ルーレットは八だった
まずいぞ。まずい。何となく疑われてる気がする。気のせいだとは思うけど……
俺には登る前の記憶が無い。
当たり前だ。ワープしてきたのだから。
「では誘われたのは認めるのだな? 」
当たり前。だがここはどちらが誘ったかがポイント。
それ以外は…… まずい…… これ以上余計なことを言えば本当にまずい。
それに俺は正直者と言う欠点がある。
追及されれば真実を白状してしまうそんな人間だ。
情けないだろ? 軽蔑したっていいんだぜ。
「誘われ壁を登り覗いた。間違いないな? 」
「えっと…… 記憶にありません」
「何を言ってる政治家でもあるまいし」
「ついつい酔っていて記憶が曖昧なんです」
もっとまずいことを言ってしまう。
確かに昨夜は酔っていたはず。
だって俺は何度も言うが壁に登ったところで意識を取り戻した。
だからそれ以前の記憶があるはずがない。前回の記憶では飲んだのは確か。
「しらじらしい嘘を吐くな! 酒のせいにするとは最低な奴だな」
「でも実際の話そうとしか…… 」
「人間かお前? それとも政治家か? ただの酔っぱらいか? 」
そこまでの人格否定をしてくるとは思っても見なかった。
心深くに刺さる刃。言葉の凶器。
「俺は…… 」
「正直に言わんか! 白状するんだ。このまま放っておけば姫にも危害が及ぶ」
こう言われると弱い。降参するしかない。
「分かりました。すべて認めます」
これが即死モードの威力。
どんなに頑張っても結局は追放されてしまう。
運命には逆らえない。
「よしそれでは仕方ない。お前を姫の近くに置いておけない。
潔くここから立ち去れ! お前を追放する! 」
「そんな…… 待ってください! 」
「三人目はお前だいいな? 変更は認めない」
ブルの代わりに俺が追放の憂き目にあう。
ううう…… ブルを庇ったばかりに……
やはり仲間を放っておけなかった。
これは俺の甘さであり弱さでもある。
そして変態兄弟の告白が俺の心を突き動かした。
ある意味美談だ。
「では三人は着いてくるように」
再び餌場に放り出される。
まあしょうがないか。
今回は俺にも多少の落ち度があった。次回はこんなへまはしないぞ。
再び地獄のショウが開始される。
エスケープを使い命からがら逃げ帰る。
ワープゾーンへ。
意識を失う。
さあ次はどうなることか。
楽しみと言うよりも辛いんですけど。
アモ―クス! アモークス!
どこからともなく聞こえてくる俺を呼ぶ声。
これは神のお導き。
それとも女神様?
追放続きのかわいそうな俺を哀れに思い慈悲を与えて下さったのか?
どっちでもいいけど元神の爺さんは勘弁してよね。
「おい聞こえておるのか? 」
あーあ。やっぱり爺さんか。また何か言ってるよ。
「これをやるから許してくれ」
「はあ何を言ってるんだ爺さん! 」
ついに神を爺さん呼ばわりしてしまった。
うんん?
意識を取り戻した。
「あれ師匠。どうして…… 」
「おう気が付いたか」
「俺さっきまで追い駆けられてて…… 」
「まあ良い。では改めて説明しよう」
「説明? 何のことですか? 」
「このルーレットやはりおかしい。儂が百回程回したが全て即死モードであった」
「ほらねやっぱりって…… ふざけるな爺さん! 」
ついに切れてしまう。抑えようもない。
いくらなんでもふざけ過ぎだ。
俺の今までの苦労は何だったのだろう?
「ベビーモード。次はベビーモードと念じる俺の気持ちが分かるか? 」
「神のみぞ知る」
「お前は神だろうが! 」
「馬鹿な! 何度も言ってるように元神であって今はただの死が無い神ですじゃ。
格さん助さんさあ参りましょうか。ホッホホ……
お茶目な元神でございます。どうぞよろしく」
「まったくもうしょうがないんだから師匠は」
「そうか許してくれるか。ではこのルーレットを回すがよい」
さあ今度はまともなルーレットのはず。一度回せばもう止められない。
天国(地獄)に一直線。
「うおおお! 」
いつもより多めに回しております。
「ベビーモード! ベビーモード! 」
願いを込めた一球は……
「八だよ。惜しいね。次頑張ろう」
即死モード確定。
遠のくベビーモード。
「ちょっと師匠! 酷いじゃないっすか」
「おい聞いてなかったのか? ルーレットがおかしいって」
「直してなかったんですか? 」
「ああ今回はまだその段階ではない。原因究明が第一だ。
その後改良して完全に直るまでにはずいぶんかかるだろう。
今回分かったこと。百回やって百回とも即死モードになったと言う事実。
おかしいのは確か。だがどこがどうとはまだ言えない。
調査中って訳だ」
堂々とふざけたことを抜かす元神の爺。
付き合ってられない。
続く
⑤