追放官 役立たずな五人
村の者に紹介。
「アイネ村の皆さん、サーマ姫です。盛大な歓迎大変うれしく思っております。
私からもこの村の発展と繁栄を願わせてください」
そう言うと深々と礼をする。
「おお! 何と美しい」
村人全員が集結。
それもそのはず。サーマ姫は美しく昔から憧れの対象。
その姫がご結婚なさるのだ。もう会えないかもしれない。
そう考えれば自然と皆が集まって来るのも頷ける。
「おい! 見えねいよ! 」
「どけよ! 邪魔だ! 」
村人が我先にと前に出る。
そこをすかさず止めに入る。
これも護衛の大切な役目。
危険なのは道中だけではなくこのような群衆にも気をつける必要がある。
「おいそこ! 」
混乱は続く。
「離れて! そこ前に出ないで! 」
「うおおお! 」
興奮した村人たちが奇声を上げ突っ込んでくる。
多くが若い男。困ったものだ。
「それでは挨拶はこれくらいで」
村人によって歓迎を受ける。
お酒と豪勢な食事が振る舞われる。
もちろん俺たちは食べてはダメだ。
怪しい者がいないか見張る。近づく者は容赦しない。
「何をやっている! 」
酔っぱらった村人がサーマ姫の手を掴もうとする。
そこをすかさず持っていた槍で牽制。
男が怯んでいる隙にウエスティンが取り押さえる。
形にはなっている。
ふうふう
ふうふう
危ない危ない。
「馬鹿野郎! 」
大声で一喝。
他の者にも分かるように注意。羽目を外してもいいが外し過ぎはダメだ。
「さあ食べて! 食べて! 」
和やかな雰囲気で歓迎の宴を終える。
残すはサーマ姫のお返し。
サーマ姫は美しいだけでなく歌姫としての一面もある。
戦場では危険も顧みずに戦士の為に歌い上げた。
癒しとなり女神様とも称えられた。
そんな逸話が残っている。真実かはともかく村々ではそう認識されている。
しかし戦場ってのは俺が子供の頃の話。もちろんサーマ姫だって幼かったはず。
まったく凄いお人だ。俺たちが護衛する必要が本当にあるのか?
「初めてなんだ」
「俺も…… 聞いたことがない」
こんな場は俺も初めて。
「俺緊張してる」
「俺もだ」
皆不要扱いされている貧しい者。
こんな機会に出くわすことはない。
「ありがとうございます。これは私からのせめてものお礼の気持ちです」
そう言うと息を大きく吸い歌いだす。
ラララ……
アア!
アイネ村の日常を歌い。村の自然を歌い。最後に村の平和を歌い上げフィナーレ。
透き通る声にどこまでも響く音色。
人々を虜にする。最後には拍手喝采。
誰かがブラボーと言えば誰かがアモ―レと言う。
「ははは! 誰だい恥ずかしいね」
「うるせいよ! 好きに言わせろよ! 」
「まったくあんたんとこのサンペイには困ったね」
「ははは! いいじゃねいか」
大盛りあがりのうちに宴を終える。
村人との触れ合いも終え用意された宿へ。
サーマ姫はお付の者と二人部屋へ。
これで今日の任務を終える。
俺たちはこの村に派遣されている仲間の元へ。
「今日は一日ご苦労。楽にしてくれ。この後食事に連れて行ってやる」
「やったー 」
「だがその前に…… 」
手当がもらえるんだったけ?
「橋の件は報告が上がってる。今回は無事だったが姫に何かあっては敵わない」
「はああ? 」
「そこで役立たず五名にはここで抜けてもらう。皆で話し合って決めて欲しい」
「ちょっと待ってくれよ! あんた一体何なんだ? 」
「言ってなかったか。それはそれは」
自己紹介を始める。
「私は追放士。追放官が一般的かな。好きに呼べばいい」
「追放士? 追放官? 何だそれ? 」
「ああ。お前たちの中から役立たずを排除する者だ」
ははは!
わははは!
冗談だと思い皆笑っている。
「そんな話聞いてない。本当か? 」
「そうだそうだ! ふざけんな! 」
「おいおい、これは国王の発案。まさか従えないなんてことはないよな? 」
「くそ! 」
「分かったよ! 分かった! 」
納得など出来ないが国王の決めたこと。まったく何を考えているのか?
「それではさっそくと言いたいところだが私にはお前たちのことが分からない。
だからお前ら自身で五名選んで欲しい。
役立たずからさらに役立たずを選ぶのだ。大変だろうが仕方がない。
さあ分かったらさっさと決めろ!
私は隣の部屋にいる。選んだら呼んでくれ」
そう言って行ってしまった。
困ったなあ。誰を選ぶべき?
話し合いではもちろん決まらない。
これは多数決しかない。
役立たずの名前が順に挙がる。
ほとんど役に立っていない者とは誰か?
それは……
三名までが選ばれた。
続く
⑤