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海軍王女アンネの異世界探検航海  作者: 海の向こうからのエレジー
チャプター4~タシフォーネの砦
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4-2 海賊砦の背景分析と、探検艦隊が取るべき道

「まずは海賊の砦がある島周辺の地形を見よう。リミア、説明を」


 この3日間ラズエム=セグネールは砦と海峡を監視して戦闘のデータを収集した。同時に2番艦の分隊は南へ進み付近の地形を調査した。それで作成した地図をテーブルの上に広げる。


「はい。砦の島はこちらで、海峡を挟んで、対岸にはかなりの規模の港町があります。建造物の数から概算すると推定居住人口は4~7万あります」


 このあたりの建築様式と居住スタイルがわからないからかなり不確かな推測になってるが、重要なのはそこじゃない。注目すべきのはこの港町と砦の位置だ。


「まだ調査した範囲は狭いが、どうやらこの海峡はかなり大きな半島の先端にあり、そして港町と砦が海峡の両岸を抑えています」


 地図にすれば非常にわかりやすい。この海峡が重要な航路になったわけだ。岬の街トンミルグみたいに、絶対に通過しないといけない急所ではないが、ここを利用できなくなると相当困る。


「半島の南部と北部を行き来する場合、海峡を通過するのが最短ルートとなります。もし砦の海賊のせいで海峡を使えなくなり、迂回ルートで行くなら帆船では1日半、天候が悪い場合2日以上遅れると思われます。許容できる範囲のロスではあるが、やはりかなりの損失になるでしょう」


 この場合、ただ経路を島の裏側の近海に変えるだけでは無意味だ。この3日間にも実際に2回商船が島の東で捕捉されたケースがある。海賊の縄張りを確実に回避したいなら、もっと東の沖合まで大きく回り道をする羽目になる。この島の位置はかなり厄介だからね。新時代海軍にとってこの回り道は大きなロスにならないが、天候の影響を受けやすい帆船ならできるだけ不確定要素を減らしたい。将来魔導スクリュー推進を採用する船が主流になったらこの海峡の重要性は下がるかもしれないね。


「確かに……こんな交通の要衝を、海賊に占拠されるまま放置するのは、考えられませんね……」


 海賊の取り締まりが難しい最大の原因は、彼らは神出鬼没だから。秩序を守るには海は広すぎる。どれほど難しいと言うと、魔力レーダーで広い範囲を探索できる新時代海軍でさえ西南海岸の海賊を根絶できないくらいだ。小規模の海賊なら普段は商人や漁民として街に溶け込めるが、規模が大きくなるとアジトを構える必要が生じる。基本的に人里離れた孤島など、発見されにくい場所を選ぶ。こんな目立つところを拠点にするなら、「討伐して来い」と言ってるみたいなものだ。もし海賊に正規軍を返り討ちにできるほどの戦力があれば、それも不可能じゃない。地球の歴史上にもそんな猖獗を極める大海賊がいた。でもこの砦の戦力は中途半端だ。弱いとは言わないが、とても正規軍の本気の攻撃を凌げるとは思えない。もう一つの可能性と言えば、地球のカリブ海にあった海賊黄金時代みたいに正規軍が存在しないなら、海賊たちは大手を振って歩けるし、街を築くことだってできる。でも偵察の結果を見るとここはそんな無法地帯ではないのははっきりとわかる。あの海賊の砦を存続させるには、どうしても外部の力が必要だ。


「もう一つ重要なポイントは、彼らは襲撃目標を選んでいる。襲われた船のほとんどは例の黄色紋様三本剣の旗を掲げていない。海賊行為だけでは大して稼げないから、おそらく通行料が主な収入源。あの三本剣の旗を購入すれば安全に海峡を通過できる仕組み」


「そして、その旗を販売して、通行料の徴収を代行しているのはきっと、対岸の港町なんですね……」


「そう。戦利品の処分や戦力の融通なども対岸の港町がやってくれるから、きっと両者は非常に親密な関係を保っている。まだ確証が持てないけど、あの港町の領主が砦の海賊のバックにいる可能性は高いね」


 それもただの地方領主じゃない。かなりの大物でないとこんな派手な真似をして無事で済むわけがない。もしかして、黒幕は一国の主どころか、複数の国が関与しているというのもありえる……


「アンネ様が懸念しているのは、私達がこの砦を攻め落とした後のことなんですね?必然的に、この海賊を支援している勢力と敵対関係に入るから……」


 サーリエミの実家は内海に近い、諸国林立の複雑な外交関係に理解がある。この状況がどれだけ厄介なのかわかってる。


「砦の攻略は多少の犠牲を覚悟する必要があるが、成功するでしょう。島を奪い返そうと向こうは艦隊を向かわせるだろうが、我々の海上の優位性を活かせば、海峡を封鎖して島を守り切るのは容易い。でも、その後は?探検艦隊はこの島に釘付けになるの?いつまでこの島を防衛する必要がある?本国から増援の艦隊が来るまで?その頃になると、西の大陸の住民は私たちのことをどう見る?いくら私たちが海賊を退治したと主張しても、よそ者の言葉なんて信じてくれないかもしれないよ?そんな状況になると、どうやって西の大陸を探索するつもり?場合によっては艦隊の補給でさえ大変だよ?」


 私は、探検がしたい。島の防衛と外交の後始末のためにここから離れなくなると、一体なんのために探検艦隊を作ったの?こんな風に思うのは、私のわがままなのかな?


「わたくしは、アンネ様がネガティブに考えすぎていると思います。悪い可能性ばかりに目を向けて、利点を見ていません。この島は艦隊活動の拠点だけでなく、貿易拠点としても非常に価値が高いです。この島をカリスラント人の活動範囲にして、対岸の港町と短距離貿易をすれば、アンネ様の計画のように接触を厳格に管理する体制を簡単に作れます。それにここは重要な航路ですから、各地から様々の交易品が集まってきてくれるでしょう」


「そうね。重要性が高すぎて相手はきっと本気になって、様々の手を講じて奪い返そうとするよ」


 確かに私は拠点がほしいとは言ったけど、こんな戦略価値が高い土地はいらない。理想としては、もっとこう……どうでもよくて、私たちが勝手に住み着いても誰も気にしないような場所が望ましい。そのほうが当地政権との衝突が少なくて済むから。


「利点はまだありますから。この砦を攻略、そして海峡を封鎖するのはカリスラントの力を示す絶好のチャンスです。アンネ様もそれについて悩んでいるでしょう?わたくし達が現地人にただ友好的に接するなら、いずれこちらを侮る不届き者も現れて、不要な衝突を引き起こしてしまいます。ここでまず砦の海賊を徹底的に潰しましょう。わたくしとは敵対しないほうが得策だと理解させるにはこれが一番手っ取り早いです」


「言ってることはわかるけど、なんでそんなに好戦的なの?力を示すなら、他にもいい方法は……ない、かもしれないけど……」


「アンネ様だってわかっている筈です。今から島を奪取すると色んな問題に対処する必要が生じますが、長い目で見るとこれが正しい選択になるでしょう」


「……他のみんなはどう思う?」


 私とファルナの意見が完全に対立したから、ここで一旦他の人の考えを聞いてみよう。


 すぐに攻撃すべきと思うのは、「この作戦は奇襲が勝敗の鍵だから時間をかければかけるほど気づかれるリスクが上がる」と、戦術の視点で考えるタスリカ。そして「海賊に情を掛ける必要なんてない」と、倫理的な観点から問題を単純化しようとするリエメイア。待つべきと思うのは、「まだ判断材料が足りないから今は情報収集すべき」と心配するホーミルマと、「もっと情報があれば外交問題を突破する糸口が見つけられるかも」と先を見据えるサーリエミ。そしてティエミリアは相変わらず人形みたいに何も言わない。


 慎重派に二人もいるが、彼女たちの考えは私と同じじゃない。ホーミルマもサーリエミも、海賊を攻めるつもりでいる。ただ「攻撃を始めるにはあと一つなにかが足りない」と感じるから今は待つべきと主張する。そしてその欠けたピースを見つけ出したらすぐに砦の攻略に着手できると考えてる。みんなの意見を吟味すると、リミアも同じ結論に至ったみたい。


「私の判断は……探検艦隊と海外領地どちらにも非常に大きい利益をもたらすから、この砦は攻め落とすべきです。でも後のことを考慮すると、やり方には十分気を使わないといけません。実行に移る前にもう少し情報を集めたほうがいいかましれません」


「……とりあえず、今日のところは結論を先延ばしにしよう。当初の予定は1週間観察に徹するから、そのときまでにもう一回議論する」


 艦隊の物資と士気に問題はない。みんなは私のことを信じてくれるからきっと待ってくれる。でも陸が見えてるのに上がることが許されないのは相当つらい。私たちの存在がまだ気づかれていないのは大きなアドバンテージだから、今はみんなに我慢を強いるしかないが、いつまでもこのまま海上に停滞するわけにはいかない。近い内に結論を出さないと……


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