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海軍王女アンネの異世界探検航海  作者: 海の向こうからのエレジー
チャプター2~カリスラント探検艦隊、艦隊行動訓練
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2-7 艦隊の分散行動訓練と通信システム

――再誕の暦867年4月17日、探検艦隊旗艦ラズエム=セグネール、ブリッジ――


 サーリッシュナルを発つ2日目。朝から4隻2つ編隊の訓練をこなした。昼食と当番交代を挟んで、昼から3隻、3隻、2隻の3つ編隊の訓練を。多分探検中はこの3つ編隊で行動することが一番多いだろう。より広い範囲を探索するためになるべく分散させたいが、アクシデントを対処するために単艦にはしない。最低でも2隻が一緒に行動する。


 探検艦隊8隻は全部長距離探検船テルエミレス級だが、役割によって機能と装備が若干違う。旗艦のラズエム=セグネールにレーダーや通信など情報関連の機能が集約されている。副司令の乗艦、2番艦ミレギーレ=トリンヤは旗艦とほぼ同等の性能。旗艦に万が一のことがあれば代わりに指揮してもらうから。3番艦に高精度戦況と長距離連絡用レーダーが搭載されていないが、短い間分隊のトップを務めるのに十分な機能を備えている。3つ編隊で動くときはこの3隻でそれぞれ分隊を率いることに。


「5番艦、針路13、速度21。異常なし」


「4番艦、針路352、速度19。座標Q-22にレーダー反応あり、300人規模の集団、確認願う」


「Q-22……あれか。航海計画通りなら第三艦隊のパトロールだ。一応そのまま動向をよく見るように伝えておけ」


「はい。『味方』だが、『目を離さぬように』、と」


 情報管理士官たちが魔石ライトパネルの信号を読み取ってインスレヤに報告する。そしてインスレヤの指示を信号に変換して僚艦に送り込む。カリスラント海軍の強さの秘密を研究する人はまず魔導砲の長距離火力と魔導スクリュー推進の機動力に注目する。でも私に言わせれば、私たちの最大の強みはやっぱり情報収集と伝達能力だ。


 昔の海軍は有効な分散行動なんてできない。目視できる距離に相手がいないと手旗信号も遠話(相手の居場所がわからないとき遠話の成功率は極めて低い)も使えないから。地球でも19世紀までは大体同じ。だからこの世界でも地球でも単縦陣が海軍戦術の基本となった。火力最大化よりも、簡単かつ有効な命令系統を維持するほうが主な目的だと私が思う。単縦陣なら、先頭にいる旗艦が手旗信号で命令を出せば、2番艦が同じ信号を後ろにいる3番艦に伝え、そのまま最後尾まで行き渡る。原始的だが新時代海軍が登場するまでそれしか方法がない。


 地球にレーダーや無線通信など革新的な発明があるのを知ってる私だから、そんな原始的なやり方に満足できるはずがない。幸いこの世界には既に無線以上のポテンシャルを秘めてる遠話の魔法がある。魔力レーダーで位置情報を把握すればそのポテンシャルが解放され、風魔法使いを人間無線機のように使える。しかしすべての情報と指示を遠話で伝えようとすると通信キャパオーバーになって非常に効率悪い。だから遠話担当の負担を減らすための魔石ライトパネルを開発した。パネルの上に違う色と形の魔石を並べて、魔力を流して光らせるともう一つのパネルに設置した対となる魔石も同時に光る。それを使って予め決めたパターンで光らせて信号を送る。正直に言うと、なぜ今まで誰も作らなかったのかが不思議に思うくらい単純な仕組み。私の発明品の中ではおそらく一番手軽なものとなってる。簡単な状況報告などは魔石ライトパネルで済ませる。柔軟な対応が必要なときだけ遠話を使うのを許可する――こうしてカリスラント海軍はこの時代に似つかわしくない通信能力を手に入れた。


「15時になりました。長距離連絡テストの用意を。カーシュレさんもお願いします」


「はいはい。やりますよ」


 リミアに言われて、カーシュレは膝の上の研究資料をしまう。士官たちも長距離連絡用の高出力レーダーを起動させる。


 魔力レーダーと魔石ライトパネルを駆使すれば、艦隊を分散させて、より効率的な調査ができる。でもそれだけではそんなに遠く離れることができない。魔石ライトパネルが信号を受信できる距離は天候にもよるが大体20KMくらいが限界。そして現在の海軍艦船の基本装備となる汎用魔力レーダーの有効範囲は60KM。艦隊旗艦なら汎用レーダーより広範囲のレーダーを搭載している(つまりもっと長い距離で遠話できる)。近海の防衛と治安維持ならそれで十分だが、探検艦隊の場合より少数の部隊で非常に広い範囲で活動することになる。より長距離の通信手段が必要。なので今回は更に一歩進んだ新開発の装置を使う。


「はい。繋げましたよ」


『こちら2番艦ミレギーレ=トリンヤです』


 またケロスのじいちゃんが出てくるかと思ったら、今回応答するのはミレギーレ=トリンヤの艦長マリキレム伯爵令息だ。


「こちら旗艦ラズエム=セグネール。2番艦の位置を長距離連絡用レーダーで正確に把握した。では一度遠話を切ってそちらからかけてもらうよ」


『了解しました』


 2番艦には旗艦と同等な通信能力が要求されている。カーシュレには及ばないがかなり有能な男性のスルタキィームが配置されている。こちらの位置さえわかれば遠話を繋ぐのは簡単なはず。


『こちらの長距離レーダーも正常に稼働したと思われます。それと一つ報告すべき事項があります。座標B-15に120人規模のレーダー反応がしましたが、こちらが持ってる航海計画にそれに該当するものがないんです』


「気球は出した?」


『はい。観測員によるとおそらく民間船4隻だが、確証を得ることができませんでした』


「なら、多分航海計画を提出し忘れただけね。まぁ私たちの仕事ではないので接近してこなければ気にしなくていい。こちらから第三艦隊に伝えておく」


『よろしくお願いします』


 トップクラスの風魔法使いの遠話の最大距離はおおよそ2000KM。しかし相手のことをよく知っている上で居場所もわかってるような状況でないとまず成功しない。そのせいで今までそれを超長距離通信のために有効利用できていない。せいぜい大使館への連絡に使うくらい。しかしこの長距離連絡用レーダーがあれば状況は一変する。設計上の有効範囲は遠話の限界に合わせて2000KMにした。出力と雑音対策の都合上識別する魔力干渉は同じこの長距離連絡用レーダーに限定した。お互いの位置確認だけに使えるし魔力燃費悪いが、これでようやく遠話のポテンシャルを完全解放できる。しかもこれは艦隊指揮のためだけでなく、海外領地の運営にも使える。クルゼサー島の巨大魔力レーダーで既に4600KM先に西の大陸の文明があるのを確認できた。旗艦と同等な通信能力を持つ2番艦を海の真ん中に配置して中継してもらえれば、通信距離は2倍の4000KMになる。つまり西の大陸からほぼ即時に本国と連絡を取れる。18世紀の地球で、イギリスとフランスの東インド会社が激しい争いを繰り広げながら、本国と連絡するには半年以上かかるのが馬鹿らしく思えるね。


 ちなみにこの有効範囲2000KMを今の技術で実現できたのは魔力波の性質と関係してる。電磁波は温度差によって進行方向が曲がることもあるが基本直線だと思っていい。星は球体だから水平面による距離的制約がある。でも魔力波は違う。外部の干渉がない限りまるで重力に縛られているように海面から一定の高度を保持しながら曲線的に進む。だから出力を確保して雑音対策さえできれば5000KM級のクルゼサー天文台レーダーも作れた。もう一つ大きな相違点は、地球のレーダーは電磁波の反射で目標の形状を読むが、魔力レーダーは魔力波が対象に接触するときの干渉反応で目標を判別する。だからさっきからのレーダー反応は「〇〇人規模の集団」の感じで報告が上がった。航海計画に参照したり気球で実際見ないとそれが船なのかもわからない。この性質の最大の利点は、技術的に電磁波レーダーよりずっと簡単。だから魔力レーダーの開発はかなりスムーズに成功した。でもこれは大きな欠点でもある。目標の魔力の大きさはそのまま発見する難易度になる。2、3人のような少数は高精度レーダーでも捕捉が困難だ。魔力を持たない目標なら最初から無理。極端な例になるけど、もし現代地球の技術レベルを持つ敵がドローンを飛ばしてこちらに接近させたら、魔力レーダーからは完全に見えない。


「はぁ……また一つ悪魔的発明を生み出しましたね。本来のスルタキィームは風の秘奥を探究する求道者なんですよ。遠話をかけるためだけに修行したわけじゃないですよ」


「そう?でも私が遠話を使う仕事をたくさん提供したことに、あなたの同業者たちからすごく感謝されたよ」


 レーダーで位置情報を把握できれば遠話の成功率は格段に上がる。能力不足で暇をしてるスルタキィームモドキたちもそれで職につくことができた。まぁそれを含めてカーシュレが不満に思ってるよね。


「あんなので喜ぶのは本物のスルタキィームじゃないですよ。まったく、スルタキィームにふさわしい実力がないくせに、金とコネで称号を取って、結局何もできないし……アンネ様があいつらにもできる仕事を用意しなかったら、あんなのただ立派な称号を持ってるだけの乞食ですよ」


「カーシュレさん、その辺にしておいたほうがいいかと……それ以上はアンネ様への批判に取られかねませんよ」


「ファルナ、いいのよ。カーシュレの言ってることは本当なんだから」


 ちょっと言い過ぎとは思うけど、カーシュレが言う金とコネでスルタキィームになった奴らの無能ぶりを、私もこの目で見てきたからね。まぁいくら無能だと言ってもスルタキィーム(=風魔法の達人)の称号をもらったくらいだから、最低でも遠話はそこそこできる。それを通信体制の構築に活用しない手はない。


「……どうしましたの?信号再確認の要請がまた来ましたよ」


「はっ、はい!申し訳ありません!パターンを打ち間違いましたみたいです!直ちにやり直します!」


 リミアに指摘されると、新人の情報管理士官が慌てて魔石ライトパネルを触ろうとするが、リミアは彼女の肩に手を置いて落ち着かせる。リミアも情報管理士官を務めたことがあるのでどうすべきかをよくわかっている。


「大丈夫ですよ。こういう時は慌てずに、確実に打ちましょう。士官学校でも学んだでしょう?遅れるより、間違えるほうがよっぽど危険です」


「……はい。ご指導ありがとうございます」


 さすがはリミアと言うべきか。大人のお姉さん的な包容力で後輩たちを上手に導く。はぁ、どうして私がこんな見た目なの?もし私が同じことをやろうとするとどうしても違う感じになってしまう。


 信号を素早く送るのも重要だが、一番大切なのは正確さ。信号の間違いは時に非常に大変な結果を招くから。例えばロミレアル湾の戦いでカリスラント側の主な被害はまさに信号の誤りによるもの。終盤で逃げようとするザンミアル艦隊を追撃する慌ただしい状況の中、第四艦隊は針路報告の信号を間違えて衝突事故を起こした。幸い致命的な被害はないが負傷者がいっぱい出た。地球にもそんな信号間違いの名エピソードがある。アメリカ独立戦争の最終段階で、イギリス艦隊はあの有名なチェサピーク湾の戦いで痛恨な信号ミスをして、局面を挽回する最後のチャンスを逃した。


 この前の冬は戦争中の失敗の反省として、信号の改良をしてみた。今の再確認要請も信号の誤りを防止するために導入した。魔石ライトパネル自体はすごく単純な仕組みだが、実際に運用するに当たってまだまだ改善が必要だね。


「もうすぐ16時か。分散行動訓練はこれで終了とする。予定合流地点へ向かおう」


 こうして2日目の訓練も無事終わった。


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