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海軍王女アンネの異世界探検航海  作者: 海の向こうからのエレジー
チャプター5~ギーアル半島での外交
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5-19 クルジリオン公式訪問 6 ~ストリュア神聖帝国の謎

――再誕の暦867年10月11日、自由港クルジリオン、リフィミシエ・ホテル――


 ホテルの談話室で私はそわそわしながら待ってる。やっとこのときが来た。休暇中のフィレリッタたちが訪れた、クルジリオン西区画にあるレミューシエ=ライミアル神殿。あの神殿のお偉い方がもうすぐ会談に来る。驚くことに、神殿で見つけた本に書かれているストリュア語は、フィレリッタにも読めるくらい古代魔導帝国語に酷似している。さらに神殿の名前とシンボルから推察すると、レミューシエ=ライミアルは私たちがよく知っている、月、伝承と叡智を司る大いなる神レルースイ=ラミエとおそらく同一の存在。んー、レルースイ=ラミエと言えば、リミアの件があって、カリスラント海軍にとっては因縁の相手だが……まぁ、同じ神を信奉するだけだし、ここのレミューシエ=ライミアル神殿はあの砲撃事件も知らない。大丈夫だろう。


 しばらくすると、ホテルのスタッフの案内で、初老の男性一人と女性一人が入室する。女性はおそらくフィレリッタたちが会った司教兼孤児院の管理者。男性は多分その上司、神殿の最高責任者だろう。二人が着ている青いローブは滑らかな生地、袖と襟に銀色の装飾がある、控えめで上品なデザイン。


「テュークリム共和国がレミューシエ=ライミアル教徒を束ねる役目を任じられた、『サタムラシィム』にございまする。此度姫殿下へ拝謁が叶え、恐悦至極にございまする」


 「サタムラシィム」をレルースイ=ラミエ神殿の役職に当てはまると、「月石の継ぎ手サンダゥマラン=シーン」のことかな。つまり、神殿一つを管理する大司教だね。前情報通り、ストリュア語は古代魔導帝国語とよく似ている。カネミング石がなくても意味がわかるくらい。でも私にはかなり古風で奇妙な言い回しに聞こえるし、円滑な意思疎通のためにここはやっぱりイヤリングを使おう。挨拶が済んだ後、私は改めて古代魔導帝国語で切り出す。


「本当に言葉が通じるのですね。しかしやっぱりお互いの言葉に少し難解なところがあると思うので、これからは翻訳用の魔道具を使いたいと思います」


 向こうの了解を得たので、私はイヤリングをつけて、左手をファルナの膝の上に置く。これでファルナも翻訳効果の範囲に入る。打ち合わせ通り、ファルナとティエミリア、そしてフィレリッタとスジェアラが一斉に筆記用具を用意する。


「私の副官と参謀たちに会話を記録させます。それぞれ違う条件で記録するので、今後言語の研究にも使えると思います」


 ファルナはカネミング石の効果で完璧にカリスラント語に翻訳された会話を記録。フィレリッタとスジェアラは参謀ではないが、向こうと面識があるし、古代魔導帝国語のスキルが高いから今回の任務に抜擢した。彼女たちは聞き取れた向こうの言葉をそのまま記録する。ティエミリアは言語能力が若干劣るが、経験豊富の参謀だからこの手の事務仕事が大の得意。全員が取った記録を合わせて参照すれば、かなりの収穫を得られるだろう。


「先日ゼオリムさんたちの訪問で驚くべき事実を発覚してから、わたくしは神殿の書庫を調べてみましたが、なんの手がかりも見つけられず……一昨日大司教様に報告してようやく進展がありました」


「ホッホッホッ、それも仕方ありませんな。『神の国』に関する書物は国外に持ち出さない決まりがありますから、クルジリオンの神殿にはありません。都合が悪いことに、私がタイルスタに行ったから、司教くんに答えをもたらすのが遅くなりました」


「もしかして、その『神の国』に関する資料は秘匿すべき事項……禁書の類ですか?」


「いいえ、神聖帝国領内の規模が大きい神殿なら大体一冊か、二冊くらい保有していて、誰でも閲覧できます。司教くんは昔から実務担当者だから、そんな古い伝承に触れる機会が少ないみたいですな。ホッホッホッ」


「お、お恥ずかしながら……」


「国から持ち出さないのは、別に掟や規則ではなく、ただの古い慣習……一種の願掛けというべきでしょうか。いずれ『神の国』へ帰還するために、本はあるべき場所で保管するように……実際はその慣習を無視して、勝手に持ち出す人が多いです。この私のようにですね」


 大司教が一冊の本を恭しくテーブルに置く。表紙には古代魔導帝国語で、「神天崩落、人地遁走」と書いてある。


「これは私が個人保有の、『崩れゆく神の国からの脱出』の写本です。この出会いの記念としてお納めください。私が本国に帰るとまた入手できるので遠慮する必要はありません」


「それなら、こちらの本との交換でお願いします。私は先日ある資料を読んで、信憑性が低い昔話だと思っていましたが、今改めて見ると、ストリュア神聖帝国の由来と関係がある可能性が高いです」


 こっちが出す資料はもちろん『センチミャラ=サカーリュ~遥か西にある幻の地』。ファルナがくれた誕生日プレゼントだから、渡すのは今日のために作らせた写本。そう言えばこの本はこれからのベストセラーになりそうだし、今のうち原版を作って大量に印刷すべきかもしれない。この世界にはまだ版権保護の概念もないしね。そうだ、カリスラント語の翻訳版も作ろう。


 本は後でゆっくり読めるが、会談を続けるにはある程度の理解が必要。それで本の内容をお互いにざっくり説明することに。


「伝承によると、我々ストリュア人は元々神の国に住んでいて、神の命で地上に降りて資源を採取していました。千年前に神の国に厄災が訪れ、生き残った神と人は全員地上に落ち延び、厄災を封じ込むために神の国と繋がるゲートを破壊しました」


 なるほど、「ゲート」、か……本当にそんなテレポーテーションみたいな移動手段があったんだ。さすがはアフェングストリア魔導帝国というべきか。カネミィームの伝意塔や、タリサミングの絶対防衛圏のようなとんでもない遺産を作った古代超文明だし。


「こちらが提供した本は、おそらく厄災より前に、地上で資源採取の様子についての描写ですね。神の国の厄災も、私たちが知る歴史にそれらしき記述があります」


 アフェングストリア魔導帝国を滅ぼした魔物氾濫について説明したところで、大司教は魔導帝国についていくつの質問をして、それが伝承の中にある「神の国」だとほぼ確信した。


「どうやらストリュア人のルーツは、東の大陸にありますな……そのような仮説を見たことはあるが、まさか当たっているとは。帝都の神盟大神殿にはもう少し詳細な記述と、帝室の家系譜があります。この大発見を報告すれば、閲覧権限を持つ者が調べて、ストリュア人とアフェングストリア魔導帝国の関係をはっきりさせられるかもしれませんな」


「もしかして、カリスラント人がわたくしたちの先祖かもしれませんね」


「あっ、司教様、それは違います。私たちカリスラントは、旧魔導帝国の領域外ですね」


 プレゼントとして用意した東の大陸の大雑把な地図でカリスラントの位置を説明する。西の大陸の人間にとって非常に戦略価値が高い情報だが……まぁ、大陸間航海を独占しているから、これくらいは渡しても大丈夫と判断した。


「なるほど、大草原の騎馬民族でしたね。そう言えば、クルジリオンに数百年ぶりに馬が現れたと聞きました……」


 馬の話になると、司教が不安そうな表情を見せる。ナイトメアの災いがストリュア人の記憶に深く刻まれているからか。そう言えば、ストリュア人が馬を使って周辺国を征服したって話があったね。つまり、西の大陸には野生の馬がいなかった、ストリュア人の先祖があのゲートを使って連れ込んだのね。


「殿下は海神の娘の化身ダルシネ=ルーデアと公式に認定されたと聞きます。ここクルジリオンに海神の神殿はないが、近くのフーレレヤは海神信仰の聖地、『ダーネリトル』の大神殿があります。そのダーネリトルの娘は半人半神の『ダーシナエル』。発音まで似ていると、東の大陸の海神信仰と深い関係があると思われますな」


「フーレレヤの話は前から聞きました。海神信仰の聖地なんですね。私と深い縁がありますし、機会があれば行ってみたいです」


 次は宗教談義になった。予想はしていたが、やっぱり同じ由来の神が多い。ギリシャ神話とローマ神話に名前が微妙に違う同一神が多数いるみたいな感じね。同じ信仰だと思われるレルースイ=ラミエ神殿の存在に、向こうは当然大いに興味を示す。


「でも、これは先に話しておいたほうがいいですね……現在私たちカリスラント海軍は、レルースイ=ラミエ神殿との関係が少々……こじれている、といいますか……」


「それはまた、どうしてですか?」


「去年の冬までにかなり大きな戦争がありました。敵国の街にあるレルースイ=ラミエ大神殿に敵の伏兵が潜んだので、私たちの艦隊が砲撃して、大神殿を焼き払いました」


「えっ、大神殿、を……」


 東の大陸では誰でも知ってる大事件だし、いつまでも隠し通せるはずがない。それなら最初から正直に話したほうがいいね。ついでに自分たちにとって若干都合がいいように伝えることもできる。


「そんなことも正直に話してくれるとは、殿下はやはり信頼できるお方だと改めて確信しました。ご安心ください。仮に同じ神を信奉するとしても、我々レミューシエ=ライミアル神殿は別の組織です。東の大陸のいざこざとは無関係です」


 まぁ、そうなるよね。千年前から別々に派生したんだし、今はそれぞれに神盟大神殿と中央神殿という、名目上の上位組織があるし……そう言えば、中央神殿の話はまだしてないね。


 しかし、中央神殿とその前身に当たる創造神教の話をすると、予想外な反応をされる。


「創造神、教……?なっ!ならん!あの連中が……『終焉教団』の連中が、レミューシエ=ライミアルの上だと?断じて認めん!」


「えっ?『終焉教団』、ですか?」


 創造神教の名を聞くと急に取り乱す大司教。ずっと優しく微笑んでいた司教も険しい顔になる。温和な人格者だと思ってた二人がなぜそんな反応をするのか、詳しく聞く必要がありそう。


「……申し訳ありません。よく考えると、東の大陸の創造神教も、こちらのとは別物だと考えるべきですな。東の大陸の各神殿が、その大和解が信じられると判断したなら、それなりの根拠があるでしょう。だが西の大陸の創造神教、今は終焉教団と名乗る連中には必ずご留意してください」


 東の大陸では魔物氾濫と暗黒時代を経て、創造神教は各神殿と和解できたが、西の大陸では逆に対立が激化したみたい。


「そこまでの脅威なんですか?」


「はい。あれは狂人のテロリスト集団です。私の弟一家もやつらに惨殺されました」


「アンネ様、大司教様が言っていることは本当です。タシフォーネを乗っ取ったハゲタカという男が愛用していた、中毒性が高い葉巻は、終焉教団が狂信者を作るためのものだと言われています」


 隣でずっと黙って聞いてたアインシリーもそう言うんだし、終焉教団がやばいってのは本当みたいね。麻薬で狂信者を作ってテロ活動とか、まるで地球中世の悪名高い暗殺教団じゃないか。


「あのハゲタカも終焉教団の一員なのか?」


「彼はそんな感じではないみたいです。推測なんですが、ハゲタカが傭兵稼業してた時期に終焉教団関係者の仕事を引き受けて、そこで葉巻に触れて中毒になったんでしょう」


「アンネ様、そろそろ時間です」


「もうこんな時間になりましたか。まだまだ話したいことがたくさんありますが、今日はここでお開きにしたほうがいいですね。お互いが本を読んで、一度情報を整理したら、また話ししましょうか」


「こちらも今日の成果を上に報告しないといけませんな。私の管理下にある書庫をカリスラントの方々に開放します。お好きなように調べてください」


 興味深い話をたくさんして、もう少し続けたいけど、昼食と休憩を挟んですでに6時間以上話した。この考古学の大発見の研究はおそらく私が一生を費やしても終りが見えないものだし、性急に進めても仕方ないね。


――付録:現時点でのカリスラント人の西の大陸への認識――

実際に地形調査をしたギーアル半島以外の情報はクルジリオン勢への聞き込みなのでかなりあやふやです。この地図の図面もかなりいい加減で後で追加する詳細な地図と違うところはあるでしょう。

挿絵(By みてみん)


A ムサナシピル

B ルファークレクのジャングル

ルファークレク人の領域は地球のマダガスカルのように、大陸の隣にあるでっかい島らしい。間の海峡にある島ムサナシピルは航海の難所で天然要塞。ムサナシピルより先の南海は非常に特異な環境で帆船が通用しない。なので北と南の往来はムサナシピルで乗り換えのが基本。


C ハインフェーカ王国

北にある島国で海軍大国。だがクルジリオンの人はタシフォーネの海賊のせいで北へ向かうことが少ないので詳しい情報がない。


D トズルサ公国

ストリュア神聖帝国の属国で大きい川の川口を抑えている北限の港。神聖帝国への水運の要だからかなり重要な位置。


E:ストリュア神聖帝国

西の大陸の半分?を支配している超巨大国家。南部は砂漠と山が多く、その先はテランクジーレ人の領域。


F:テランクジーレ人諸国

西の大陸の南部は複雑な地形で多数の国に分裂しているらしい。外部からはテランクジーレ人で一括りにしているが、更に山の民と海の民で分類できるらしい。南海(紺色パート)はほぼ無風しかも水生植物(リーメプレの木?)の脅威があるので、帆船もガレー船も運用できず、シーサーペントで牽引する独特な船が主流。

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