1-10 ファルナからの贈り物(やばいやつ)
――港町サーリッシュナル、海神ダルネリトン=ルー神殿――
離宮で一泊して、二日目は王都で挨拶回り。探検に出る前に一度会う必要がある人が多いから、なかなかハードな一日だった。夕方になるとファルナと合流して、また夜間馬車でサーリッシュナルに戻った。
そして今私たちは、例のダルシネ=ルーデアの認定式のためにダルネリトン=ルー神殿に来ている。お父様がすでに話をつけたから、神官たちも私が多忙なのを知っているし、手続きと儀礼は最低限で済むように手配してくれた。
この神殿もこの町と同じ、10年間で大きく変わったね。昔のカリスラントは海に無関心だったから、海神の神殿なんてなかった。サーリッシュナルに訪れるザンミアル商人が増えてから参拝のために神殿を建てた。あの頃のサーリッシュナルはまるでザンミアルの経済植民地みたいだった。ちなみにこれは別に悪い意味で言ってるわけではない。ザンミアルは海運で大いに儲けたが、カリスラントの人々も以前より内海の特産品を大量で安く入手できるようになった。カリスラントの農畜産物を輸出してもらって相場の安定化にも寄与した。どちらにとってもいい話だった。ザンミアルのほうの利益が大きかったが、それくらいは貿易ルートを開拓した者の当然の権利だと思う。そしてその当然の権利に胡座をかいて海軍の発展を疎かにしたから、商業競争でボロ負けした。だから私はザンミアルの海上商業帝国を潰したことにまったく罪悪感がない。
競争力を失ったザンミアル商人は続々とサーリッシュナルから撤退。戦争が勃発したら全員いなくなった。敵対国になったから当然だね。私の海軍に海神の恩寵を受けたい人が多いから、その頃のダルネリトン=ルー神殿すでにそれなりのカリスラント人信者がいる。私も信仰心皆無だけど一応ダルネリトン=ルーの信者になってる。しかし羽振りがいいザンミアル商人の寄付金を失ったのは神殿にとって大きな痛手。責任を感じる私は私財の大半を補填として寄付した。私の品位維持費ほぼ使ったことがないからかなりの金額になってる(私は海軍に大金を使ったがそれは国家予算で賄うようになってる)。それ以来サーリッシュナルのダルネリトン=ルー神殿は私に頭が上がらない。私がダルシネ=ルーデアとして認定されるのは、多分この高額寄付も原因の一つだね。
着替えるために私たちは神殿裏の小部屋に入った。机の上にすでにこれからの儀礼のために用意した服が置いてある。
「これが、ダルシネ=ルーデアの服か」
淡い青色のローブに、パールのペンダントと、レッドコーラルの宝冠。この衣装には特に神話的な由来がないらしい。ダルシネ=ルーの一般的イメージではアクセサリーなどつけていないし、普段は動きやすい質素な身なり。よく海を泳いだり、海に潜るから。でもそれを忠実に再現したら高位の神職としては地味すぎ。だから神殿は半神の化身の格に合いそうな服装をオリジナルで作った。
「今後アンネ様に縁談を持ちかける人が現れたら、この衣装を身につけて、すでに神に身を捧げたことを示せばいいのですね」
「つまり探検の旅にこれを持って行くしかないね」
船の積載量に限りがあるから、本当は持ち込む服が一着増えるだけでもいやだけど……これはやっぱり必要なものだね。海の向こうの人は宗教が違うから、どこまで効果があるかはわからないが……まぁ、ないよりはましか。
「恐れ入りますが、着替える前にアンネ様にお贈りしたい物があります」
「え?今、ここで?」
「一昨日アンネ様はマールシレン様と約束しましたね。カリー=ネレィーミムの衣を大事にするように、と」
「はぁ、やっぱり……そうくると思ったよ」
「さすがはアンネ様。わたくしのことをよく理解していますね。それでは、アンネ様の羽衣を守る役目をわたくしに任せていただけないでしょうか?」
ファルナが持ってるソレは、鍵穴がある、銀色のT型の装身具。まぁ、ん……その、貞操帯だね。一昨日お母様と羽衣とやらの話をしたし、ファルナのことだから、絶対こうなるのがわかっていた。
ファルナが私に装身具を贈るのは、これで三回目。前回は特にへんな意味がない、普通の宝石の指輪。私が先に指輪を贈ったからそのお返し。でも一回目、私が最初に貰ったやつもやばかった。見た目はトパースがついたオシャレなチョーカー。バリアの付与魔法で私に対する攻撃を自動に防ぐ、国宝級の護身用魔道具でもある。しかし私たちの間でこのチョーカーは他にも意味がある。生体魔力認証式で施錠するから、一度付けるとファルナしか外せない。そう、このチョーカーは、私用の首輪でもあるのだ……
「ふふっ、顔が赤いですよ。アンネ様」
私の顔を見てニコニコするファルナ。しまった……またいつもの癖でチョーカーを撫でている。こうするとファルナに守られているのを実感できてすごく安心するから、考え事しながら首を撫でるのがすっかり癖になっちゃった。はぁ、恋人にこんなのを贈るファルナはやばいけど、もらって喜ぶ私も大概だよね……
「なんで今なの?昨日屋敷で渡してもいいじゃない?」
「せっかくなので、大事な儀式の場で初めて着たほうがより興奮するでしょう?」
認めたくはないけど、ファルナが言ってることは本当。私はもうダルシネ=ルーデアの服の下にソレをつける自分の姿を妄想している。国民たちに愛され、半神の化身とまで持て囃される私だけど、実はこんないけない趣味の持ち主……
あぁ、やっぱりこんなプレイで得られる恥ずかしさと背徳感がたまらない。でも王女であり、救国の英雄でもある私が破廉恥な格好をするわけにもいかない。だからファルナは私の品位を損なうことなく背徳感だけ味わわせるように工夫する。例えばこのチョーカーも、私がファルナの所有物になった証ではあるが、傍から見るとどこもおかしくない。ファルナはそんなぎりぎりのラインを攻めるのが本当に上手。
「……でも、これをつけたまま人前に出て、それもこんな大事なときに……万が一、式の途中私が、頭がおかしくなったら……」
なかなか踏み切れない私を見て、ファルナは私の手を握り、優しく撫でる。
「大丈夫です。もしドキドキしすぎて気が狂いそうなら、その時は考え方を変えましょう。これは女性の大事なところを守るためのモノでもあります。自分の身を守るためにつける人だっています。アンネ様のような高貴な方が着用しても別におかしくありません。わたくしもいつでもフォローできるようにするから絶対に大丈夫です。安心して楽しんでいってください」
「うん、そっ、そうだね」
私が銀色のアレをちゃんと着たのを確認したら、ファルナは施錠した。
「はい。これでアンネ様のあそこもわたくしの支配下に置かれました」
「や、やめてよ、そんな言い方……」
「それで、サイズはどうでしょうか?」
「サイズはぴったりよ……意外と、着心地が悪くないわね」
「当然です。アンネ様に窮屈な思いをさせるようなものを着せるはずがありません。これは貴人が使うことを想定した逸品です。違和感を覚えない、程よい束縛感。コンディション保持のために貴重な魔物素材などを惜しみなく使いました。長期間の着用でも快適さを保つでしょう」
まあ、そういう目的なモノだから、つけっぱなしのを想定して作ったんだろう。
「内側に特殊な素材が貼られているから、お花摘みで汚したら着たまま水をかけて洗うといいですよ。魔力を通すとすぐに乾くから冷たく感じるのは一瞬だけです」
「なんでそんなに詳しいのよ。ファルナだってこれをつけたことがないでしょう」
「もちろんわたくしは着てみましたよ。アンネ様への贈り物だから、わたくしがちゃんと試してみなければなりません。昨夜はつけたまま就寝しました」
「えっ?」
つまり、ファルナが一晩中つけてたやつを、今私が……
「あっ、今いかがわしい想像をしたでしょう」
「べっ、別にそ、そんなこと……あぁああっ、あるわけ、ないじゃない……」
「ふふっ、今はお相手することができませんよ。大神官様が待ってるから、程々にね」
「だからっ、別にそんなんじゃ、」
「ちなみに、今アンネ様が着用しているのは新品です。わたくしが使ったのは洗濯待ち」
って違うのかい!……まぁそれもそうか。下着みたいなものだから、日常的に使うつもりなら複数用意してもおかしくない。
しかし、またしても自分が越えるべきじゃない一線を越えてしまったような気がする……恋人からもらった首輪と貞操帯を身につけて、人前に出る王女って、どうなのよ……
この作品中のプレイは全部本人たちの合意の上で行うものです。相手の同意なしに実行するのは犯罪です。大事なことだから絶対に忘れないように。




