くそ! 儂としたことが……
元神危機一髪。
ブウウン
ブウウン
さっきから後ろで爆音が響き渡る。
これは……
お仲間が現れた。
命知らずの若者の集団に呑み込まれる。
「おい急がぬか! 」
「ふふふ…… 今日も勝負だぜ! 」
もはやお客を無視したカーニバルが始まる。
もう野ぐそしてる暇も無い。
スピード狂たちが集まればおのずとレースが始まる。
レースと言ってもサーキット場ではなくただの山道。
舗装だって剥がれている。
大雨で土砂が流入。
水たまりを思いっ切り蹴る。
窓から覗けば青いタクシーがいつの間にか黄土色になっている。
「おい! 儂は客だぞ! 本当は神だけど…… 」
「ああん? 聞こえねえよ! 今集中してるんだ。話しかけてくるな! 」
理不尽にキレる無免許男。ダメだ最後の説得も意味をなさない。
ワイルドだろ?
彼らにとって儂はただの空気。もはや存在さえ忘れられている。
しかし神なのだぞ? 元だけど……
「クソ! 抜かれてたまるか! 」
興奮したスピード狂。
もうダメ。我慢の限界。ついにやってしまう。
こうして芸術作品が出来上がる。
未だかつてない程のクオリティー。
アート中のアート。前衛的なアートの出来上がり。
なぜこのように神懸るっているかと言うともちろん元神だからである。
だがそれ以上に儂の芸術への目覚めと熱き想い。それに加えこの非現実的な状況。
これらすべてが合わさり芸術作品へと昇華したのだ。
ただ神が非現実などと言っていいものか……
とにかくそれらの要因がこの芸術を作り上げたのは間違いない。
手を離さず後ろを向けずにただ運転してるこ奴には未だ認識はされないだろうが。
ほら見るがよい。触るがよい。嗅ぐがよい。
「おいなんか臭くないか? これがいわゆる爺臭って奴か」
とんでもなく失礼な無免許男。
だがその原因を作ってると自覚してるので強くは言えない。
「それを言うなら加齢臭じゃろ」
「いやそれとはちょっと…… 」
加齢臭などでは片付けられない強烈な何か。
男は異変に気付いたようだ。
勘違いしてくれるな。儂だって好きでやったのではない。
これも自然の摂理。
ブツは後部座席にこんもり。
儂は元神である前に動物だ。
飯も食うし寝もするしくそだってする。
後悔はしてない。
「おい何しやがる! 」
キキ……
ついに急ブレーキをかけ車がストップ。
チキンレースには敗れ怒り心頭の男によって無理矢理降ろされる。
まさか元神だぞ?
いくらおくそを漏らしたからと言ってこの仕打ちはない。
断固抗議すべきだ。
「おい待たぬか! 」
だが車はもはや遥か遠く。
置き土産を乗せ行ってしまった。
ついに思い出した。
そうかこの時にルーレットを落としたのだろう。
ではそろそろ回想を終えるとするか。
「ちょっと師匠。どうしたんですか? 」
「いや何ちょっとな…… 」
チキンレースの最中に再び起きた珍事。
「おい爺さん。お前まさか? 」
「おう。思い出したか。じゃがもう遅い。
儂とて好きでやった訳ではない。あの時も。今回も。
さあ即刻レースを止め儂らを解放するのだ! 」
「師匠? 気を確かに。誰と話してるんですか? 」
そうであった。幻影だ。幻影と争うとは……
これは本当にまずい。追い込まれておる。
さあもう時間もない。
手っ取り早く回収するとしよう。
くそまみれのルーレットを掴む。
「うむ。懐かしい匂いだ」
そのままの状態で保存するとは大した心がけ。
じゃが出来たらもう少しオブラートにでも包んで欲しいものだ。
劣化だってほら。色あせてる。
ものぐさ過ぎるぞ。
まあだからルーレットも残ってたと言えるかの。
「あの師匠。そろそろ戻りませんか? 」
「うむ。儂もそう思っておった。じゃがどうやってこのスピード地獄から逃れる」
そう前にも後ろにも奴らの仲間がいる。
今更止めることもスピードを落とすこともできない。
「それはもちろん魔法で」
「だからそれは効かないと言ってるであろうが! 」
「とにかく無事チキンレースが終わるまで待つの! 」
鼻を押さえ息苦しそうにしているサーマ。
確かにダブルではさすがに耐えられまい。
ウエスティンはすでに意識を失ってる。
チキンレースの恐怖なのか?
峠の走り屋集団に対する恐怖なのか?
スピードのせいで気持ち悪いのか?
独特の臭いにやられたのか?
どれにしろ勇者失格は間違いない。
ウエスティンは果たして意識を取り戻せるか?
ブツを乗せたままチキンレースは終盤戦へ。
続く
⑤




