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3-15 脱落者 2

 ファルナの胸の中で、感情が爆発した私は久しぶりに子供のように大泣きした。


「もうよろしいのですか?」


「……うん。もう大丈夫」


 なんというか、ストレスを発散できたから冷静になった。探検艦隊司令の重責はやはりかなりの負担になっているのね。探検自体が楽しいから今まであまり気にしていなかったが……


「私はちょっと顔を洗うから。ファルナは先に作戦室に行って、参謀全員を緊急招集して」


「わかりました」


 いくら泣き喚いても事態は良くならない。心を強く持って、みんなの知恵を借りて、現実と向き合おう。


 作戦室に入るともう参謀全員が私を待っている。


「待たせたね。すでにみんな何が起きたのかを把握していると思うが、状況整理のためにも、ファルナに一度説明を頼む」


 6番艦に火災が起きた時間、その後の艦隊全体の動き、そして被害状況の説明を終わったところで、ブリッジから遠話通信が入った。


『報告します。艦隊全体の集合完了しました』


「わかった。しばらくはそのままに……さて、6番艦の航行スピードが1/4以下になったので、このまま全員で西の大陸へ行くことができなくなった。これからどう動くかと決める前に、まずはみんなの意見を聞きたいと思う」


「一つ疑問に思うのですが……もう西の大陸まであとわずかのところに来ましたし、残りの道程を6番艦の速度に合わせて行けばいいではありませんか?幸いこの前は島で休息をとったばっかり、物資もまだ余裕がありますし……」


 最初に挙手したリエメイアから出たのは希望的な提案。できれば私もそうしたい。でも艦隊の全責任を負う者として、回避できるリスクをわざわざ背負うような選択はできない。


「そう。西の大陸に着くだけならなんとか行けそう。でも今の6番艦ははっきり言って、足手まといにしかならない。向こうの状況がわからない以上、連れていけない」


「そんなぁ……」


 天文台の巨大魔力レーダーによって、すでに私たちが向かう場所に人間の活動を確認できた。当地の住民が私たちに敵意を抱く可能性もある。そんなとき、満足に動けない6番艦は艦隊全体の弱点になる。でもリエメイアの気持ちもわかる。私だってすごく悔しいの。あと一歩のところまで来たのに、彼らから夢の続きを見る権利を奪うことになるなんて……


「……6番艦を、あの島に置いていくしかないと思います」


「私もそれが最善だと考えています」


「やっぱり、どう考えてもそれが一番に思えるね……」


 ここから東へ350KMのところにある、あの大きい無人島も決断を影響する重要なファクターだ。もしあの島を発見できなかったら、6番艦に安全な退避場所がなく、今以上に困る事態になっていた。海の魔物の脅威を考えると、スピードを出せない6番艦を本国に送り返すのは距離的に不可能。それならもう一か八か私たちと一緒に西への旅を続くしかないか。


「ファルナ、なにか別の案はないか?」


「……ごめんなさい。わたくしにも、それ以外の考えが浮かびません」


 いつものように、ファルナに私の意見に反対してもらうようにしたけど、今回は選択肢がなさすぎて考えが一致したのね。


「アンネ様、これならどうでしょうか。他の船からエンジン1基を取り外して6番艦に組み込みます。こうすればスピードが少しだけ落ちる船が2隻になります」


「そうか。手間がかかる作業だが、あの島でなら実行可能か……」


 ほぼ動けない船1隻の扱いは難しいが、機動力若干低下の船2隻ならだいぶやりやすくなる。参謀の他にメカニックの実習も受けたリエメイアならではの発想だね。


「……やっぱりダメだ。設備が足りない状態でそれをやるのは許容できない。最悪の場合損傷した船がもう1隻増える。犠牲を強いられる船をどうやって選ぶかも問題だし、その乗員たちの不満も無視できない」


「……はい」


 提案を却下されたリエメイアはあからさまに落胆する。彼女の策に欠陥があるから採用できないが、実は私の中での評価は高い。何より、仲間を見捨てたくないから一生懸命考えるその気持ちに共感できる。今は事態への対処が先決だが、後で機会を作って褒めてやりたい。


「他に意見がないなら、6番艦をあの島に置いていくで決まりだね。引き返すついでに、一度(アルトー=アファンドリ島経由で)本国に連絡を入れたほうがいいか」


「そうでしたら……二手に分かれたほうがいいですね。6番艦と同行する分隊と、連絡役として先を急ぐ分隊に」


「そのほうが効率がいいね。私が直に話したほうが早いから、連絡の分隊にラズエム=セグネールを入れよう。島に着いたら6番艦の乗員に投錨地と仮設ベース周辺の整備を任せよう」


「6番艦に島の整備をさせるなら、ティランズさんも拠点開拓のメンバーに入れるのはどうでしょうか?」


 そうだ。ティランズは陸軍の軍需品担当官だったから、地上の拠点整備は私たちよりも上手にできる。先週の島での探索でもかなり役に立ってくれた。ホーミルマの提案通りにしよう。


「いい考えだね。ティランズの家族も島に降ろしたほうが良さそう。さっきの計画を変更して、ラズエム=セグネールは島に行く分隊の指揮を執る」


 ティランズと家族たちは海軍の人間ではない。彼らは長い航海でかなり消耗している。特に幼いメーミィちゃんが心配だ。健気に我慢しているが、本当はもう限界みたい。


「それなら連絡に行くのは2番艦ミレギーレ=トリンヤになりますが……ティランズさんは2番艦に乗っているのですね?ボートで移乗させますか?」


「ああ、3番艦に移動させよう。でも夜でやるのは危険だから、明日の朝からにしよう」


「7番艦に重傷者1名いますので、彼を地上で静養させるため島に行く分隊に入れるのはどうでしょうか」


 ホーミルマが言ってる重傷者は、島の探索中で蜂の魔物の毒にやられて、左腕切断と欠損治療ポーションの処置を受けた海兵だ。彼はもう回復に向かっているが、静養するなら確かに船より地上のほうがいいね。


「そうね。救護隊はどのくらいの時間が必要と言った?」


「リハビリも含め1ヶ月か、1ヶ月半が必要と仰いました」


 それからみんなで色々細かい調整をして、あの島まで引き返すの計画を作成した。



――再誕の暦867年6月18日、無名の島、臨時本部――


「アンネ様、お疲れ様でした」


 2番艦に中継をしてもらい、2400KM先のアルトー=アファンドリ島にいるスタッフとの通話を終えると、ファルナが水を用意してくれる。


「予想以上に増援の規模は大きくなりそうね。しかも内海諸国まで引き込むとは」


「しかし、鉱山探査の人員を送り込むのはさすがに性急に過ぎませんか?」


「そうだよね。北の山脈へ行くにはこの投錨地からは遠すぎる。まずは山の近くに船が停泊するのに適する地点を調査しないと……でも仕方ないよ。これは、政治的な判断が入ったから」


 お父様は海外領地の開発に力を入れる姿勢で、内海に対する野心がないをアピールするつもりだ。本当は内海諸国の力を借りる必要はないが、彼らに一部の利益を譲るまで巻き込もうとしてるのは、経済的繋がりを作りたいからだ。カネミィーム共和国から鉱山開発の専門家を招聘するのもその一環だ。まだ何もないこの島で彼らを迎え入れるのは大変だけど、ティランズと6番艦のみんなに頑張ってもらうしかない。


「もしこっちに来るメンツに尊い身分のお方がいれば、出迎えに私も(海外領地総督として)顔を出す必要があるかもしれないわね……まぁいい方に考えると、補給状況は大幅に改善する見込みだ」


 一番の朗報は、エンジン工房に私が激怒したのを伝えたら、謝罪の意を込めて大至急に替えのエンジンを用意すると返事してくれた。生産が順調なら、増援とともに来る補給品に新品の魔導エンジン2基が入る。こっちに無事届けたら6番艦は復帰できるね。


「アンネ様、6番艦が指定地点に到着し、投錨しました」


 停泊作業が終わったと海兵の伝令が報告しに来た。6番艦は3番艦に曳航してもらってるから、私たちと7番艦が先に島に降りて通信を終わらせることにした。


「わかった。私たちも行こう」


 船着き場にすでに6番艦の乗員全員が私を待っている。荷物の運搬作業などはまだ済んでないがそれは後回しだ。西の大陸の発見者になるチャンスを失った彼らのために、今から私は別の栄誉を贈る。


「残念なことに、6番艦トリスタ=フィンダールはエンジントラブルのせいでしばらく艦隊と同行することができなくなった。しかしこれで意気消沈する必要はない。あなたたちの旅がここで終わるわけではないから。本国からの補給品が届く次第、船を修復してまた合流できる」


 言い換えると船が直るまで6番艦はこの島から出られない。もちろんここで彼らに無駄の時間を過ごさせるつもりはない。


「この島に滞在することになったあなたたちに重要な任務を与える。これから来る増援のためにこの島の基礎施設を整え、彼らを万全な体制で受け入れられるようにしなさい。あなたたちのために新しいエンジンを運んでくれるから、ぐれぐれも彼らに不便をかけないように」


 我々海軍にとって地上の拠点構築は専門外だから、6番艦の乗組員だけにやらせるのはちょっと不安だが……まぁそこは元陸軍軍需官のティランズの腕の見せ所だ。


「最後に、この任務に従事するあなたたちに一つ朗報がある。今この瞬間から、この島はトリスタ=フィンダール島と名付けられた。カリスラント最初の海外入植地を開拓した者として、6番艦の名前が歴史に刻まれるのだ」


 西の大陸発見の名誉の代わりにこの島の名前を差し上げる。私にできるのはこれくらいだ。


 演説の後、出航の準備が終わるまで私たちは臨時本部で一休みを。


「……しかし、ちょっと残念なことになったね。本来ならこの島は、リミア島になるはずだったのに」


「え゛……どうしてなんですか?」


「だって、この島での一番重要な出来事はリミアの叙勲式だったでしょう?」


 複雑そうな顔のリミアがホッとするような反応を示す。あれ?どうして?


「リミアは、自分の名前が地名になるのが嬉しくないの?」


「その、なんと言いますか……恥ずかしくありませんか?部隊の名前が使われるのならとても誇らしいことなんですが、自分の名前はさすがに、ちょっと……」


「わたくしの所見なんですが、おそらく……ダルシネ=ルーデアの称号はアンネ様にとってあまり喜ばしくないのと、同じなんじゃないかと思います」


「んむ……そういうものなのか」


 人によってはこういう目立つな名誉が好きじゃないってこともあるね。これは注意が必要だ。褒章で喜ばせようと逆効果になったらまずいね。


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