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海軍王女アンネの異世界探検航海  作者: 海の向こうからのエレジー
チャプター6~カリスラント海外領地の初期発展
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6-5 訪問団と開拓団の到着

――再誕の暦867年11月13日、トリスタ=フィンダール島、ラスティク=ターナの船着き場――


 サーリッシュナルから1ヶ月近いの船旅を経て、開拓団と内海からの訪問団を乗せている輸送船団6隻がトリスタ=フィンダール島に到着した。船の航行に支障が出るほどじゃないけど、天候は少し悪い。小雨の中、出迎えに出た私とファルナのために、うちの海兵隊は護衛しながら傘を持ってくれる。


「アンネリーベル様、ご無沙汰しております」


「よくぞ来てくれました、司教様」


 「アンネリーベル様」と呼ばれるとやっぱりちょっと違和感がする。私は王女だから普通は「アンネリーベル殿下」で呼ばれる。距離が近い人間なら愛称で「アンネ様」と呼ぶことが多い。ウォルシムス司教はあのダルシネ=ルーデア認定式で初対面だから私を愛称で呼ぶほど親しくないが、宗教勢力所属だから殿下という世俗的呼び方を使わず、様付けで呼んでる。非常に珍しい組み合わせになんかむずがゆい感じがする。


「この先長い付き合いになりそうので、私のことはアンネで呼んで構いません」


「承知しました。アンネ様の御言葉に甘えさせていただきます」


 今年の春まで私と中央神殿に接点がなかった。第三世代錬金術を狙って、あのハゲが私に脅迫した件もあったし、少し気まずい関係だったから、お互いに意図的に距離を置いていた。しかし今後は魔物素材の生産について密に連携する必要がある。ダルシネ=ルーデア認定式の直後私に接触して、魔物素材とカネミング石の交換契約に合意した成功経験があるから、ウォルシムス司教は引き続き私への窓口役を任された――というのは私の勝手な想像だが、多分あってると思う。


「こちらは監察官のリルウェア司教。このトリスタ=フィンダール島に設立する冒険者ギルドを管轄する予定です」


 次に挨拶しに来るのは人が良さそうな、長身の中年女性。ダンジョン管理の責任者になるので、こっちもかなり大事なポジションね。


「アンネリーベル様の御尊顔を拝することが叶えて、とても光栄に思います」


 西カリス教区に長年駐在、カリスラント語が堪能のウォルシムス司教と違い、リルウェア司教は古代魔導帝国語で挨拶する。しかし、結局こう呼ばれるのね。今は仕方ないが、このリルウェア司教の呼び方もいつか改めよう。


 輸送船団の1番艦に乗っていたのは中央神殿関係者。司教二人の部下たちと3つの冒険者パーティーも降りて、開拓地のスタッフの案内で宿泊地へ向かう。そして2番艦にいるカネミィーム共和国の客人たちも降り始める。お父様が招聘した鉱山開発の専門家2人と弟子兼助手5人だが、この一行を率いているのは20代後半の男性で、鉱山のことを何も知らない人。カネミィーム共和国のある議員のドラ息子、との前評判だが……


「ふーん、キミがあのザンミアルをコテンパンにした……ただの小娘ではないか」


 はぁ、どうやら噂は本当みたいね。自国でなにかやらかしたから、ほとぼりが冷めるまで鉱山開発チームの引率として国外に放り出す……まったく、うちを流刑地扱いするのはやめてほしい……


「お初に目にかかります。私は――」


「あっ、キミはいいんだ。胸以外は小さすぎる。私の好みは色気がある、大人の美女……」


 カリスラント海軍全員に睨まれるのも気にせずに、議員の息子が失礼な視線で女性陣を見ると、私は慌ててファルナの前に立つ。もしファルナが見初められると非常に面倒な事態になるから。でも幸いあいつが気に入ったのは別の人。それも最凶最悪な相手……うわっ、あいつ、終わったね。


「ねぇ、キ、キミの名前をっ、は?あ、あぐっ……」


 ドラ息子に迫られるジャイラがサーベルを突き出して、相手の喉に軽く突いた。よかった、ちゃんと手加減してくれたのね。もし手加減していなかったら、鞘に納めているままでもあいつの命を簡単に奪えたんだろう。


「な、なんてこと、ケホン、するのだ!私が何者かを、知っているのか?」


「知らんな。興味もねぇ」


 咳をしながら尻餅をつく、泥まみれになったドラ息子が抗議するが、当然ジャイラには通じない。相手は公爵夫人でカリスラント王の妹だと同行者が教えても、あいつは文化後進国の王族より議員の親族の自分が偉いと、メチャクチャなことを言う……これだから内海の人間と関わりたくないのよ。現実への認識が私とあまりにもかけ離れている。カネミィーム共和国の軍事力と国土面積を考えると、他の国が中立を保つ限り、私が動かせる部隊だけでも簡単に攻め落とせる。内陸国だから周りの国に軍事通行許可を求める必要があるし、内海の外交環境は複雑怪奇だから実際は手を出せないが……まぁとにかく、彼らがどうしていつも偉そうにしているのか、私にはわからない。


「わかったわかった。あたしと戦うチャンスをやるから。1分さえ保てば文句を聞いてやるよ」


 ジャイラがサーベルを抜いたのを見て怖気づいたのか、あいつは「これだから野蛮人が」と捨て台詞を残して勝手に行った。案内役がいなくては迷ってしまうじゃないかと一瞬考えたが、前にまだ中央神殿の集団が見えているから宿泊地にたどり着けるだろう。


「多少雑に扱ってもいい、と……そちらが言ってくれましたが、これで大丈夫ですか?」


「それで構いません。議員様も、今度こそ彼に厳しくしないといけないと痛感しました」


 よかった。それなら遠慮はいらないね。やるべきことがいっぱいあるのに、あいつにまで配慮しなくてはならないとなるとマジでしんどい。


 2番艦には更に別の国の人間が乗っていて、その代表者二人も私に挨拶しに来る。


「大公子妃殿下は元気に過ごしていますか?」


「はい。先日お二人目のご懐妊が公表されました」


「おお、それはめでたいですね」


「カランチースカ様はよく、アンネリーベル殿下に会いたいと仰っています」


 内海東岸の貿易都市国家フールスラムル公国は、私の妹カランチースカの嫁ぎ先だ。昔のカリスラントの影響力は内海西岸までが限界。ザンミアルと同盟を結んでようやく東岸に伸ばして、新たの繋がりを作ることができた。フールスラムル公国は36年前、ザンミアルに敗北したティレムズ共和国の植民地から独立した新興国。主にフォミンから熱帯特産品を輸入して、カネミィームなど近隣の内陸国へ輸出する中継貿易で栄えている。その中継貿易に限界を感じたから、新しい商機を掴むためにカリスラントと婚姻を結んだだろう。ザンミアルの海上覇権が終わり、代わりにカリスラントが海上交通を牛耳る今は、フールスラムルにも西南海岸貿易の富が流れるようになり、タリサミングとトンミルグに次ぐ、内海方面で三番手の貿易センターになりつつある。そして今度はカリスラントとの繋がりをアドバンテージに、大陸間貿易に先乗りしようとしている。まぁフールスラムルの邁進はうちにとっても悪いことじゃないし、私の妹の地位を盤石のものにもできる。もし向こうの申し込みがなかったら、こっちから誘いをかけたいところだね。


 挨拶の後、フールスラムル公国の貿易考察団も宿泊地へ向かう。これで外部の人間への対応は終わり。残りは身内だけ。3番艦に乗っていた本国から移住する開拓団も次々と降りて、クランのリーダー4人が私の前に集まった。残りはリーダーの中の紅一点だが、彼女は輸送船団の中で唯一女性だけで運航する4番艦にいる(輸送船団は軍艦ほど異性と同乗しない規則を徹底的に適用していないが、今回みたいな大規模な船団ならなるべく男女別々にする)。全員集合するのを待つ間、先に開拓団のコンディションチェックを済ませよう。


「開拓団の様子はどう?なにか困ることはない?」


「航海中は流行り病によって3名が亡くなりました。それ以外は特にありません」


「そうか。遺体は、さすがにもう処理したのね。私が葬儀を執り行うから、南の丘にある共同墓地にあの3名の遺品を入れよう」


 話しているうちに4番艦の乗員も降り始める。最後のクランリーダーも来たところで、これからの予定を話す。


「あなたたちリーダーはまずクランの所属人員をまとめて。案内役の指示に従い、みんなの寝る場所を用意するように」


「明日までは休養にして、本格的に始動するのは明後日ですね?」


「ええ。明日の午後で現状報告の会議を……あっ、その前に、今日の夜に会食の予定がある。出るのはあなたたち5人だけでいい」


 みんなは長旅できっと疲れたから今日は予定を入れていない。夜で訪問団と会食するだけ。そういえば、あのドラ息子も会食に出るのか?面倒だね……


 5番艦の下船も完了して、リーダーたちはそれぞれのクランを率いて開拓地北側の住居に。訪問団と違い、こっちは人数が多いから時間がかかりそう。6番艦が運ぶのは貨物だけ。乗員は船を運航するクルーしかいない。これで今回の開拓団は途中で亡くなった3名を除いて、合計266人が新天地に到着した。


 出迎えが終わり、海兵隊はそのまま解散。なにか問題があればすぐに対処できるように、私とファルナは集会所で待機しながら、参謀たちが作成した補給物資のリストをチェックする。今回は中央神殿の協力でポーションなどの貴重薬品、しかも欠損治療ポーションを3本も補充できた。内海に強い影響力を持つ中央神殿との関係は本当に大事だと改めて実感する。


 そして夜の会食、あのドラ息子はジャイラに怯えて部屋から出てこないみたい。おかげてとても和やかな雰囲気で終わった。今後もずっと大人しくしてくれるといいね。


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