パラドックス
第七世界と元の世界の関係。
「パラドックス? 」
「本来ならルーレットを落とした世界に繋がるはずが何らかの手違いが起きた」
ちっとも分からない。爺が何を言ってるのかもよく分からない。
「これは科学じゃ。儂らファンタジーとは相いれない概念。
それ故パラドックスが起きたとだけ認識すればよかろう」
「師匠。それじゃ分かりません。もっと詳しく」
「えい。仕方ないの。面倒じゃが続ける。
原因は恐らく元の世界。儂らはルーレットを探す旅に出たな? 」
「はい。師匠に唆されるまま」
「苦情はいい。問題はルーレットが元の世界にあったこと。
旅に出る前に回収しておけば問題は起きなかった。とは言え気付きようがない。
そのせいで本来落としたであろう第七世界がなくなってしまった。
それでは一生ルーレットは揃わない。だから疑似世界として過去世界に飛ばした。
それがほれあの桃じゃ」
爺はもはや桃のことしか頭にないがもちろんそれはウエスティンの過去って訳だ。
俺はゴールドカードが導いたのではと思う。または聖地・フォレストの影響か。
そのせいで狂ってしまったと。だが爺は認めようとはしない。
「それで結局どう言うことでしょうか? 」
「第七世界を無理矢理作り出した」
「そんなことできるの? 」
俺の質問には答えず続ける。
「じゃがいくら過去のイシコロ村だとしても儂はお主と会った時に落としてる。
だからルーレット自体は回収しようがない。だからルーレットはこの世界。
要するに元の世界で見つけるしかない」
「では元の世界に戻って来たんですね? ここは正真正銘元の世界? 」
「ああさっきからそう言ってるであろう! 」
「だとすればなぜリザの姿がないんっすか? 」
「知るか! そこの男に聞け! 」
精気を感じられない男。リザの父親だ。
リザの家族は父一人子一人。
リザが居なくなったショックが大きいのだろう。
「あの…… 」
もはやどう励ましていいのやら。
「ああアモ―クス。久しぶり元気してたかい? もう護衛作戦は良いのかな? 」
そうだった。まだサーマ姫護衛作戦の最中。
俺がここに戻って来たとあってはせっかく見送ってくれた村のみんなに悪い。
「ええそれよりもリザは? 」
こんな分かり切ったこと聞くのは間違ってる。でも少しでも情報が欲しい。
「ああ、あれから一度も姿を見せてない。駆け落ちしたのは本当だったんだね」
イシコロ村を出た時から変化なし。だとするとリザはどこに?
時計も反応しないとこを見ると合体したままでもないようだ。
「あのすみません。ルーレットを見ませんでしたか? 」
「ああそれなら村の外れの森辺りで見たと言っていたな」
手掛かりが見つかった。
やはり爺と出会った場所に置き忘れたに違いない。
さあ急ぐとしよう。
その前に自分の家に……
「ちょっとアモ―クスじゃない。いつ戻って来たのさ?
またサボったんじゃないでしょうね? 」
近所のおばさん連中に捕まる。
「まったく王命を無視して何をしてるの! 」
「これだから役立たずと言われるのよ! 」
お叱りの言葉を受ける。
「おいせっかく村総出で送りだしたのに帰ってくる奴があるか! 」
どうも勘違いされやすいタイプ。
村には居場所がない。逃げ出すしかない。
「お主も大変じゃな。同情するぞ」
「それもすべてあんたのせいだって! 」
そもそもの原因を作っているのは常にこの爺。
あの時出会ってなければまあ俺は殺されてたな。
でもリザは平和に暮らしていたはずだ。
「師匠を紹介するのは難しいみたいですね。急いでルーレットを探しましょう」
故郷のイシコロ村に戻ってこられただけでも幸せだ。
もうあと一歩。さあ張り切って行こう。
「あれ師匠どうしたんですか? 」
「おお分かるか? 」
「さっきからその出っ張りが物凄く気になります」
何かを隠してるのは間違いない。
「ふふ…… これは何を隠そうモンスターバーガー。見つかっては仕方あるまい」
気付かなかったら独り占めするつもりだったのか?
「師匠。気を付けて。何でも頭が悪くなるとの言い伝えがあります」
「ふむ。儂に喰わせないつもりじゃな。しかしその手に乗るものか! 」
食い意地の張った爺に何を言っても無駄。
「いえリザから聞きました。食べ続けると馬鹿になると。
それでは立派な勇者にはなれないそうです」
愚者は余計に愚者に。
これがモンスターバーガーの恐ろしさ。
「ううう…… 実験のしようがないの」
ひとまずモンスターバーガーは後回し。
ルーレットを探す。
続く