流れて来た桃をかち割るとそこには……
おぎゃあ
おぎゃあ
大きな筒に乗せられた赤ん坊の泣き声が響き渡る。
トラブル発生。赤ん坊が流されている。すぐに助けなくてはまずい。
川の流れは緩やかで深くもなく手を伸ばせば届きそう。
「うわああ! 赤ん坊が…… 」
「落ち着けアモ―クス。まずは深呼吸だ」
爺に言われるまま吸って吐いてを繰り返す。
そうすると不思議と落ち着く。
「どうしよう師匠? 」
「この場合助けるのが筋じゃろ」
おぎゃあ
おぎゃあ
随分元気な赤ん坊だ。
なぜ川に流されているのかは不明だが放ってはおけない。
急いで救出に向かう。
しかし一歩遅れたことにより目の前を通過してしまう。
トンズラコ
トンズラコ
仕方ないので上流から流れてきた大きな桃を代わりに拾い上げる。
赤ん坊は下流へどんどん流されてしまう。
もうどうすることもできずただ見守るのみ。
気分を変えとりあえず大きな桃を切ることに。
「うまそうじゃな。よだれが…… 」
「どうも何か違うんだよな…… 」
「ほれ済んだことはよい。食べようではないか」
ロイヤルブレッドで桃をかち割る。
突如眩しい程の光に包まれる。
何と中には黄金に輝く斧が。
なぜか桃の中がくりぬかれそこに金の斧が収められていた。
金の斧を装備。
どうやらこの川にも女神様がいるのだろう。会ったことも見たこともないが。
「悪趣味なことをしおって! 」
中身は入っておらずお預けを喰らう爺。
よだれを垂らし恨めしそうにこちらを見る。
いや俺のせいじゃないし。
うん? 馬の駆ける音がする。
どこから?
上流の方から聞こえてくる。
「師匠どうしましょう? 」
「儂に聞くでない! もう一度桃を拾って来い! 」
桃に執着するもはや食い意地の張ったただの爺。
「いえそうじゃなくて師匠…… 」
馬が駆け寄って来る。
「おいお前たち! この辺で赤ん坊を見なかったか? 隠すと為にならんぞ! 」
あまりにも無礼な態度で迫る男。当然爺は頭に血が上り飛びかからん勢い。
ただこれ以上トラブルに巻き込まれる訳には行かないので宥める。
「ああん? 返事をせぬか愚か者どもが! 」
度重なる無礼な発言に怒りに震える。だがここは我慢。冷静さを保つ。
「許せん! 儂が成敗してやる! 」
我慢虚しく爺は戦闘モードに。
「ほれそこの者早く答えぬか! 」
爺を気にする様子もなく俺に話しかける。
「いえ桃なら見ましたけど」
つい癖で嘘をついてしまう。
「くそ! せっかくウエスト王国を支配できると思ったのに残念。実に残念だ!
よし分かった。ではさらばだ」
どうやら悪人のようだ。赤ん坊を盾に何か悪さを企んでいると見た。
だとすれば俺たちはそれを阻止したことになる。
これも立派な行為。ただの嘘つき野郎ではない。
「うむむ…… 無礼な奴め。許せん! 天罰じゃ! 」
「師匠そんなことよりウエスト王国って知ってますか? 」
「馬鹿者! 自分の国のことは自分で考えろ! 儂はあくまで部外者。
この世界ではお助けキャラに徹する」
この変わりよう。さっきまで息巻いていたのに。これは何か知ってるな?
「そうだ師匠。赤ちゃん! 赤ちゃん! 」
随分流されたはず。果たして助けられるか?
下流へ。
「よしここは緊急事態につきエスケープを許可する」
エスケープ。
こうして蛇行する川の下流へと急ぐ。
どこだ? どこにいる。
まだか? まだ見えないのか?
必死に探し回るが赤ん坊の姿が見当たらない。
なぜだ? 二手に分かれてる訳でもないのに。これは不可解。
「おお。あそこの人に聞いてみよう」
なぜか不審な行動を取る男。
「おい! そこの者! 」
「おおビックリしたなあ。何だい? 」
びくつく怪しい男。これはもう当たりだな。
「ちょっと師匠! 」
「うん何じゃ? 今話してるところであろう。邪魔するでない! 」
明らかに赤ん坊の泣き声がする。
「おいそこの覆いは何じゃ? 」
「ああこれは…… 孫ですじゃ」
無理がある。濡れている上に裸。さすがに寒いだろう。
「用がないならこれで」
男が無理矢理話を終わらせようとする。
しかし爺は爺に容赦がない。
「この赤ん坊の名前は? 」
「ああ。えっとな…… 」
「名前ならそのお守りに書いてありますけど」
「おおそうだ。すっかり度忘れしたが我が孫は…… えっと…… 」
かなり怪しいが一応最後まで聞く。
「そう…… ウエスティン。ウエスティンと言う」
「お主の孫だと? 」
「ああ目元がそっくりであろう? 」
確かにそう言われると似てなくもない。疑う理由もない。
「分かりました。これで失礼します」
勝手に強制終了させ爺を引っ張っていく。
「どうしたアモ―クス? 今大事なところだと言うのに」
「いいから師匠。ほら早く! 」
ウエスティンってまさか……
続く