即死モードは伊達じゃない!
追放者決定権を得る。
そう俺が一番偉い。お前らはゴミだ。
ゴミの中から一番のゴミを選べとのお達し。
選んでやろうじゃないかゴミの中のゴミを。
誰を選ぶ? さすがに同郷は裏切れない。
うーんでは誰を? 俺の苦悩を分かってくれ。
全体を見回すが皆視線を合わせようとせず俯く。
馬鹿な。目が合っただけで選ぶはずないだろ。
さすがにそこは信用してくれ。
そうだ。橋が落ちた時に変な奴らが混じってたっけ。
奴らが何者かは知らないがここはその中から選ぶのが妥当だろう。
えーっと……
適当に選ぶことをせず時間をかけた為に追放官を失望させる。
「何だやりたくないのか。よしお前が代われ! 」
「ええちょっと…… 」
追放官は隣にいた最年少の者に任せた。
チビで頭も悪いとこの中でも馬鹿にされる始末。
身長もなければ見た目も幼い。俺より三個も下だ。
だからもちろん上の奴の圧力に屈することになる。
「なあイシコロ村の奴がいいんじゃないか。
あいつら頭も悪いし今だって馬鹿だから交代させられてるしよ。なあ」
「そうだ。そうだ。賛成! 」
馬鹿! 耳を傾けるな。追放するなら奴らがいい。
お前を馬鹿にしていただろ? そいつらを追放するんだ。
考えろ! よく考えるんだ!
「ひいい」
俺でも怯むのにこの子では震えて言いなりになるのは目に見えてる。
「あの…… 」
「何だお前もダメか? 」
追放官のため息が漏れる。
「いえそんなことはありません! 追放者はこのイシコロ村の二人です」
「おおお! 」
大歓声が上がる。
もちろん彼らだってここで追放されるのは困るだろう。
いくらゴミしか集まらなかったとしても村から選ばれた勇者。
ここで戻っては格好がつかない。
ただ俺は知っている。
この世界が前回とまったく同じなら追放とは村に帰されるのではなく……
「冗談だろ? 俺はお前に譲ったんだぞ。恩を仇で返す奴があるか。馬鹿野郎!」
ガキが怯めば意見を変える。それに賭ける。
「でも…… 」
「はいそこダメだよ」
笑顔の追放官が優しく叱る。
これ以上は文句を言うなと圧力をかける。
分かってるさ。俺が選ばれることぐらい。即死モードだもんな。
「いいんだ。いいんだ。俺なんか…… 」
同情を引くように下を向く。ついでに涙も流す。
だが誰も慰めても反対してもくれない。
「へへへ! イシコロのお二人さんには悪いがこれも決まったこと」
さっきから余裕の表情で笑みを浮かべる奴。確か山切り村のお坊ちゃん。
山切り村は隣の隣の村で直接の関わりはないが祭りで何度か見かけたことがある。
ここでは珍しい金持ちの部類。彼の祖父は山を切り開いた五人衆の一人。
英雄扱いされていて金も持っている。
金山だか銀山だか銅山だったかまでは不確かだがとにかく金持ち。
祭りの時も派手に使っていた記憶がある。
羨ましかったんだよね。いつかは俺も……
そんな奴だから性格は酷く歪んでいる。強くも頭も良くもないがずるがしこい。
強い奴を味方につけるのが上手く今回の旅でもリーダー面していたっけ。
アホだからこんな危険な旅に招集されることになる。人のこと言えないが……
まさか自分から名乗り出てるとは一体何を考えてるやら。
まあみんな考えてることは同じか。
何とか姫と仲良くなって王子の代わりに結ばれたい。
俺だって考えてない訳じゃないけどな。ただ俺は主役だろ? だから問題ない。
奴は明らかに引き立て役かライバル程度にしかならない。
お坊ちゃん参りましたよ。次があったら覚えてろよ。まあ次はあるんだけどね。
「よし三人はこっちに来い! 」
仕方なく着いて行くことに。
ああ結局回避できなかったか。即死モードは伊達じゃない。
イシコロ村の仲間でもう一人の生贄のウエスティンの汗が尋常じゃない。
「どうしたリラックスしようぜ? ここ…… 殺される訳じゃないんだしよ」
ついつい確定した事実をふんわりとごまかす。
「だってよなんか怖くはないか? 」
「そうかなあ…… 」
「怖くて怖くてどうしようもないんだ! 」
当たっている。この後は村ではなく絶望的な世界に連れていかれるのだ。
俺は知っているから胸を張れる。
ウエスティンはどことなく嗅ぎ取ったのだろう。彼はそう言う勘が働く。
俺はどうすれば……
村の仲間を見捨てるのか?
俺から離れるなと言うべきか?
でも……
真っ暗な世界。
追放者は処刑場に連れていかれた。
続く
⑤