壊れた橋
翌朝。
サーマ姫護衛作戦開始。
国王の激励を受ける。
「良いか皆の者。我が娘・サーマ姫を頼んだぞ! 」
「おう! 」
「ははは! 心強い。これは頼もしいな」
満足そうに微笑む国王。
「ではサーマ姫。体に気をつけるのだぞ」
「はい。お父様。行って参ります」
俯きがちなサーマ姫。
「皆さんよろしく」
丁寧に一人一人に挨拶して回る姫。一瞬で虜になってしまう勇者たち。
上品さと透明感のある見た目。さすが一国の姫だけある。
「行ってらっしゃい姫様! 」
「お気をつけて! 」
サーマ姫を慕ってメイドに屋敷の者たちが参列する。
よくよく考えれば国王含め今生の別れとなる。
開門。
ついにサーマ姫一行は旅立った。
先頭の動き合わせてついて行く。
俺も前の奴に合わせればいい。窮屈だが問題ない。
頭を使わずに済むから逆に助かるくらいだ。
前後左右に勇者たちがつき姫を囲む。
さすがにこれでは姫も歩きにくいがこれも魔王から身を守る為には仕方ないこと。
サーマ姫は歩くと言うよりも歩かされている感じだろうか。
それにしてもここまで警戒する必要あるのか?
魔王が襲ってきても返り討ちにすればいいだけなのに。
ざわざわ
ざわざわ
「サーマ姫も可哀想にな。あんな最低王子のところに行かないといけないなんて」
「静かにしろ! 姫に聞こえる! 」
王子の評判は最悪。あらゆる女に手を出す最低野郎と噂されている。
会ったこともない奴の評判を真に受けるほど馬鹿じゃない。
だが王子がそんなどうしようもない奴なら俺でも対抗できる。
必ず王子から守って見せる。あれ? ちょっと違う気もするな……
最低な王子か……
嫉妬からだろうが実際はどうか……
ワイワイ
ガヤガヤ
まるで緊張感が無い。これではピクニックと変わりない。
仲間が多すぎることも原因の一つ。緩めば必ず隙が出る。
そこを突かれないようにすることが大切だ。
問題はそれだけではない。敵が見えない。
強いのか弱いのかも測れない。
まあさすがに魔王の手下なら弱いってことはないだろうが。
本来ちょっとは警戒するものだが集まったのが村から不要となった者たち。
簡単に一言で言えば役立たず。
もっと簡単に言えばクズ。ゴミ。
皆薄々は気づいてるだろうが指摘すれば擦り付け合いを始めるだけ。
誰が一番の役立たずかなどどうでもいいこと。
皆で力を合わせてサーマ姫をお守りするだけ。
役立たずか…… 嫌な言葉だ。
ただ皆よその村の者に対してはそう思っているに違いない。
俺もそれは例外ではない。
役立たずな連中だ。
おっと…… これではいけない。戦いの妨げになる。
役立たずでも数を揃えれば最強。
歩いてすぐに橋が。
うわああ!
いきなり橋が崩れて落下。
姫だけは巻き込まれずに済んだ。
俺はと言うと川に飲み込まれた哀れな流され人。
意識が薄れる前に立ち上がりことなきを得る。
護衛が誰も居ない状態が続くのは危険だ。
急いで陸に上がり姫の元へ。
はあはあ
ああはあ
「姫お待ちください! ご無事で何よりです」
護衛の者が一瞬離れた。この瞬間に魔王の手下にさらわれてはお終い。
国王にどう顔向けすればいいか分からない。
村にも迷惑がかかる。失態を犯せば命も危ない。
陸に近いものから順に姫の元へ。
落下によって乱れた隊列を戻す。
「ご無事でしたかサーマ姫? 」
「はい。皆さんこそ心配です。いったんお城に戻りましょうか? 」
姫に気を遣わせてしまった。何と言う失態。
「大丈夫です。なあ皆? 」
「おう! 」
間抜けで陽気な男たち。
「あら元気ですこと」
サーマ姫の機嫌は損なわれていない。
それだけでも士気が下がらずに済むのだからありがたい。
風邪をひく者もいるだろうがここで城に引き返す訳にはいかない。
予定が狂っては任務は果たされない。
「さあ急ぐぞ! 」
歩くこと一時間。お姫様ご一行は橋を越えて第一の村の入り口へ。
橋以降特にトラブルはなかった。
それにしてもあの橋は古くなっていたとはいえ簡単に崩れるものだろうか?
まあ確かに百人を超えれば耐えられないことだってある。
そうだとすればかなり間抜けではあるが……
俺たちの失態。
今後はこのことを教訓にミスの無いようにすべきだ。
しかし…… やっぱり何かおかしい。違和感がある。
うーん。この違和感の正体は……
「おいどうしたんだ? ボーっとして」
ウエスティンは呑気に笑っている。何とも思っていないらしい。
まあ確かに大したことじゃないか。
「おい村が見えて来たぞ」
第一の村アイネ。
今日はここで一泊する。
続く
⑤