悩んでいると空からヨシローがやってきた。
私こと底辺作家メイプル対応は悩んでいた。
悩んでいた。悩んでいた。
悩んでいると空からヨシローがやってきた。
「やあ兄弟!」
「あっちいけ!ころすぞ!」
ヨシローは帰ってしまった。
もったいないことをした気がした。
私はヨシローを呼んだ。
「嘘だよーヨシロー!」
「何が嘘だよ?」
振り返るとヨシローが立っていた。
「ごめんよ兄弟。悩みが多くてさ」
私はヨシローに媚びてみた。
「そんなこったろうと思った。言ってみろ」
ヨシローはいいやつだ。
「そうか、書けないのか」
「違うよ!!」
書けないのではない。
「書けないんだろ?」
書けているのだ。しかしオチが決まらないのだ。
「書けないんじゃん」
「違うよ!!」
毎回オチがハマらず作品をアップできないのだ。
「それを書けないっていうんだよ」
「ギギギギ!!」
「原因はだな、お前メイプル対応が大阪人だからなんだよ。」
なんだってー!?
しかし言われてみればそうかもしれない。
オチが締まらないと申し訳ない気がしてしまう。
その原因とは出生の、血にあったか!
そう思うと少しホッとした。技能不足というわけではないのだ。
ヨシローが私の顔を覗き込む。
「でもなんでそんなことになったんだ?メイプル対応といえば血とエロと殺人だろ?徹底的に登場人物を殺しまくって女を凌辱して自殺するのが基本パターンだったじゃないか」
「それはそうなのだが」
私メイプル対応が連載している「小説家になっちゃおう」の運営からは何度も注意を受けている。
私は自由と野生の生まれながらのギャラクシーフォックス。
大人の綺麗事など相手にしない。そう思って放置してきた。
アク禁するならさっさとしやがれってんだ!そんなのはオレサマの新しい勲章になるだけだ!!
しかし他ユーザーがまとめたデータによると通算○回でアク禁とかいう目安があるらしい。
私メイプル対応はその回数をとっくに超過している。
これは一体どういうわけなのだ!?
私は悩み抜いてある朝ひとつの答えに到達した。
(期待されている!!)
「小説家になっちゃおう」から巣立ったプロ作家は多い。
権威ある文学賞にも選ばれている。
しかし私には全く無縁であると考えていた。
多いとは言え上位何%かの優等生どもだ。
地を這いながら野獣の美学を追及するオレサマには全く関わりのないことさ!
そんなふうに斜に構えていたのだ。
だがこれだけ何度も残虐行為やエロ描写について指導を受けながらアク禁にされない。
運営は何故私をアク禁にしないのか?
それは私の持つ将来的にはノーベル文学賞を取れるかもしれない巨大な才能を理解しているからだったのだ!!
こうなったらルールを守った真面目なものを書いてやろうじゃないか!
私は古今東西の名作文学をイチから読み直して勉強を重ねてきた。
我ながら話の作り、伏線の張り方、展開のダイナミズムには自信が持てるようになった。
従前の血と殺しとエロは私のネイチャーではなく力量不足だったとまで思えるようになった。
ここで行き詰まったのがオチだ。
話の実が詰まるほどに匹敵するオチを生み出すことができずトータルでは詰まらないのだ。
「どうしたらいいんだろう?」
こんな悩みを他人に聞かせるのは野獣の美学を追求してきた私のプライドが大いに傷つくことだ。
私が言葉を飲み込んでいるとヨシローは言ってくれた。
「俺たち兄弟だろ?」
私の作品をいつも読んでくれてこっそり高評価を付けてくれていたヨシローに私は頭を下げた。
ヨシローは言った。
「なくていいいんだよ」
なんだってー!?
「メイプル対応は大阪人だからオチをつけてチャンチャン!で落としたい。それは大阪人の本能だ。だが小説を読む人たちはオチにはあまり拘っていないんだ。」
「なぜだ?なぜなんだ?」
「それはね……」
ヨシローは私にキスができるのではないか?と思えるほど顔を近づけたので私は思わず目を閉じた。
甘い声がささやく。
「可愛いよメイプル、いや、桐原美玲17歳」
本名を年齢付きで言うなっての!!
ヨシローのたくましい腕が私の肩を引き寄せると本質を語る声になって言った。
「大阪人じゃないからさ」
そうだったのかー!!
私は足をばたつかせて転げ回った。
「もー!なんだよなんだよ!そんなことかよー!!」
ひととおり転がりまわってふと見るとヨシローの姿は消えていた。
温もりだけが残っていた。