5-21 クルジリオン公式訪問 8 ~クルジリオンの休日
――再誕の暦867年10月13日、自由港クルジリオン、北の商会街――
やっと私がクルジリオンで動けるときが来た。ちょうど昨夜から雨が上がって天気が良くなった。今日は商業区画を回ってクルジリオンの物産を見物、明日はノープランの自由行動。半月の滞在なのに街を回れるのは2日だけ。まぁこれも責任者の宿命よね。本当は露天市場に行ってみたいが、混雑しているから万全な護衛体制は不可能。仕方ないので商会の拠点が集中している街の北側にした。
私と同行するメンバーはファルナ、ガイドのアインシリー、そしてジャイラが率いる海兵1班が護衛につく。かなりの大所帯ね。海兵を展開させるスペースを確保できないのが、露天市場を断念した理由だ。さらにホテルにバックアップのメンバーが詰めている。全体の指揮を執るホーミルマとインスレヤ、連絡と状況整理をする他の参謀全員、予備隊の海兵2班を率いるキーミルも控えている。ここまでやる必要があるのかと思うけど、万が一のことがあればみんなにもっと迷惑をかける。少し過剰戦力なくらいがちょうどいいか。
「んむ、研磨の技術はかなりのものみたいね。内海とあまり差がないかな?」
前にレンダースのメガネを見させてもらったことがあるけど、そんなに質が良くない。宝石には使ってるけど、まだレンズに応用できていないってことか?
「もう、アンネ様……宝飾品を見に来ましたのよ?」
「……どうせ私はセンスのかけらもない、つまんない仕事人間だもん」
「はぁ、わたくしが悪かったです。もうすねるのをやめてください」
だって、私が選んだメノウのブレスレットを見て笑ったのよ、ファルナのやつ。そりゃ、実際につけさせてみたら確かに全然似合わないけど……笑わなくてもいいじゃん。
「これならアンネ様の髪色と合うと思います」
髪留めか……よく動く私たちは普段髪を紐で束ねる。こういう宝石がついてるやつは、アクセサリー自体も周りのものも不用意に傷つけるかもしれないから敬遠してるが……まぁ、たまにはいいかな。
「うんうん、思った通りですね。ほら、この神秘的な色合い、アンネ様が欲しがっている大人びる雰囲気ですよ」
「……まぁ、悪くないかもね」
悔しいけど、ファルナの言う通りだ。このアメジストは私の幼いイメージを打ち消してくれるいいアクセントになる。それにこれくらいの大きさならそこまで邪魔にならない。普段船の上でつけてもいいくらいだ。正面から見えないのがネックかな。もう少し濃い紫色のやつにすればファルナの髪色と似たような感じになるけど、そうなると私の髪と合わないか。
それにしても、メノウもアメジストも、この店の商品は石英系統のものが多いね。クルジリオン近辺の鉱山から、副産物として石英が多く出るのか?それならこういう宝石的価値があるもの以外でも、使い道がありそう……
「あっ、また仕事のことを考えてますね。休日はちゃんと休みましょう。頭も含めてね」
ファルナが選んだ髪留めを購入、次の目的地へ向かう途中。ムサナシピルの商会と提携している店の看板を見て、前から気になることを思い出した。
「そういえば、アインシリーさん。ムサナシピルについて聞きたいことがあるけど……」
「はい。ムサナシピルの特産なら、西区画の方によく揃っています。この商会街にはあまりないです」
「あっ、そういう話じゃないね。非公式的なものだが、ムサナシピルの大使が私たち探検艦隊の訪問を要請したのを、ケロスのじいちゃんから聞いた」
「そうですね。それより前に、クルジリオン支部にも紹介の依頼をしたみたいです」
「それ、行って大丈夫なの?どうも、ケロスのじいちゃんが聞いたムサナシピルの話は前にそちらから聞いたのと違うようで……」
「ん?どういうことなんでしょうか?」
「ほら、あの食事会のとき、女性はルファークレク人の領域に行かない方がいいって……」
「あっ、そうでしたか!ごめんなさい、こちらの説明が足りなくて誤解を招いてしまいました。ムサナシピルは人種的にルファークレク人なんですが、ジャングルに住む普通のルファークレク人とは大分違います。文明的、文化的になったルファークレク人、と言ったところでしょうか」
確かにじいちゃんの話でも、ムサナシピルの大使はそんなこと言ってた。
「なるほど。アインシリーさんもそう言うなら大丈夫そうね」
「ええ、アンネ様が街に入っても問題ありません。私も父と一緒にムサナシピルに行ったことがあります。ぶっちゃけ……クルジリオンより安全と思います」
ちょっと自虐的な言い方をして苦笑するアインシリー。まぁ、確かに普通の街はクルジリオンみたいに治安悪くないね。
それからさらに二軒の店を回って、アインシリーおすすめのレストランで昼食。午後はランドマークの大橋を見てから、北の尖塔を登って街の景色を一望する。なかなか壮観だね。
――夜、リフィミシエ・ホテル、アンネの寝室――
「ねぇ、その軟膏って、一体何なの?」
「くすっ。そんなに気になるのですか?」
そりゃ気になるよ……だって、私の……すごく敏感な、あそこに……ファルナがそれを塗ったから。今日商会街でわざわざ私が見てないところで入手した、怪しげなものらしいけど、どうしてそんなのを……
「そんなに気になるなら、当ててみます?」
「……いいけど、目隠しするの?」
「見えるなら簡単すぎると思いましてね」
アイマスクをつけられて、両手も後ろに縛られているから、私に残された判断材料はもう嗅覚しかない。ファルナの指を嗅いでみたが、ほぼ無臭で、微かにミントっぽい爽やかな香りがするだけ。やっぱりよくわからない。
「えっ?どうして、また『アレ』を……」
私の腰と股間に貼り付く、もう馴染み深くなった革の感触。ご丁寧にファルナが改めて施錠した。さっきは軟膏を塗るために開放してもらったが、また私の下半身が金属の檻に封じ込められた。一体どういうつもり?もしかして、あれは媚薬の類で、これは私を焦らすようなプレイ……?
「次は、これです。さて、これが何なのか、わかります?」
動けない私の手に握らせたのは、ちょっと硬い革の小さい箱のようなもの……あれ?私が貞操帯の鍵を封印するために用意したあの小箱じゃない?もう二度と使わないと、ラズエム=セグネールの私の部屋に隠したのに。どうしてファルナが、これを……
「まさか、鍵をまた、これの中に……?」
「ええ。この小箱の本来の使い道でしょう?」
「こ、こんなことしても無駄だよ。魔力認証式なんだから、私が魔力を流さない限り、鍵はかからない」
「くすっ、もちろんわかっていますよ」
アイマスクで見えなくともわかる。今ファルナは意地悪な微笑みを浮かべているに違いない。
「んっ!?んふぅ……」
いきなり唇を奪われ、濃厚な口づけをされる。そう言えば、人間は気分が高揚するとき、大体は無意識に僅かな魔力が漏れる。まさか、これが狙いなの?
そんなとき、私の手のひらにある小箱が微かに震えて、カチッとスイッチが動いた音がする。えっ……うそ?こんな微弱な魔力に反応したの?敏感すぎるよ!
「あぁ、やはりアンネ様は自制心が強い御方ですね。強い意志を持って快楽に抗えようとする姿勢、立派です」
「ち、違うの……」
もう一度魔力を流して鍵を外せばいいけど、その前に小箱が取り上げられた。
「はい。この小箱はわたくしが大事に保管しますね」
「そ、そんなぁ……」
もう私もファルナも「アレ」を外せなくなったのを意識する瞬間、あそこが急に熱くなるように感じて……きっと、あの変な軟膏のせいよ。もどかしくて暴れ出したくなるが、身動きできない私は身悶えるしかできない。
それからはもちろんファルナにめちゃくちゃにされた。いくら私が哀願しても、「自分で鍵をかけたでしょう」、「鍵がかかっているからわたくしにはどうしようもありません」といじられて、気が狂いそうになった。
プレイが終わって体をきれいにした後、「どうしてそんな得体のしれないものを使ったの!」と責め立てる私に、「媚薬だと思いました?そんな都合の良い物ある訳ないじゃないですか。ただのクリームですよ」とファルナが答えて、私は恥ずかしくて死にそうになった。




