チートって便利ですね
三人はほぼ強制的に連行された。
今回の犠牲者三名。
一人目は酔っぱらい。
理性を失い任務を放棄してその辺で飲んだくれている男。
旅のお供には不向き。このまま放置すれば姫にも危険が及ぶだろう。
だからこの判断は間違っていない。
ただ村に帰してやるぐらいの優しさがあってもいいだろ?
面倒臭くて化け物に捧げるなんて間違ってる。
二人目は同郷のウエスティン。
汗っかきな哀れな奴。同郷のよしみで出来れば助けてやりたいが……
確かに良くミスするので不適格だろう。選ばれる理由は分かる。仕方がないこと。
最後に主役の俺。
そもそも今回のミッションに選ばれたのが運のツキ。
それ以上にあの元神の爺さんに即死モードにされたことが本当の意味で運のツキ。
神に見放された哀れな追放者ってとこ。
また切り抜けるしかない。
もしもの為にシミュレーションしておく。
暗くてここがどこなのかは分からないがたぶん餌場に違いない。
餌それは即ち俺たちのこと。
そこには捕食者がいるだろう。
翼を広げ涎を垂らし鼻をひくひくさせこちらに向かってくる化け物。
暗くて何色かまでは判断できないがたぶん青とか緑とかカラフルな奴に違いない。
ああ嫌だ嫌だ。どうしてこんな仕打ちを受けなければいけないのか?
想像しただけで吐き気と寒気が。
もう訳が分からない。
「なあ俺たち村に帰れるのかな? 」
ウエスティンの蚊の鳴くような声で我に返る。
かわいそうにまだ現実を受け止めれないでいるようだ。
あれ? 汗はもう垂れていない。まさか覚悟を決めたのか?
「よしお前ら行くがよい! 」
非情な執行官。それが何を意味するか分かってるのか?
「ちょっと待て! 明るくなってからでも良くないか? 」
「何だその口の利き方は? 」
追放官が二人。俺たちを無理矢理連れてきた大人げない奴ら。
厳密には追放官が一人と執行官が一人。
彼らの役目が何なのかまでは分かっていない。
「礼儀ぐらい弁えろ! 」
怒ってまあ。今さら礼儀も何もないだろ? 俺たちはここで殺されるのだから。
駄々をこねて暴れてやってもいいんだぞ。
「よし言い残すことはあるか? 」
いきなり始めやがった。まったく血も涙もない追放官様だこと。
「はあ俺らは帰るんだぜ…… 何を言ってやがる」
酔っぱらいが絡む。
「よし次の者」
「本当に村に帰れるんですか? 」
「よし次」
ウエスティンの質問に答えようとしない。それが何を意味するか……
「次はベビーモードがいいな」
「以上。行くがよい」
三人はその場に取り残された。
ああ、またこの展開。さあどうなるのかなあ?
ひいひい
ひいひい
どことなく愉快に聞こえる酔っぱらいの息切れのような叫び。
素面にでも戻ったか?
まったく世話が焼ける。
どちらかしか助けられない。酔っぱらいか? ウエスティンか?
風が吹き始めた。
さっきまで暑いぐらいだった風が冷め体を直撃する。
嫌な予感。まあ分かってるんだけどね。
「うん? 聞こえる」
耳がいいウエスティンが反応する。
さあお出ましになった。
ポケットを探り巻き物の確認。
これで準備完了。
ギャア
ギャア
ついに登場。翼を広げた化け物。
俺たちを食い尽くす悪魔の遣い。
「オオ…… 」
腰を抜かしたのかその場に倒れ伏した酔っぱらい。
まったく何やってる。
ここは柄ではないが助けに行く。
「ほら掴まれ! 」
ギャア
ウギャア
一匹ではなく二匹居やがった。そう言えば前回もそうだった気がする。
一匹に気を取られたばかりに二匹目が近づいていることを察知できなかった。
その場に倒れ込み何とか回避。
だがその代償として酔っぱらいが東の空へ。
うわ…… やっちまった。
仕方ないウエスティンだけでも……
「ウエスティン! 」
どこにも見当たらない。やばい見失った。
ガリガリ
ボリボリ
不快な音が響き渡る。
見えなかったがウエスティンは捕まり無残にも食われたのだろう。
骨まで美味しく頂くなんて立派だなどと冗談は言ってられない。
くそ! 結局二人とも助けられなかった。だがこれも仕方がないこと。
俺だって下手すれば食われちまう。
早くこの地獄から逃げ出さなくては。
ワープゾーンがあったよな。
よしこっちだ!
食事を終えた二匹の化け物。
もうお腹は一杯だろう。これ以上はいいよね?
ギャア
ギャア
願いも虚しく向かってくる底なしの化け物。
あーあ。つき合いきれない。
ワープゾーンまで駆け込むしかない。
ダッシュ!
だがすぐに後ろにつかれる。
これはやはり使うしかないな。
自称神から授かった巻物。
エスケープ発動。
一気にワープゾーンへ。
ギャア
ギャア
悔しそうな二匹の化け物。もう二度と会いたくない。
うわああ!
意識を失う。
続く
⑤