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海軍王女アンネの異世界探検航海  作者: 海の向こうからのエレジー
チャプター5~ギーアル半島での外交
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5-20 クルジリオン公式訪問 7 ~新しいビジネス

――再誕の暦867年10月12日、自由港クルジリオン、リフィミシエ・ホテル――


 少し肌寒い、霧雨に包まれる秋の朝。長かった会談ラッシュも今日が最後。明日からやっと私も街に出かけて、異国の雰囲気を実際に体感できる。本来の予定なら今日から自由時間なんだけど、交友関係がある上流階級の女性の紹介をクルヴィに頼んだので用事が一つ増えた。


 クルヴィと一緒に談話室に入ったのはテュークリム共和国のある議員と彼の親族。ちょっと予想外の面子だね。クルヴィの後援をしている中年の貴婦人方数人を想定したが、来るのは議員の中年男性。その妻の強気な中年女性。その妹のおっとりな感じの中年女性。そしてまだ10代半ばに見える姪っ子――そう言えばこの議員、私が議会に行ったあの日くだらない仕掛けをした人じゃん?アインシリーを私のもとから引き離して、代わりに自分の息がかかる人間を据えようと……つまりこの姪っ子を私のところに送ろうとしたのね?まだこんなにも幼いのに?


「最初にアンネリーベル殿下に謝罪させていただきたいです。先週の議会で私が大変な無礼を働いて、申し訳ありません」


「あっ、あの、伯父様は悪くないのです!私の願いを叶えさせたいと、ちょっと無茶をしただけです!」


「違うわ、フィンニムちゃん。この人が私にも相談せずにあんな勝手をしたのが悪いの。しかもお父様まで巻き込んで!」


「ああ、お義父さんがアインシリーさんの件で言いがかりをつけたのも私の差し金です。全ては私の不徳の致すところです。アインシリーさんにも謝罪の意を伝えたいです。それと、こちらにクルジリオン支部長と敵対するつもりは全くないと誓います」


 私にだけじゃなく、議員はアインシリーにも頭を下げる。目上の人にそんなことされて少し慌てるアインシリーの様子が新鮮でちょっと面白い。


「察するに、そちらの方を私のところに送り込むために先日の茶番を仕組んだのですね」


「はい。私の姪っ子が殿下に憧れているというのは嘘ではありません。この機会で改めて紹介させていただきたいです」


「ルシリブル家のフィンニムと申します!」


「つまり、フィンニムさんは私のギーアル半島におけるガイド役になりたいのですか?」


 もしこのフィンニムという少女がガイド役の座を狙っているとしたら、アインシリーをライバル視しているはずだが、彼女の目線からそんな敵意が見れない。


「いいえ、伯父様は少し誤解しているのです。私にはアンネ様のガイドを務める能力がないし、なりたいとも思っていません。アンネ様が海軍を建設する過程で様々の発明を生み出したと聞いて、その知識と行動力をすごく尊敬しています!特に第三世代錬金術、あのような画期的な技術を、私もぜひ学びたいと思います!」


「第三世代、錬金術を……?」


 まさか10代の少女からその言葉が出るとは思わなかった。錬金製品を紹介するため、これまでギーアルの人々にも少し説明したが、製品の有用性をわかってもらっただけで技術自体にあまり関心がない様子だった。しかし私が始めたいビジネスもちょうど錬金術関係だから、まさに天の配剤だね。


「私が嫁いたルシリブル家は錬金術の名門ですから、子供たちも自然と錬金術を志すが、この子だけ、付与魔法の適性がないのです……」


 おっとりな感じの女性が困り顔で説明すると、大体の状況がわかった。そっか、魔物素材と魔力を使わない第三世代錬金術はフィンニムにとっての光となったのね。


「父様と兄様たちは何もわかっていないのです!第三世代錬金術を子供騙しだと笑うとは!アンネ様の指導下で行われた錬金肥料の実験記録を見れば、どれだけ先進的かつ合理的な技術だと気づくのに、低価格の製品を作るのは家の格を損ねると言って、見向きもしないなんて!」


「フィンニムちゃん、熱くなりすぎ。殿下の御前ですよ」


 あれは西の大陸の作物に対する肥料の適切な用量を調べるために、タシフォーネの片隅で私とクルジリオンの職員たちが行ったテスト。あんな小さな実験に目をつけるとは、面白い子だね。フィンニムが注目しているのは錬金術そのものより、製法を確立するための科学的検証。確かにあれは第二世代錬金術との大きな相違点だね。魔力を使うときはどうしても感覚的になるから。


 議員の用件は謝罪だけだから先に帰った。他に用事があるらしい。まぁ私の新しいビジネスは女性の方がよく理解してくれるから別に問題ない。


「錬金製品の洗髪剤と石鹸は数ヶ月前にサンプルを渡したので、皆さんならもう試したことがあると思います」


「ええ。これまで使ってたものより肌触りが良くて、すごく評判がいいです。早く輸入を始めるようにと、私は夫に何度も催促しましたわ」


「気に入ってくれて、とても嬉しいです。今回は皆さんの力を借りて、そういう洗剤の発展型と言える製品を開発して、テュークリム共和国国内で生産したいと思います」


「こちらで、生産するというのですか?」


「ええ。調査によると、クルジリオン周辺から良質な原料を入手できるので、ここで生産するのが最適だと判断しました。こちらが技術と設備を提供、そちらが土地と人手を用意、資金は双方が合資という形でいいじゃないかと考えています」


 これは利益を譲ることで味方を獲得する作戦だが、現地人の協力があればより簡単に事を進められるのも事実だ。私たちよそ者が利益を全部吸い上げるより、この方が反感が少ないし。


「クルジリオン周辺から採れる原料というのは、植物油のことですね?」


「これだけでわかるのですか。さすがですね」


 クルジリオンの特産に数種の植物油があるし、貿易センターだから様々の国から物産が流入する。油の分野でクルジリオンに匹敵する街はなかなかないと思う。これもクルジリオンで生産したい理由の一つ。そしてこの洗剤に関するノウハウを差し出すと決めた最大な理由は、技術的にハードルが低いから。第三世代錬金術に憧れるだけで、まだきちんと勉強していないフィンニムでも鍵となる原料がわかるくらいだ。


「フィンニムさんならわかると思います。この洗剤類の開発と生産は難しくありません。こちらが手伝わなくとも、まだ第三世代錬金術の初心者のフィンニムさんに十分な資金とバックアップを与えるだけで数年内に製品化できると思います。ならいっそこちらの助力でその過程を早めて、利益を分かち合いたいと考えています」


「なるほど。フィンニムちゃんはわかるのですか?原料に適している植物油のこと」


「はい。精油に使われているレアンクル(地球に類似な植物が存在しないらしい)が最適でしょう。リーンサイエル(ラベンダーらしき植物)も使えるが、材料が高価で香りが増すので高級品に適してると思います。体を洗う石鹸なら南海からテックルゥス(≒ヤシ)、もしくはルファークレクからポリサリム(≒パーム)を輸入するのがいいと思います。ただしこちらで石鹸の生産をするとムサナシピルの業者と競争関係になる恐れがあります。ルーズ(≒ゴマ油)はクルジリオンで大量に生産されているが、経験上この用途には向いていないです。アィルズ(≒クスノキ)は毒性があるので使えません」


 この年でかなり博識だね。意欲も十分だし、フィンニムはなかなかの逸材かもしれない。それにしても、フィンニムが言った植物の数々、私はカネミング石のイヤリングつけているから自動に地球の似ている植物に変換されているけど、地球のことを知らない他の人には同じように聞こえないはず。後で情報を整理して、名前を統一させる必要がありそう。


「クルジリオンにもすでに植物油精錬の技術はありますが、こちらの設備と技術で生産過程を改良できます」


 はっきり言うのは避けるが、貴婦人の二人もフィンニムも私の言いたいことがわかる。生産過程を改良することで、より低いコストで高品質の製品を作れる。つまり現在石鹸の大手であるムサナシピルの業者を叩き潰せる。でもムサナシピルはクルジリオンにとっての良き貿易パートナーだから、それをやっちゃうと得るものより失うものが多いかもしれない。やるべきかは部外者の私には判断できない、当事者たちで決めるべきね。


「あとこれも、フィンニムさんにはわかると思います。第三世代錬金術は10年前に生まれた、まだ発展途上の技術です。発祥地のカリスラントは若干リードしていますが、実は他の国とほぼ差がありません。今から始めるフィンニムさんでも、適切な設備と正しい方法で研究すればすぐに追いつけます。しかもこの地特有の素材で研究すると、カリスラントにもない新発見が簡単にできます。だから私は違う地域でそれぞれ第三世代錬金術の拠点を作り、当地の人間に研究させたいのです。これで一番効率よく新しい発見ができると思いますから」


「その役に、私が適任、と……?」


 震え声になったフィンニム。まぁいきなりこんな大役を任されたから仕方ないね。


「深刻に考える必要はありません。責任者は私たち大人ですから。すぐに成果を出せなくてもいい。他にも開発と生産の人員を用意するつもりだから、フィンニムは勉強しながら地道に頑張ればいいです。私が期待しているのは学術的発展だけじゃない。洗剤の他にも様々の製品ができます。特に期待しているのは、化粧品かな?あれも植物油とすごく相性がいいですから」


 化粧品と聞いて貴婦人方が目を輝かせる。相手を味方に引き込みたいなら、やっぱり興味を引ける材料を用意するのが一番だね。


「あの、アンネ様がそう仰ると、ますますプレッシャーが……ほら、伯母様と母様の目が怖いのですぅ……」


「大丈夫ですよ。ポジティブに考えましょう。これでお二人もきっとフィンニムさんを全力で支援してくれますから。西の大陸で初めての錬金協会の拠点になりますから、クルジリオン分会には特に頑張ってもらいたいですね。いずれは錬金薬品も作ってほしいと思います」


 私の錬金薬品を潰したいあのフリューカィリ商会のために特別に用意したプレゼントだ。これからクルジリオンに設立する第三世代錬金術の拠点で生産され、クルジリオンの有力者も利権を持つ薬に、フリューカィリ商会はどう出るかが見物だね。


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