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海軍王女アンネの異世界探検航海  作者: 海の向こうからのエレジー
チャプター2~カリスラント探検艦隊、艦隊行動訓練
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2-9 模擬対抗戦と実弾演習 2

――6時間後――


 シフトが変わって、ケロスのじいちゃんが指揮する対抗戦演習昼の部も終わった。今の私たちは更に西へ進み、そろそろ本日最後のイベントに必要なものと出会うはずだが、まだ発見していない。


『見えました!目標、座標Q-15』


「Q-15……そんな遠くまで流されてしまいましたか。道理で見つけられませんでしたね」


 先の戦争で鹵獲したジーカスト艦や他のザンミアル艦船は50隻以上ある。新時代海軍への改装は不可能ではないが、根本から設計思想が違うのであまり効率的ではない。最終的に第三ジーカスト艦隊旗艦タチール=エレみたいな名の知れた艦はサーリッシュナルでトロフィーとして展示される。他のコンディションがいい艦は解体して資材を回収再利用。残りはこうして私たちの実弾演習の的になる運命が決まった。


 的だからあのジーカスト艦に今は人が乗っていない、ここまでは護衛艦隊に依頼して曳航してもらった。魔力レーダーで探知できないから探すのに時間がかかった。


「もう17時25分か。さっさと始めよう。暗くなる前に終わらせておきたい」


 砲撃が始まると、轟音とともに反動が艦を揺らす。ブリッジからでも、燃焼弾が炸裂して火の玉になって降りそそぐ光景が見える。今は夕日のせいでちょっと見づらくなってるけど。対抗戦演習も大事だが、こうして一度砲撃手たちに実際撃たせてあげる、そして他のみんなにも私たちの攻撃がどんなものなのかを見せることに大きな意味がある。


『着弾確認!32/49、28/55、36/51、33/60……31/55、37/64』


「風が思ったより強いのか。修正を入れて第二波を」


「はい!」


 インスレヤの指揮下でジーカスト艦に対して砲撃開始。気球に乗ってるゼオリムがもたらした観測結果をもとに、戦術分析士官たちが計算して砲撃手たちに次の指示を出す。気球がない艦にも情報管理士官が信号で観測結果を伝える。


 武装も私の海軍が地球との大きな違いの一つ。大航海時代から砲撃が海戦の中心となったが、19世紀まで大砲の射程は意外と短くて、人々が思い描くような遠くからの撃ち合いにはならない。大砲の射程の差が勝利の大きな要因だったというのは、アルマダの海戦に対するよくある誤解の一つ。確かにスペインよりイギリス海軍が採用した砲の射程が長いが、まともな照準ができるのは300Mくらいまで。長距離の射撃はまぐれで当たっても大したダメージを与えられない。射程がより長くても結局相手を沈めるのは接近してからの攻撃。勝敗の鍵はスペイン艦隊が本拠地から遠く離れて補給ができない。イギリス艦隊も弾薬の消耗が激しいが少しずつ補給を受けたから、やがて弾薬が尽きたスペイン艦隊を一方的に攻撃できるようになった。


 1KMを超えると砲撃はあまり効果がない、そんな戦術条件は長い間続いた。それを正確に理解したからネルソンは偉大な海軍戦術家として歴史に名が刻まれた。相手と水平に並ぶ行儀の良い戦い方を捨てて、相手の戦列にまっすぐに突入する大胆な戦法を練り上げた。距離が開いてるうちの砲撃は怖くないから先手を譲っても構わない。舷側砲は側面を敵に向けるほうが火力を出せる。接近している間は自分の船首が敵に向けて圧倒的に不利だが、相手の懐に入る時点で情勢逆転。一見無謀だが実はあの時代の砲撃の特性を最大限に活かした、非常に合理的な戦術。私の考え方とは違うけど本当にすごい。


 戦術条件は全く違うけど、新時代海軍が登場する前のこの世界の海軍戦術は、地球の帆船時代のとちょっと似ている。主な攻撃手段は攻撃魔法。射程は最大3KMだが距離による減衰があるから抗魔力バリアを破るには接近するしかない。地球と同じ1KMくらいからが有効射程となる(でも魔法の攻防は術者の腕にかかるので1KMはあくまで目安、極端な例なら3KM以上離れてるところから敵艦を狙撃して沈めた、ティレムズの凄腕の水魔法使いの話が有名だ)。そして船の側面で魔法士を横列に並ばせたほうが一番火力高い、これも地球と同じ。それで同じ単縦陣が水平に並ぶ戦い方になったわけ。でも私はそんな古臭い戦いをする気がさらさらない。既に魔力レーダーと気球があるし、後は長距離打撃手段さえあればいい。それで開発したのは魔導砲。火薬を使わず「点火」の魔法で爆発させ砲弾を撃ち出す。安全性が高いし煙があまり出ないし、でも代わりに砲撃手を務めるには火魔法の習熟が必要。地球の大砲との違いはこの一点だけ。砲身自体は地球の17世紀のものとほぼ変わらない(開発当初はライフリングも考えたがカリスラントの稚拙な金属技術では到底無理だとすぐに気づいた)。それなのにここまで兵器の性質が変わるのは、発射する弾丸が違うから。


『第二波、着弾確認!39/46、44/46、47/45……』


「よし。これくらい当たれば十分だろう。そうですよね、アンネさま?」


 実戦ならこれだけではまだまだ不十分。敵が消火作業をしてダメージを抑えるから。でも今の無人の船なら放っておけば勝手に火が回る。これは通常の演習ではない。ただ一回くらい実際に撃たせたいだけだから、さらなる攻撃を加える必要がない。


「そうだね。実弾演習はこれで終了」


 汎用バリアがあるから、この世界で鉛弾を飛ばしても弾かれるのがオチだ(同じ理由で銃の開発を見送りした)。魔導研究所の協力を得て汎用バリアの性質について色々実験した私は、燃料をぶつけて燃やすのが一番という結論にたどり着いた。粘着性を持つから燃料はそのままバリアの表面に付着、燃料が燃え尽きるのが先か術者の魔力が枯渇するのが先かの我慢比べになる。まぁ本当にそこまで長持ちする防御魔法士がいたらもう一回攻撃すればいいだけの話だ。これまで燃焼弾相手に汎用バリアが耐えきったのはトリミンス台地の戦いの一回だけ。あれも陸軍の準備が整ったのでもう火をつける必要がないから砲撃をやめさせた。そういえば、燃焼弾の開発に協力してくれた、カーシュレの後輩の防御魔法士は最後泣きながら「なんて悪魔的な発明」と呟いた。んー……そこまで悪逆非道な兵器を開発したつもりはないけど、何故か私が悪者になったみたい……


 海上での砲撃には波の揺れという難点がある。いくら砲の性能を高めても観測支援体制を強化しても地上と同じようにはいかない。遠くからでも確実に当たるように、ターゲットの真上で炸裂させ燃料をばらまく方法がないかを試行錯誤したら……できちゃった。まぁ一番難しいところは正確なタイミングで爆発させることなんだけど、魔導帝国時代の資料を漁って見つけた魔力導線の技術を使ってみたら、それを割と簡単に解決できた。このやり方だと砲弾の中身は広い範囲へ拡散してどうしても威力が薄くなるが、かなり安定にダメージを与えられる。敵艦を確実に無力化するには何度も攻撃する必要はあるが、それでも地球の帆船時代の砲撃と比べるととても効率的だと言える。アルマダの海戦では一週間のうちスペイン艦隊は砲弾を10万発以上消耗したらしい。トゥーリーストで砲弾300発を無駄にしたことでさえもったいないと思う私からすれば、気が遠くなるような話だ。


「艦長、もう少し接近することも可能だと思います。やってみますか?」


「いや。安全距離を保つにはこれ以上近づけないほうがいい」


 燃え上がるジーカスト艦の近くまで来たら、当番で手を離せない娘以外はみんな甲板に集まった。あの立派だった巨艦が炎に包まれ、降りてくる夜の帳とともに沈んでゆくのをただ無言で見つめるだけ。


「アンネ様……もし本日の演習が実戦だったら、私達もこんな風になっていたのですね?」


「ええ。だからどんなときでも決して油断してはいけない。それをみんなにわかってほしいのよ」


 ちょうどいいタイミングで、リエメイアが私が期待した通りの反応をしてくれた。そう。ジーカスト艦1隻を犠牲にしてまでこの実弾演習をやったのは、みんなに戦いの怖さを実感させるためでもあるのよ。


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