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海軍王女アンネの異世界探検航海  作者: 海の向こうからのエレジー
チャプター2~カリスラント探検艦隊、艦隊行動訓練
29/159

2-11 参謀に求めるもの

――2分後、作戦室――


 作戦室に入ると、話し込んでるタスリカとホーミルマ、そして実習生の二人が立ち上がって挨拶をしてくれる。


「艦隊の物資管理の実習だと聞いたけど、なにか問題があるの?」


 実務ではそれぞれの艦で物資の管理を行っている。私たち艦隊階層の人間は上がった報告をまとめて全体の状況を把握するだけ。特に疑問に思うところはないと思うが……既にティエミリアから水当番に関する話だと聞いた。昔はそんなことよくあったね。「あんな雑用は上に立つ人間のやることではない」と拒否されるのを。今は意識改革が進んであまりそんな話を聞かなくなったが……実習生のリエメイアとサーリエミ、二人とも高位貴族なのね。そんな考えを持っても不思議ではない。


「アンネ様、本当に海兵以外の全員が水当番をやるのですか?誰一人例外なく?」


 古くから海上で航行中は「水生成」の魔法で真水を補給する。カリスラント海軍では毎日交代の担当者が就寝する前に全魔力を真水に変換する。それを水当番という。いざ白兵戦のとき戦力としてカウントされ、みんなを守る義務がある人だけ魔力温存のため水当番が免除される。それに該当するのは海兵隊、そしてファルナみたいに海兵所属じゃないけど同じ訓練を経験して船上戦闘エキスパートの検定に合格した人。


「ええ、そうよ。士官学校でも学んだでしょう?海軍では出身など関係なく、みんなが与えられた役割を全うすることが大切なの」


「仰ることは理解しています。でもアンネ様は別なんです!」


「そうです!アンネ様がやるべきことではありません!どうしてもと言うのでしたら、私達の当番を増やせばいいです!」


 ……あれ?なんだが想像してたのとちょっと違うけど……そうか、私のことだから、私自身の言葉じゃないと納得してくれないのね。


「私や他の上位者の魔力でも、使わないと無駄になるだけ。資源はできるだけ効率的に運用しないとね。それにこういう日常的仕事をみんな平等でやると連帯感が生まれる。大切なことよ」


「しかし、義務の免除を特権の一種として扱うこともできます。みんなの向上心を刺激するのに役立ちます」


 確かにその通り。リエメイアは意外といいところに目をつけたね。でも水当番の免除は特権として扱うには不適切だと思う。なんというか、まずはしょぼい。ありがたみがない。あと、向上心の刺激なら今でもちゃんと機能してる。やりたくないならファルナのように船上戦闘エキスパートの検定を受ければいい。そういえば私も一応自分の身を守れるように海兵の基本的な白兵戦技術を身に着けたし、多分検定に合格できると思うが……やめとこう。本末転倒だとファルナに説教されるのはごめんだ。


「特例を作ったら、頑張って戦闘検定を受けた人たちには悪いと思うの。それに、実を言うとね、魔力を全放出すると心地いい倦怠感に包まれて、普段より気持ちよく眠れるよ。あなたたちも経験してみればわかると思うわ」


 私だけじゃない。同じ感想を抱く人はそれなりにいる。それでも水当番を嫌う人が多いのは拘束時間と作業環境のせい。物資を保管する、じめじめする下層船室に20分くらいいなければならない。まぁ私の場合ファルナが隣でおしゃべりに付き合ってくれるのでしんどいと感じることもない。


「だから言ったでしょう。全く、姫様にご足労をかけて……」


「「申し訳ございません。私達の考えが足りませんでした」」


 甘やかす訳にはいかないので何も言わないけど実は私は全然気にしてない。それよりリエメイアとサーリエミが珍しく同調して、仲良さそうにしてることに嬉しく思う。まぁこれは一時的な共同戦線で、またすぐに険悪になるだろうけど。


「ファルナさま、昨日の演習についてちょっと思うところがありますが……」


「はい。なんでしょう」


 ホーミルマに呼ばれてファルナは席についた。私も隣に座ってタスリカが用意した資料を一緒に読む。


「ファルナさまのダメージ判定をまとめて見るとこんな感じなんですが、火の回りの計算が少し早すぎるように思えます。ファルナさまが被害を判定する基準はおそらく先の戦争のデータなんですが、カリスラントの船にマストと帆布がないので、もう少し持ちこたえられるんじゃないかと言うのは、私とタスリカさんの意見です」


「それはわたくしも思いました。しかし我々の新型船が実際に燃焼弾の攻撃を受けたことがないので、どう判定すればいいのか非常に悩ましいところでした」


「あまり深く考えすぎると演習にならないので、先の戦争のデータを使うように私が命じたの。同じ条件が双方に平等に適用されるから演習としてそれで問題ない」


 まぁその日が特に乾燥していて燃えやすいと思えばいい。気象条件ってやつよ。


「やはりそうですね……今は帆船が相手の実戦データを使うしかないでしょうか」


「んー、廃棄処分の船があれば実弾射撃の的にしてデータを収集できるが……海軍の船はどれもまだ新しい、当分は現役のまま……もう使ってない船は、タリン=クルージしか、」


「「「「「ダ、ダメです!」」」」」


 ちょっ、反応しすぎよみんな!気持ちはわかるがせめて人の話を最後まで聞いてほしい……タリン=クルージは試作新型船の中でも最初期、カリスラント海軍にとって非常に歴史的価値がある船。それに私とファルナの思い出の船でもある。私が初めて海に出て、艦長のファルナに抱きついて泣いちゃったのはそのタリン=クルージの上だから。ぞんざいに扱うわけないじゃない。


 ファルナと参謀二人、そして実習生二人からも激しい反対を受けて、私が慌てて「そんなことするつもりはない」と保証するところで、サーリエミが挙手して発言の許可を求める。


「一つ思いついたのですが、ザンミアルの船を実弾射撃に使うとき、予めマストと帆布を撤去して我々と同じ耐火防護を施せば、かなり近い結果を得られるんじゃないでしょうか?」


「っ!それだ!なんでそんな簡単なことに気づかなかったのか」


「後は消火作業のシミュレートもすれば、かなり参考にできる結果になると思いますね」


 作戦室の中でただ一人動じなかったのはティエミリア。ティエミリアは海軍の中で最古参。私がタリン=クルージに初めて乗るとき彼女も隣にいた。彼女にとっても思い入れが深い船に違いないが、彼女はなんとも思ってないみたい。それとも自分の感情を押し殺しているのか。彼女はいつもそう。まるで自分の意見がない人形のように、ただ私の命令を淡々とこなすだけ。艦隊行動訓練初日の課題のときでも何も言わなかった。私はみんなの意見がほしいと言ったのに……


 時々そんな気がする、彼女は自分を海軍を構成する数多のパーツの一つでしかないと考えているじゃないかと。自分は歯車らしく、ただ姫様の言う事を聞けばいいと思っているじゃないかと。私はそんなことを求めていないのに……戦争一年目が終わるときの海軍組織改造で、ティエミリアを第三艦隊に異動させたのも、私から離れると自主性が芽生えてそこが改善するんじゃないかのが狙いだった。でも艦隊行動訓練中の彼女は逆に悪化したように見える。このままでは、リミアの次の参謀長はやはり6期生のタスリカとホーミルマから選ぶしかない。さすがのティエミリアも、その決定に対して反発するんじゃないかな?それとも、また自分の気持ちを押し殺して現実を受け入れるのか……


(でもね、わかっているのか?ティエミリア……人形のままでは、あなたは参謀長でも艦長でも、何にもなれないのよ……)


 ティエミリアの忠誠は誰も疑わない。参謀として長年尽くしてくれて、最初はあまり要領が良くなかったが今は彼女がいるだけで事務の効率が大きく向上する。でもティエミリアの致命的な欠陥はどうにもならない。私が求める一番大切なものを彼女は持ってないから。ティエミリアたち「姫様派」が夢見る世界は私を頂点として何もかもが私のためにある。でも私が目指しているのは私がいなくてもちゃんと動く組織(私が探検に出ても海軍が機能不全に陥ることがないように)。双方の考え方はまるで平行線のように交わることがない。


 海軍士官学校1期生のみんなは、私にとっては特別なんだ。元老たちの見守りのもとで、私たちが試行錯誤をしてやっとカリスラント海軍の礎を築いた。私の感覚ではそうだった。でも1期生は特に事情がある子が多かった。彼らは実家の都合や、私と親しくなるために海軍に来た。最初から本気で海軍で頑張るつもりだったのはファルナくらいかな。そんな1期生はもう半数以上海軍を離れた。既に箔をつける目的を達したから、退役して実家を継いだり、結婚したり、人生の次の段階に進んだ。もしかして、それがティエミリアにとっての最善なんじゃないかと思うが、私からそんなことはとても言えない。「あなたはもうそれ以上昇進する見込みがないので退役したほうがいい」なんて残酷なこと、言えるはずもない……


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