第二章
小雨の降る路地裏。
天界から堕とされた神がぼんやりとしながら、空を眺めていた。
「……死ねなかった」
灰色の空から雨粒が落ちてきている。自分はあの上にいたのだと思うと、やはり分相応だった。
「クゥン?」
「……いぬ?」
鳴き声の方を向くと、犬のような体にウサギのような長い耳、猫の尻尾、鋭い爪の生えた生物がいた。
「変……天界に送らない、と……」
世界にいるべきでない物は、天界に送らなければならない。天界に連絡しようとした瞬間、自分がもう神
ではないことを思い出した。
「…やっぱり、いいや。おいで」
かわいいから良いじゃないか、そう思い、手をのばす。
その生き物はキャンと鳴き、少し離れた彼女のところへ飛んできた。
文字通り、パタパタと羽ばたいて。一瞬見えた羽は、フクロウのような形状をしていた。
「!とんだ…?」
彼女の膝に座った生物は、満足げにキャンと鳴いた。
「名前、付けたほうがいいのかな?……ぴょん助」
ウサギみたいだし、というと、生物は明らかな拒絶をしめした。
「グルル」
「いやか。じゃあ、シチュー」
いつか人間界で食べたかった料理名を挙げると、軽く拒絶をしめした。
「グウ」
「うーん。贅沢者だな。雨……雲……スイはどう?」
生物はその名に満足したのか、彼女の周りを走り回った。
「よろしく。私は……自分の名前も考えなきゃ。面倒臭いな」
しばらく考え込むと、よし、と手を打って生物、スイを抱き上げた。
「私の名前は、別の誰かに考えてもらおう。君の名前を私が付けたみたいに」
そうと決まったら、人に会いに行こう。彼女はスイを抱いたまま立ち上がり、路地裏を出た。
彼女が、彼らと同じ宿屋に雨宿りするまで後10分。