リザとの一時
眠い。何て眠いのだろう。
今日はお祭り。リザと隣の村のお祭りを見学。
面倒くさいけど俺は付き合うことにした。
なぜかって? 男だからだ。
そう言うふうに小さいころから教えられていた。
幼馴染は大切に。特に女の子には優しく。
それが紳士だと。
常に紳士であれとはどこかの球団の標語。
守ってるようには見えないが…… 俺は守ろうかなってそう思う。
「どうしたの? ぼうっとしちゃって」
「ちょっとね…… 」
「まさか嫌いだったけ? 」
「いや祭りは好きだ。でも…… 」
「フフフ…… まだ気にしてる」
「そんなことあるわけないだろ」
「でも良かったじゃない。光栄なことよ」
そう姫の護衛を任された。
勇者にとってこれ以上ない喜び。
姫を守り抜き戦場で果てるのはこれ以上ない栄誉なこと。
俺だって一介の勇者。夢見て憧れていた。
だがどうだろう? 何となく嵌められた気がする。
それにこれが初めてでもない……
「さあ気を落とさない。元気を出してアモ―クス」
手をぶらぶらしているといきなりつかんでくる。
「ダメだよリザ。そんなことしてはダメだ。ああ! 」
「ねえそろそろお昼にしましょう。私サンドイッチ作って来たの。口に合うかな」
ピクニック気分を味わう。
この展開は確か……
くその思い出が忘れられない。
後は神を信じるか…… それとも。
「どう美味しい? 」
「うん。まあまあかな。でも俺はやっぱりモンスターバーガーが食いてえ」
格好つけてみる。
「もうアモは味音痴なんだから」
「俺が味音痴だと? 」
「そうだよ。あれはね大人たちが食べちゃダメだって言ってた」
「俺が食ったことないから適当に言ってやがるな。
だってよ。俺らの中じゃ食ったことないの隣のガキぐらいだぜ」
「そうね。私も食べたもの」
「ずるい。俺だけ食わせないなんて」
「ダメだって。あれを食べたら勇者にはなれないのよ」
「勇者? ウソだ! 」
「本当よ。あれを一度でも食べると脳がダメージを受けまともな人間に育たない。
パパがそう言ってた」
「またお前のパパかよ。ガキ相手にほらを吹くなんてとんでもない野郎だな」
「もう! 」
リザがむくれる。
「まあいいわ。さあ早くこれを食べましょう」
切り替えて新作を試す。
何か良く分からない白い食い物。サンドイッチの一つだとか。
「これはねパックドランチって言うの」
白と言うか小麦色と言うか。
食った気がせずちょっとボソボソするのが嫌だ。
「おい! これ味がねぇぞ」
「もうそっちは今流行の究極ランチ」
『具なしっち』
作り方。
「まずサンドイッチを作るでしょう? 」
「うんうん」
「そこに卵やレタス。ハムなんかを入れる。そしてすべて整えたら中身は捨てる」
「うん? ううん? 」
「中身はパパにでも食べさせておけばいい」
「お前最低だな」
「これでグナシッチの完成。本場ヨークでも流行の食べ方」
「ヨークって八百屋か? 」
「違うでしょう。お洒落な町ヨーク。
ここからだとあっちの方角。歩いたら一週間はかかるわよ」
「へえ。船は? 」
「二日で行ける。長い旅だわ」
リザが瞳を輝かし遠くの世界を夢見る。
「お洒落な町ヨーク。覚えておきなさいよ」
「そこには旨い物があるって本当か? 」
「ええ、世界のありとあらゆるものがあるのよ」
「うおおお! 」
「例えばサソリの毒あえとか」
「うん? 何だかヤバそうだな」
「大丈夫。まずサソリを刺すでしょう」
「ああ。最初から怖いんですけど…… 」
「いいから聞いて。サソリを焼いてから取っておいた毒を数滴垂らす」
「死んじまわねえか? 」
「いえ。痺れるだけ数滴だけだからね。間違っても全部垂らさないこと。
さよならナイトになっちゃうから」
「うわ。想像したくもない」
「後は…… 」
「もういいよ。それよりもモンスターバーガーを食わせろ! 」
「だからバカになるって! 」
「嘘を吐くな! 」
「馬鹿の人には逆に良くなると思ってるでしょう? 」
「いや…… ただ食いたいだけなんです…… 」
「もっと馬鹿になるから気をつけて」
モグモグ
モグモグ
仕方なくグナッシイを平らげる。
「ボソボソして味気ないよ」
「大丈夫。それも最初だけ。慣れれば美味しいから。
食糧不足にも強いんだから。今のうちに食べ慣れておきなさい」
「ひいい」
「村が日照りや洪水になったら役に立つ」
「次はお水ね」
「やった次は普通のだ」
「もしもし、もしもし」
どこからともなく聞こえる老人の声。
ついに現れる日常を壊そうとする招かれざる客。
続く
⑤