2-APPENDIX(2) 大陸西側の主要国家(地図付き)
――カリスラント王国――
大陸西南の大国。広い平野と草原で豊富な農畜産物が産出される。反面金属資源が乏しい。
カリスラント人は元々大草原の騎馬民族。全盛期のアフェングストリア魔導帝国でも、機動力が勝るカリスラント諸氏族の遊撃戦に対抗する手立てがないから大草原を征服できなかった。魔導帝国滅亡後の難民を受け入れて、カリスラントは急激に成長して封建王国に変わった。
自国のことをよく「碧き空まで続くカリスの草原」を始めとする文言で表現する。例えば外国への親書の冒頭定型文なら「碧き空まで続くカリスの草原を統べる王より」。本来の国民性は誠実、謙虚、寛容。しかしアファンストリュ帝国との長年の敵対で、何度も騙し討ちに遭ったせいで警戒心強い一面も出来上がった。
政治体制は典型的な封建王国。貴族領主の力が強いが、国民性からなのかあまり勝手なことはしない。国内政局は安定している。西南海岸貿易ルートが開拓されてから、その関税収入を使って国王直属の軍団を設立した。宿敵アファンストリュ帝国の宣戦布告なし攻撃に対抗するため、政治体制はまだ地球の中世相当だが軍事体制は近世に進化しつつある。
国土中央部はカリスの草原(大草原とも呼ばれる)。草原外周部西にカリスラント王都、さらに西に港町サーリッシュナルがある。サーリッシュナルは西南海岸貿易ルートの終点として繁栄している。元々はザンミアル商人が築いた貿易拠点だったが、新時代海軍の登場からザンミアル人の勢力がだんだん低下して、最終的にカリスラント海軍の本拠地となった。サーリッシュナル周辺はセラーエリクル公爵家の領地だったが、貿易拠点としての重要性が高まった頃で領地替えの形で国王直轄地に。海と縁があったから、セラーエリクル公爵家はカリスラント海軍の創立と深く関わった。北部はアファンストリュ帝国との国境地帯。国境線に山脈があるが、越えるとほぼ平野部で防御に適しないから、北部は巨大な城塞都市に人口が集中する傾向がある。東部はザンミアル(北)とフォミン(南)に接する。サーリッシュナルの他に重要な港はフェルテジ(サリサラス海と西フォミン海の境界線となる岬にある)やテーツ(ロミレアル湾が陸への突出部、フォミンとの国境に近い)などが挙げられる。
カリスの草原固有種の8足馬ティアバンはカリスラントの代表的特産。ティアバンの生態は非常に不思議。カリスの草原を離れると子世代で6足馬のティアラルバンが生まれ、孫世代になるともう普通の馬に。だから国外でティアバンを繁殖させるができない。正真正銘カリスラント独自の特産。逆に外から普通の馬がカリスの草原に移住すると子世代でティアラルバン、孫世代でティアバンになる。人々は大草原になにか不思議な力があると考えるがそれを未だに解明できない。封建王国化によって歩兵や魔法兵も部隊に加えることになったが、ティアバン騎兵は今でもカリスラント陸軍の顔。他国と比べると騎兵の比率が異様に高い。ティアバンは普通の馬より速くて力強いが、それ以上に重要なのは8本足によるバランスと回転能力。その回転能力を活かすティアバン騎兵の反転逆襲戦術が、「カリスラント軍を追撃する時はいつだって命懸け」と言う有名なフレーズを生み出した。
ティアバン以外に輸出している主な産物は、安価で高品質な穀物、野菜、家畜、各種畜産品。熱帯に近い南部では茶葉と砂糖の栽培もあるがいずれも二級品と認識され、主は国内で消費される。第三世代錬金術の登場によって各種錬金産物、そして副次的にガラス工芸品も新しい特産になった。
――アファンストリュ帝国――
大陸西北の大国。国土は非常に広いが、寒冷地と山岳地帯が多いから、人口はカリスラント(国土面積は帝国の6割ほど)より少ない。
カリスラントと同じ、その環境ゆえアフェングストリア魔導帝国に征服されることなく、魔導帝国滅亡後の難民によって急発展した。後にアファンストリュ帝国初代皇帝となった、最初に西北高地諸部族を統一した族長は旧魔導帝国の姫君を妻にして、自分こそが魔導帝国の正統後継者だと喧伝する。しかし一般的にはアフェングストリア魔導帝国皇族の直系血筋は帝都が滅んだ時で途切れたと思われる。その姫君の出自は不確か。旧魔導帝国の貴族女性が皇族だと偽った説が有力。ちなみにアファンストリュという国名はアフェングストリアが訛った結果。
政治体制は属州制と封建制並行。皇帝の力が直接届く場所は属州にして総督を置く。そうでない場所は公爵や辺境伯など大貴族の領地になっている。国内政治は陰謀と悪意に満ちて、政敵を陥れるなど日常茶飯事。大貴族は皇帝の束縛をなくす、そして皇帝は大貴族の力を削ぐことに腐心する。総督の反乱や大貴族による帝位簒奪の企みも過去に何回も起きた。
南部でカリスラントに接する。その豊穣な土地を常に狙っている。数百年間何度も戦争したが未だに決着を付けることができない。東部の隣国は内海諸国、南の方はザンミアルと接する。ザンミアルはカリスラントと同盟関係だったため、西南海岸貿易ルートの終点はサーリッシュナルとなった。帝国はその恩恵を受けられない。代わりに北海岸貿易で大陸東側の国と交流している。内海の特産品は陸路ルートでザンミアル以外の国から輸入する。
過酷な環境で形成したアファンストリュの国民性は欺瞞、利己、報復的。特に復讐は重要視される。相手がこっちに妙な気を起こさないように、やられたら徹底的に報復するのが一番の防御策とみなす。
――ザンミアル王国――
領土面積と人口を見ると中型国家のザンミアルだが、経済と技術力は一流強国、海軍なら直近までは世界覇権。作中で「100年間優位性を維持できた」や「36年前の戦いで覇権を確立した」などザンミアルの海上の優位性について矛盾しているように見える記述があるが、要するに昔からザンミアル海軍は最強の一角ではあるが、本篇開始の36年前までは、まだザンミアルと対等に渡り合える他の海軍強権が存在していた。つまり同格のライバル(何度か名前だけが話に出たティレムズ共和国のこと。いずれ物語の本筋に関わることもあるかもしれない)がいて時にはザンミアルが敗北することもある。36年前の大きな戦いでそのライバルを再起不能にさせたことによって海ではザンミアル一強の局面が確定した。カリスラントの新時代海軍が登場するまで。
地理と文化的に見るとザンミアル王国は内海諸国に属するが、歴史の必然が彼の国を別の方向へと導いた。魔導帝国を崩壊させた魔物氾濫の中、内海西側の帝国心臓地帯では港都タリサミングは唯一無事だった街。「絶対防衛圏」の遺産と海上輸送があるから、絶望的な状況を3年も耐えた。おかげてたくさんの魔導帝国の優れた技術が失われずに済んだ。それでタリサミングは「文明存続の灯台」の別称を得た。
魔物の脅威が去り、再誕の暦2世紀から内海で覇権争いが始まった。都市国家タリサミング共和国が雇ったザンミアル傭兵団は敵対都市を制圧してタリサミングへ帰還したが、議会は報酬を支払うのに渋った。しかし議会は一つ大事なことを忘れた。内側からの攻撃に対して「絶対防衛圏」はなんの役にも立たない。怒りの傭兵団は議会を制圧して新政権を立ち上げた。団長は傭兵王ズルムスと名乗り、ザンミアル王国の建国を宣言した。タリサミングと制圧した2つの都市、更に2つの都市を攻略して、建国3年目でもう内海の強国になった。しかしそれからは多数の都市国家の連盟に阻まれ、さらなる拡大は叶わなかった。
首都タリサミングは「絶対防衛圏」の遺産で鉄壁の守りを誇る。そして強大な海軍で海上交通線を確保。地球のビザンツ帝国が長らく生き延びた戦略と似ている。内海の覇権争いでザンミアルも何度か劣勢に強いられ、追い詰められた時がある。でもいつもタリサミングの防衛を経て最終的に逆転、もしくは痛み分けに持ち込む。
ザンミアルの政治体制は権力集中の王政。封建貴族も存在しているが所有領地が多くない。貴族たちは土地より、軍事と商業の特権が力の源となる。内海貿易で諸国の特産品を集めて、西南海岸貿易でカリスラントに輸出する。それで莫大な富を築いた。しかしその富を元手に無節制な拡張とばら撒き外交を繰り広げたため、カリスラント新時代海軍の登場による貿易税激減は国家の財政危機にまで発展した。
手酷く裏切られたため、敗戦後のザンミアルにもっと厳しい制裁を下すべきとの声がカリスラント国内にあったが、王家はもっと先のことを見据えた。これからは探検の時代。西の大陸への進出が最優先だから、ザンミアルには内海方面の緩衝国としての役割を与えてある程度の再興を許すべき。それでザンミアルにこれまで通り、内海諸国の特産品を集める役目が与えられた。カリスラント商人はより高い利益が見込める大陸間貿易のために西へ。昔ほどにはいかないが、西南海岸貿易ルートの利益を半分取り戻して、ザンミアルはカリスラントの属国になってもそれなりの力を維持できる。
――フォミン王国――
大陸西側の南端っこの中型国家。気候と地形が複雑、熱帯ジャングル、砂漠、山岳地帯が入り乱れる。大陸では貴重な砂糖、果物、染料、香辛料など熱帯の特産品の産地として知られるが、とても管理しづらい土地でもある。
アフェングストリア魔導帝国の時代では帝国の植民地だった。あの頃から統治が難しい土地として知られる。それに広範囲翻訳効果があるカネミィームの伝意塔の範囲外だから先住民とは言葉が通じない。結局魔導帝国はフォミンを直接支配することを諦め、当地の貴族たちに高度な自治権を与えた。フォミンの熱帯特産品が内海へ問題なく届く限り過剰な干渉はしなかった。魔導帝国滅亡の時、魔物氾濫はフォミンにも来たが距離が開いてるため内海ほど壊滅的被害はなかった。より上位の支配者がいなくなったため自然とフォミン王国が生まれた。
政治体制は高度地方自治の封建王国。初代フォミン王は貴族たちの支持を受けて建国したから、貴族たちは自分たちこそが国の要という意識が高い。首都セミリエに3年一度招集、有事の際臨時会を開く貴族総会は国王以上の権力を持つ。国王が権力を集中させようとするたび軋轢が生じる。それで8世紀末から長年に続く貴族の反乱によって収拾がつかなくなり、フォミン王は縁戚のザンミアル王に助けを求めた。しかしザンミアルの援軍が反乱を鎮圧したら、今度はフォミン王に国を治める力がないを理由に退位を要求。ザンミアル王が新たにフォミン王として即位して連合王国成立を宣言。
ザンミアルの侵略行動に内海諸国の危機感が高まり連盟を結成、他の王位継承権を持つ人間を擁立。同時に退位したフォミン旧王を支持する貴族勢力も現れ、三つ巴の第一次フォミン継承戦争が勃発。フォミン貴族の裏切りによってザンミアル艦隊がトゥーリーストの港の中で殲滅され、序盤はかなり情勢不利だったが、最終的に痛み分けに持ち込んで、和平交渉でフォミンは3人の王による共同統治になった。そんな不安定な体制が長らく続く筈もなく、数年後第二次フォミン継承戦争に。今回はザンミアルが十分な用意をして苛烈な攻勢を展開。内海連盟が担ぎ上げた王は敗北して自害。フォミン旧王は降伏して、実権がない旧王家として存続が許された。ここまで来ると貴族総会もザンミアルの支配を承認するしかない。ザンミアル=フォミン連合王国の体制が確定となり、865-866年の大西方戦争の敗北まで50年以上続いた。
連合王国として生まれ変わってもフォミンの本質は昔のまま。この地を治めるためザンミアルは昔の魔導帝国と同じ策を取った。当地の貴族たちに高度な自治権を与え、ザンミアル商人が自由に商売ができれば多少のことは目を瞑る。フォミンは熱帯の特産品を供出、そして西南海岸貿易の中継地点としてザンミアルの海上商業帝国に大きく寄与したので、この政策は成功だと言える。最高の天然港湾を有するトゥーリーストは西南海岸貿易ルートの要所とザンミアル海軍の重要拠点となった。
後ザンミアル時代で代わりにカリスラントと連合王国を組むことを貴族総会が望んだ。ザンミアル支配下の50年間はフォミン貴族たちにとって一番都合がいい時期で、彼らは味をしめた。しかしカリスラントはそんなゆるい体制が正しい答えではないと考え、フォミン旧王家を復権させて属国にした。
――付録:大陸西南海岸地図――
白い線=国境線
大陸西四国以外の領域=内海諸国の領土
船=西南海岸貿易ルート
A 港町サーリッシュナル
B カリスラント王都
C カリスの草原(大草原)
D サラサーレル造船所
E フェルテジ
F ティウム
G テーツ
H ロミール
I クルゼサー島
J フォミン首都セミリエ
K トゥーリースト
L メリース
M 中立都市国家トンミルグ
N ザンミアル首都タリサミング
O ケスラティリ
P ラーズリ




