隊は一度東に向かい、本国へ報告する。相手が海賊とは言え島を攻めると決めたから、ちゃんと状況を共有すべき。当地政権の領土と隣接する土地を海外領地に加えると情勢が大きく変わり、新しい情勢に対応するために追加の支援を要請する」
本国から補給品と増援をガンガン呼べる。これも私の探検が地球の大航海時代序盤との大きな違いだ。遠話による超長距離連絡体制があるからこんなことができる。使った金と資源以上の利益を国に還元するつもりから、ここは自分の身分や権力、使えるものは全部使おう。一回目の要請はトリスタ=フィンダール島発見直後の開拓関係の依頼。二回目はその開拓計画の大幅拡張(これは探検艦隊の依頼ではなく、トリスタ=フィンダール島の情報を精査した本国の判断)と、6番艦を修復するための魔導エンジン2基。これが三回目になる。今回は砦の攻略で消耗する弾薬や医薬品の補充、そして外交や情報関係の人員がほしい。
「その後はまた海峡付近で合流しよう。順調にことが運ぶなら、タシフォーネ島に攻め込む」




