強行! 偽サーマ姫危うし
意識を失った男の世話をウエスティンに任せる。
「どうした何があったんじゃ? 」
「抵抗虚しく全滅です」
「全滅? それにしては少なすぎる」
「仲間の裏切りに遭いました! もう何が何やら…… 」
ついに魔王の手下が本性を現した。
恐れていた最悪の事態。
ミュウミュウと奇声を上げて入れ替わった魔王の手下。
放置せずに追放しておけばこんな事態にはならなかった。
痛恨のミス。
ただの役立たずよりも魔王の手下を最優先で追放すべきだった。
「それでサーマ姫はどうした? 」
「魔王の元へ引っ立てられて行きました。
早くお助けしなくては魔王が何をするか分かりません」
「どこへ? 」
「あちらの方へ行ったかと…… 」
この近くに教会があるそうでそこに向かったと。強引に式を挙げる気だな。
くそ! ゆっくりなどしてられない。
魔王の奴め…… 教会で二人の関係を認めてもらうのだろう。
もし偽物だとばれたらただでは済まされない。
急いで応援に向かう。
教会。
「どうした姫よ? 恥ずかしがらずとも良い」
魔王の作戦勝ち。
手下を徐々に増やしていき統制不可能になったところで急襲する。
ギリギリまで待ったのは相手の動きを見極めるため。
だが大した対策も立てずにポイントごとに追放。勇者の数が減る最悪の事態。
だから本当なら何一つ待つ必要はなかった。
いつでも急襲し護衛隊を全滅させられた。
慎重さは時として行動と判断を鈍らせ悪い方向に持って行く。
まさか魔王の手下に入れ替わると思ってもみなかった。
すでに揺さぶりに揺さぶれていた訳で。早く決断していればサーマ姫を奪えた。
その慎重さによりサーマ姫を手に入れられなった。
魔王は読み違えてしまったのだ。その結果偽物を掴まされる。
護衛隊は結果的には成功。
これも偽サーマ姫の策略。一歩上手だった。
「緊張するな。何もお前を閉じ込めようなどとは思っていない。
この魔王様に忠誠を誓い我が妃となってくれればよいのだ。
ウエスト王子などただの権力を振りかざした青二才。顔とて大して違わなかろう」
偽サーマ姫は気付かれないように怒らせないように下を向き頷く。
「おお何とおしとやかで従順であろう。よし気に入った。
お前に免じて故郷の安全を保障しよう」
魔王の力は絶大。
国々が団結しない限りは魔王を打ち倒すのは夢のまた夢。
それに魔王は不死身である。
もし倒すことが出来るとしたらゴールドソードを正確に心臓に突き刺すこと。
そもそもそんな芸当出来る者はいない。
なぜなら魔王の背中にあるのだから。
それを見抜かない限りたとえゴールドソードであろうと魔王は倒せない。
仮に知れても後ろから刺す勇者はまずいない。
ミュウミュウ!
手下が騒ぎ出した。
これから何が起きようとしているのか?
「ほれ静まれ! さあ始めるぞ! 」
「あのそう言われましても…… 準備が…… 」
神父は困惑するばかり。
「簡単でいいのだ。早くしろ! 」
教会は来る者は拒まない。
ただ魔王の結婚に立ち会うのは初めて。
「では始めます」
神父は脅されるまま進めてしまう。
「誓いますか? 」
もちろんと魔王は大声で答える。
偽サーマ姫は何も反応しない。
誓えるはずもなく顔も上げられない。
上げれば一発で偽物だとばれる。だから沈黙するしかない。
沈黙すれば多少の時間稼ぎにはなる。
「どうした俺様と永遠の愛を誓えないのか? 」
怒りから顔が紅潮。我慢の限界らしい。
ただ祝いの場。どうにか笑顔を取り繕う魔王。
「いい加減にしろ! なぜ返事をしない! 」
それでも必死に沈黙を保つ。
ついに手下共が騒ぎ始めた。
「こらうるせいぞ! さあ返事をしろ! 」
ここらが限界のようだ。
首を縦に振る。
「おおそれでいい! 」
満足そうに吠える。
「では誓いのキスを」
魔王が強引に唇を奪おうとする。
「サーマ姫! 」
偽サーマ姫は目を瞑り天に運を任せる。
「観念しろサーマ姫! もう逃げれない! 」
魔王の熱い口づけが迫るがやはり受け入れられない。
「いや! 」
「サーマ姫! うん…… お前は誰だ? サーマ姫ではないな? 」
ついに正体がばれてしまった。
「何を申します魔王様。私は正真正銘のサーマ姫でございます」
どうにか取り繕うがもう時すでに遅し。
「サーマ姫は若く美しいと聞いたが」
魔王の尋問が始まる。
「何寝ぼけたことをおっしゃいます。若くありませんか? 美しくありませんか?
これがサーマのすべてです」
偽サーマ姫はどうにかごまかす。
「うーん。俺様の勘違いか。よし続けるとしよう」
鈍感な魔王で助かった。
「では誓いのキスを! 」
「お待ちください! 一分ほどお時間を下さい」
気持ちの整理をつける。
「良かろう」
一分後。
「では改めて」
「お待ちください! 大事な瞬間です。化粧直しの時間を」
十分ほど時間を頂く。
「よしもういいだろう」
「お待ちください! 口の中が気持ち悪い」
「分かった好きにしろ! 」
意外にも何でも言うことを聞く魔王。
「さあ始めるぞ! 」
「お待ちください! 深呼吸を」
「いい加減にしろ! これが最後だぞ」
三分経過。
ついに運命の時がやって来る。
「さあ誓いのキスだ! 」
魔王はもう我慢ならんと睨む。
お待ちください!
「まだ言うか? 」
「いえ今のは私ではありません」
「では誰だと言うんだ? 」
「ああ! 姫様! 」
どうにか寸前のところで間に合った。
「おお、お前がサーマ姫か? 美しい。良かろう代わるがいい」
「馬鹿め! 俺が相手だ! 」
ゴールドカードで形を整えゴールドソードの完成。
一対一のサシの勝負を挑む。
続く