念願のベビーモード
ルーレットをすべて揃えた今、残すは念願のベビーモードのみ。
これで安心して姫の護衛ができるはず。もう追放されることもないだろう。
「では勇者アモ―クスよ。行くがいい! 」
「待って師匠! エスケープの許可を」
「それは認められん。ここは元の世界。危機が迫った時に使用するのがチート。
だがもはや危険はあり得ない。お主はベビーモードなのだからな」
「しかし念のため。必要になることもあるかと…… 」
「その時はお主の真の力で跳ね除けるのじゃ。
よいか? エスケープはあまりにも有利過ぎる。自力で頑張るのだ」
非情な爺。これではまるで破滅する様を楽しんでるようにしか見えない。
「師匠! そこを何とか! 」
「ならん! エスケープに頼るでない。急ぐと言うなら馬車を呼べばよかろう。
あちらは何と言っても徒歩。姫がいるのでゆっくりなはず。すぐに追いつくわ」
馬車を飛ばせばルピアまでは一日かかる。
護衛隊も今ルピアに向かっている。
急げば先につけると爺は言うるがそれは時間通りにうまく行けばの話。
たぶん遅れるでしょうね。そこまで正確なものか。
「ではルーレットをお願いします」
感慨深い。この瞬間の為に今まで苦労してきたのだから。
「よし回すがいい! アモ―クスよ」
「うーん。迷うな。今回だけは失敗できない」
「ほれ迷うでない。あれこれ深く考えずに回すがいい」
考え過ぎは良くない。爺を信じよう。
「では回します! 」
想いを込め強くルーレットを回す。
ここで即死モードはあり得ない。ベビーモードだ。
ベビーモード! ベビーモード! と強く念じる。
果たして運命のルーレットは一体どこに止まるのか?
緊張の一瞬。
あれ静かだ…… 何だこの感覚は?
まるで時が止まったかのようにゆっくりだ。
逆回転を始めた。
二つの間で針が動く。
一番と二番。
その間を行ったり来たりしてようやく止まる。
針は一番へ。
一番はベビーモード。
そう。俺はついにベビーモードになる。
これで夢が叶う。
今まで散々即死モードを喰らい辛い思いをしてきた。
それも今日でオサラバだ。
ベビーモード。夢にまで見た憧れ。
「よし行くがいいアモ―クス! 最後の戦いに身を投じるのだ! 」
「はい。ありがたき幸せ! 」
こうして即死モードを回避。
旅立つ。
馬車はルピアに向け出発。
さあこれからが忙しくなるぞ。
その頃一行はルピアを目指し行進を始める。
残念なことに半分がモンスターと入れ替わっている。
もういつ攻めて来られてもおかしくない危機的状況。
ただ何も策を講じずにいた訳ではない。
馬車に揺れること一日以上。
座り過ぎてお尻が痛くて堪らない。
爺の言う通りなら先に着いていた。だが案の定馬車は遅れに遅れた。
結局到着したのは夕刻。
予定では昼前に到着するはずだったが道が悪く時間が掛った。
一行よりも先行できずに追いかける形に。
馬車を降りルピアの町に入る。
ルピア。
ルピアは大きな町で人も多い。
ほぼ故郷のイシコロ村しか知らないのでその違いには驚かされる。
「いらっしゃい。金貨一枚だよ」
ルピアでは近くの鉱山から金が取れる。今それを加工した装飾品が人気。
ただ偽物もあるので充分注意が必要。
観光客では騙されるのがオチ。
「どうした田舎者? 立ち止まりやがって! まさか買う気じゃあるまいな? 」
高圧的な商人が冷やかしと決めつける。
もちろん買うつもりはないが早く情報を得たい。
「買う気はあるさ。もちろん金貨だって持ってる。この通り。
だからその見下すのを止めろ! 目障りだ! 」
ここまで言うつもりはなかったが俺を田舎者と決めつけ邪険に扱うのは許せない。
田舎者でもなければ貧乏人でもない。ただの勇者。
「これは申し訳ない。ただあんたみたいなのがトラブルを起こすからつい。
さっきだって散々見て何も買わないんだもんな。いやこっちの話さ」
商人の愚痴を聞く。これも情報収集の一環。無駄なものは何一つない。
「そいつらがどこへ行ったか? 町はずれの宿屋に行くと言ってたがなどうかな」
これは追いつけるか?
「ありがとうございます」
「おっと待ちな。何か買っていくのが礼儀だろ? 」
仕方なく金の首飾りを購入。
サーマにちょうどいいお土産になった。
金貨二枚を使い情報を得る。
詳しい場所を教えてもらい追いかける。
人が多すぎてどうにも動きが取れない。
随分と騒がしい町へ来てしまった。
本当にいるのか?
「ええ宿屋かい。だったらまっすぐ行って左さ」
うん。順調順調。
続く