2-APPENDIX(3) バリア魔法の進歩とその応用による海軍戦術の発展
読み返してみるとバリア関係の戦術条件がちょっと難解かもしれないような気がしたので、ちょっと裏設定なども含めて蛇足とも取れる説明を追加しました。
「汎用バリア」は8世紀中葉に、ティレムズ共和国の魔導学院で誕生しました。そのベースとなるのは魔導帝国時代から受け継がれた「抗魔力バリア」だが、魔法相手にしか効果がない「抗魔力バリア」と違い、「汎用バリア」は魔法以外の攻撃をも防げます。この画期的発明は戰場の環境を大きく変えました。
高度な魔法技術を海戦に用いて、内海東岸で一大勢力を築いたティレムズ共和国でしたが、8世紀頃から度々内海西岸の強権ザンミアル王国の挑戦を受けるようになりました。「状態保持」の魔法を使う、安定性抜群のザンミアル軍艦では、より大型で強力な投射兵器を運用できるようになりました。その異様な見た目はまるで海上の攻城兵器みたい。攻撃魔法以上の威力と射程(接近しないと抗魔力バリアを貫けないから攻撃魔法の有効射程は意外と短い)を持つカタパルトとバリスタによって大きな損害を受けたティレムズは、その対抗策を模索して編み出した新技術が「汎用バリア」となります。
「汎用バリア」の技術自体は特に難しくありません。バリアに通す魔力を増やして変質させ、魔力がない物質にも干渉できるようにしただけです。仕組みは単純だが魔力の燃費がどうしても悪くなり、「抗魔力バリア」のように長期間展開し続けることができません。でも海戦で投射兵器を防ぐにはただ被弾直前の一瞬だけ展開すればいい。ザンミアルの海上攻城戦術を崩すのに十分でした。ティレムズはこれで海上競争の優勢を取り戻したが、「汎用バリア」がもたらした影響はこれだけで終わりません。その新技術の可能性に目をつけたアファンストリュ帝国はスパイを使って「汎用バリア」の秘密を盗み出し、カリスラント王国との戦争に使い始めました。ザンミアルも帝国に大金を支払いその技術を購入、最終的に「汎用バリア」の魔法が大陸全体に普及しました。
地上の戦いでも「汎用バリア」は戦場を一変させたが、工夫すれば燃費悪い弱点をつくことも可能だから、弓矢などの投射兵器は完全に無力化されていません。ただ使い道が大きく制限されまして、配備されることが大幅に減っただけです。内海北部の山岳地帯など、一部の地域では攻撃魔法と弓矢を併用する波状攻撃が主流の戦術になりました。この戦術に対抗するには長続きする「抗魔力バリア」と弓矢を防げる「汎用バリア」を器用に使い分ける必要があるため、防御魔法士の技量が足りない場合うまく対処できません。
理論上すべての攻撃を防げる「汎用バリア」は、もちろん剣や槍などの近接武器にも有効だが、魔力消費が激しいから弾かれてもすぐに次の攻撃を繰り出せる白兵攻撃を長期間防ぐのは非現実的です。それでも近接戦闘で「汎用バリア」の使い道はあります。例えば他の仲間が反撃するための一瞬の隙を作れるし、他にもいろいろな応用法があります。運用方法が増えるのは上層部からするとありがたいことだが、様々の状況を想定する、2種のバリアを臨機応変に使い分ける防御魔法士の訓練は非常に大変なものになりました。
9世紀に入ると、ティレムズとザンミアルの覇権争いがますます激化しました。第一次フォミン継承戦争でザンミアルは一度主力艦隊の大半を失いましたが、その後再建した艦隊は50年間海の支配者として名を轟かせる、あのジーカスト艦隊でした。ジーカスト艦隊の基本コンセプトはより大型化、より多くの魔法士を乗せて、より多数の攻撃魔法とバリアで相手を押し潰す、とにかく物量を重要視します。個々の魔法の腕を磨く、魔導エリート主義のティレムズを圧倒するために正反対の方針を選びました。
820年頃から局面はだんだんザンミアル有利になりました。フォミンと西南海岸貿易の富を手に入れたザンミアルと未だに外洋に出れないティレムズの国力差が広がる一方。それもザンミアル艦隊の数というわかりやすい形で海軍実力に反映しました。やがてティレムズ共和国は国の至宝である「シリンティアの巫女」、「ダルシネ=ルーデア(海神の娘の化身)に最も近い人間」とも言われる切り札を戦場に投入しました。彼女の水魔法は凄まじく、超長距離から狙撃、しかも敵の目をかいくぐり海面下から発動、どんなバリアでもその見えない攻撃を防げません。ザンミアルに甚大な被害を与えました。しかし824年のクルリェジアの戦いでザンミアルは多大な犠牲を払いどうにか白兵戦に持ち込むのに成功し、壮絶な乱戦の中「シリンティアの巫女」が討ち死に。国の至宝を失った責任を取らわせられ、ティレムズ海軍提督スタイダーンは議会の査問会で自害しました。クルリェジアの戦いは痛み分けで終わったが、替えが効かない人材を2人も失ったティレムズはもうかつての勢いがありません。831年のタミヤージェルの戦いでザンミアルが決定的勝利をして内海の新たの覇者として君臨するようになりました。諸国の海軍戦術も次々と大量の攻撃魔法とバリアをぶつけるザンミアル式を採用、ロミレアル湾の戦いでジーカスト艦隊が滅ぶまで物量主義が海軍戦術の主流になりました。
カリスラントの新時代海軍が使う魔導砲と燃焼弾は「汎用バリア」に対して初めての有効兵器となりました。ばらまく錬金燃料がバリアの表面に付着し、そのまま燃える。そしてバリアが切れる瞬間、中で守られている人間に牙を剥く。一説によるとアンネリーベル王女は「汎用バリア」の特性を意識してその天敵になるように燃焼弾を開発しました。




