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海軍王女アンネの異世界探検航海  作者: 海の向こうからのエレジー
チャプター4~タシフォーネの砦
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4-1 西の大陸の海軍戦力評価

――再誕の暦867年6月25日、探検艦隊旗艦ラズエム=セグネール、作戦室――


「次の戦闘は昨日の13時41分、海峡の真ん中西寄りで、海賊らしき集団の戦闘艦大型1隻と中型6隻が商船らしき船団5隻に襲いかかりました。この商船船団はかなりの戦力を保有、中に1隻船尾楼が高い、初めて見るタイプの大型艦がいます。これまでと同じく魔導バリスタの撃ち合いを中心に戦闘を展開、船団の中で3隻と、海賊側にも3隻が魔導バリスタの攻撃によってマストを喪失しました。海賊の無傷な船が4隻だけでは回収しきれないからか、それとも手痛い反撃を受けた腹いせに報復したからか、今回は鹵獲した船から戦利品を運び出して、火を付けて沈めました」


「生き残りの船員もろともに、か。恐ろしいことをするね」


「おそらく報復のためなんでしょうね。回収が困難だけなら砦から援軍を呼ぶのもできるはずです」


 西の大陸発見の3日後、私は参謀たちとこれまで集めた戦闘の観測記録をまとめて、研究している。情報を集めるためにこの数日気球班を酷使したが、おかげてこうして分析するのに十分な資料を揃えた。戦術分野だけでなく、魔導バリスタの迎撃に様々な魔法が使われた(多分それぞれの防御魔法士が自分が得意とする術を使う)から、西の大陸の魔法技術の分析にも役に立つ。


「次のは特に異質な戦闘ですね。昨日の18時22分、海峡の北東で海賊の中型艦5隻が所属不明の小型艦2隻を捕捉したが、マストの前に2人一組でタワーシールドを構えて、魔導バリスタの攻撃を防ぎました。海賊側はしばらく追撃を試みたが、日が落ちると暗闇で目標を見失い、諦めました」


「タワーシールドを持っているとはいえ、よくあんな大きいバリスタの攻撃を防ぎましたね。わたくしなら矢弾を弾くまではできると思いますが、多分踏ん張りが効かずに船の外まで吹き飛ばされてしまいます」


「そう!あれ、絶対普通じゃないですよ!一体どんな身体強化を使いましたの?」


「まぁジャイラにも同じことができそうけどね」


 この戦歴は本当に異質で、みんなの注目を集めた。目撃者であるゼオリムがそれを面白おかしく語ったのも原因かな。あの娘には講談の才能もあるのね。タワーシールドを構えてマストを守る――そんな防御範囲が狭い戦い方が通用するのは、バリスタの矢が確実にマストに命中するときだけだ。これでもう確定かな。仕組みはまだわからないが、あの魔導バリスタの攻撃には何らかの誘導機能がある……


「あの……どうしてアンネ様は魔導バリスタのことがそこまで気になるのですか?確かにあの異常な攻撃精度は評価に値しますが、射程は魔導砲に及ばないし、バリアを破ることもできません。こちらの脅威になるような兵器ではないと思いますが……」


「そうね。その認識は間違ってない。んー、どう説明すればいいかな……」


「サーリエミさん。アンネ様が注目しているのは魔導バリスタに使われている技術です。それを使ってわたくしたちの兵器を改良したり、新しい兵器を作れるかもしれません」


「そうそう、そういうことだ。説明ありがとう、ファルナ」


 今までの観測を基に分析すると、西の大陸の海軍の戦力は探検艦隊の脅威にならない。ザンミアルなど内海の伝統海軍強権にも及ばない。鍵となるのは「汎用バリア」だ。魔導バリスタがメインウェポンとして運用されているくらいだから、きっと西の大陸に「汎用バリア」の技術が存在しない。つまり内海の海軍戦術と比べると100年ほど遅れている。でもあのマストから絶対に狙いを外さない、驚異的な誘導技術は本当にすごい。どうにかこっちにも使えるようにしたいが……まぁ今はもっと重要性が高い議題がたくさんあるから、一旦後回しすべきか。


「遠距離戦の研究はこれくらいでしょうか。船のマストが撃ち倒されると、大体の場合は海賊に接舷されて白兵戦に移行します。しかし乱戦になると、観測員達はあまり参考になるような報告ができません」


 散発的な戦闘が続々と起きる乱戦を即時に観測して報告するのは難しい。これまで気球を使って接舷戦闘を観測することがあまりないのも原因だ。新時代海軍の基本戦術は遠くから魔導砲を撃つ、相手に何もさせない。移乗攻撃なんてやる機会は滅多にない。接舷戦闘が重要視されないのも当然だ。白兵戦の分野では、上陸強襲や港施設占領のほうが研究が進んでる。まぁ私たちが西の大陸の流儀に付き合う必要はない。新時代海軍の戦い方はこれまでと同じ、魔導バリスタより遠くから攻撃するから、白兵戦の詳細がわからなくても大した問題にはならないだろう。


「続いて、あの島を本拠地とする海賊集団の戦力を分析します。これまで確認できた海賊の保有艦船は合計37隻。マスト3本、魔導バリスタ2基搭載の大型戦艦が4隻。マスト2本、魔導バリスタ1基搭載の中型戦艦が12隻。同じようなデザインの中型艦だが魔導バリスタ非搭載、おそらく輸送用に使うのが9隻。その他小型艦船12隻。それなりの海軍戦力を保有しています」


「あの規模の艦隊を運用するにはかなり費用が嵩むと思いますが、本当に略奪の戦利品だけで維持できるのですか?」


「私達カリスラント海軍の基準で考えてはダメですよ。快適さを犠牲にすれば、経費を大幅に削れるはずです」


「タスリカさんの言う通りですね。でもその点を考慮に入れても、艦隊と砦を維持するために必要な費用を海賊行為で賄うのは全然足りないと思われます」


 リミアは私の指示で、それについて何度も条件を変えて計算してみた。このあたりの主力交易品や物価など、まだまだわからないことだらけだから、かなり雑な計算しかできないけど……どんなに高く見積もっても、海賊行為の収益だけであの規模の戦力を支えきれない。


「あの海賊たちが略奪を働く回数は意外と少ないですしね……」


 そう。海賊たちは非常に不自然な動きをしている。この海峡は非常に重要な航路、通過する商船らしき船団は多いが、海賊はその中の大半を見逃して、特定の相手しか襲わない。海上ですれ違い、明らかに相手を認識したにも関わらず。そんな海賊らしくない行動法則も、私の中にある仮説を支持する。


「砦の偵察も試みましたが、丘の上の監視塔があるから、迂闊に近づけません。対岸の港町に頻繁に出入りするから人数の見積もりも非常に困難です。艦船を運用する人員も含め、砦に駐在するのはおそらく700~800人程度です。地上の防衛施設は整えていますが、それをちゃんと稼働させていないように見えます。特に夜間の警備はかなり雑です。監視塔でさえ誰一人もいない時もあります」


 見られる側から気球を発見するのは意外と難しい。空に妙な物影があるように見えるだけだから。でもまだ気球の存在を知られたくないし、余計なリスクを背負う必要はない。今は地上の情報がちょっと曖昧なくらいで構わない。もし本当にあの島を攻めることになったら改めて調べよう。


「そんないい加減な防備でよく今まで討伐されずに済みましたね。それともそうならない自信があるから?」


「討伐隊が組織されると近くの港町から情報が入るのでしょうか。海賊なのに、街とはかなり深い関係を保っていそうですね」


「というか、鹵獲した船を港町に引き渡すみたいなこともやりましたよ?」


「逆に港町から船を引き取ることもありますし、両方で船を共有しているかもしれません。砦が保有する船の数に対して人数がやや少なめのも、それが原因でしょうか」


 共有するのは船だけじゃないかもしれない。戦力が必要なときいつでも港町から人を呼べるから、島に普段運用しきれないほどの船を待機させている。やっぱり、どう考えても……


「アンネ様、西の大陸に私達が自由に使える拠点がほしいなら、この海賊砦を攻め落とすのはどうでしょうか?相手の戦力は相当なものだが、奇襲を成功すれば最小限の被害で拠点を獲得できるかもしれません」


 海賊の拠点なら、外交関係に気を使う必要がなく直接武力行使できると、リエメイアがそう言ってる。でもリエメイア以外のみんなはもう気づいてる……いや、リエメイアだって、この砦は非常におかしいと感じてるはず。それでもとりあえず言ってみたってところかな。


「そんな簡単な話じゃないよ……この海賊の砦は、当地の政権と繋がってる可能性が極めて高いから」


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