ペガサス症候群
ペガサスに乗り南端を目指す。
「では出発! 」
「それで師匠。我々はどこに向かってるんですか? 」
「さあそれは儂にも分からん」
ペガサスには四人一緒に乗る。
そのせいでギュウギュウ。動きが取れない。
不満が溜まり言い争いが起きる始末。
「ちょっと押さないで! 」
「しかし儂だって苦しい。我慢せい! 」
「もう暑苦しい! 」
「寒いのだからちょうど良かろう」
「だから近づかないで! 」
「うわあああ! 」
爺が動き過ぎたせいでウエスティンが落下。
地面スレスレのところでペガサスキャッチ。
「師匠気を付けてください。大丈夫かウエスティン? 」
「ああ助かったよ」
「それでどうするこれから? 」
「呑気にしてる場合じゃない。とにかく人がいる街を探しましょう」
サーマの的確な指示。
まだ目的地は遥か遠く。
初飛行のペガサスの体力も考えると休み休み行くしかない。
俺たちもこの苦しい態勢では一時間が限度。
あれ…… 静かだな。
特に爺さんの口数が減った。
何か嫌な予感がする。
うーん風が気持ちいい。
ペガサスに乗っていると心が落ち着く。
嫌なことをすべて忘れてしまいそう。
ペガサスだけではない。
このキャンバス一杯に広がる大空を翔るとすべてがどうでもよくなる。
「ねえ師匠。俺たちどこに向かってるんでしたっけ」
つい目的も忘れ空の旅を満喫する。
だがそれを遥かに上回る人物が。
「ううん? どこの子かの。随分と生意気そうに」
「師匠。冗談がきついですよ。俺ですよ俺」
「何じゃ新手の詐欺か。うーん婆さんや。小童の言うことなど聞くでない」
どうも爺さんの様子がおかしい。
「師匠本当にどうしたんですか? 飽きちゃいましたか空の旅」
反応は薄い。上の空で笑っている。
「ちょっともしかして婆さんって私のこと? もう冗談じゃない! 」
サミーが吠える。
「どうしたんだろう師匠。旅の疲れかなあ」
「もしかして…… 」
サミーが核心に迫る。
「師匠! 師匠! お気を確かに! 」
「ふふふ…… 」
急に笑い出す。
「ねえサミー。これは? 」
「たぶんボケちゃったのよ。お爺様がそうだったもの」
「そうか。俺んとこの爺さんはしっかりしてるがな」
「小童め! 静かにせぬか。せっかくの婆さんとの楽しい一時を邪魔しおって。
どこの悪ガキじゃまったく! 」
自分の世界に入り込んでいる。
やはりこれはおかしい。完全に狂ってしまった。
「とにかく一旦博士の元に戻ろう」
話し合いの結果引き返すことに。
結局一日と立たずに博士の元へ。
トントン
トントン
「ああん? お泊りかい」
「宿屋のおやじはいいから早くお願いします」
「うん。ああ、君たちか。どうしたんだい? 」
博士は得意の金儲けに走るが俺たちだと分かりやる気をなくす。
「おうそうか。ペガサスに乗っていたら爺さんがおかしくなったか」
「博士お願いします。重症なんです」
とりあえず一泊することに。
「これは酷い。ペガサス症候群の初期段階。まさかペガサスにでも乗ったのか?」
「あなたが寄越したんでしょうが! 」
サミーは呆れる。
「たぶん高揚し過ぎたんだろう。お年寄りには刺激が強すぎたのかな」
呑気な博士。
「まさかあなたわざと…… 」
「おいおい冗談だろ。これでも研究者の端くれ。そんな最低なことするか」
「だったら何で? 」
「いやその…… そういった症例があることは把握してたんだが……
ごく稀でね。まさか発症するとは」
「治るんですか? 」
「大丈夫。まだ初期段階。二日もあれば元に戻ると思うかな…… 」
はっきりしない博士。いまいち信用できない。
すべて博士に任す。もはや他に誰も爺さんを助けられはしない。
「とにかく実験してみよう」
爺さんを座らせる。
「あなたは誰ですか? 」
「しがないちりめん問屋のご隠居でございます」
「ダメだこれは思っていたより重症ですね」
医者のように診断を下す博士。
果たしてどこまで信用したらいいのやら。
「師匠! 」
「ほらお静かに。元に戻すには安静が必要です」
寝かしつける。
博士は実験と称して順番に呼びかけるように指示。
「師匠! 元に戻って。そして俺をベビーモードに」
だが笑うばかりで反応は薄いまま。
「うーん。刺激が足りないかな。次」
「早く目を覚ましなさいよ! 」
サミーの強烈なピンタが寸前で止る。
「なんてことをするんですか。一応は病人なんですからね」
荒治療は効果がないらしい。
「僕はどうすれば…… 」
豪快に汗を拭きだすウエスティン。
彼にも彼なりの思いがある。
「従者よ私の荷物を持たんか! 」
爺さんが反応した。
皆大喜び。
「寝かせておいてあげましょう。明日には回復してますよきっと」
果たして爺の運命は?
続く
⑤




