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禁術の始まり【中編】



 ある日のこと……男に取って、衝撃的な事実で突き付けられる。

 幼なじみである彼女が、シアが、死んだ。突然の病であり、原因は不明。ただ、日に日に衰弱していき、最期には以前の姿は見る影もなかった。

 回復魔法であれば怪我は容易に治せるが、病気はそうもいかない。しかも、この村に回復魔法が使えるのはシアしかいなかった。


 村の人間は、一同悲しんだ。村の仲間が死んだのだから当然だ。あんな明るくて、一生懸命で、可愛げのある子は他にはいない。

 だが、それがすべてではなかった。別の理由として、魔法が失われた事実に悲しんだのだ。この村ではすでに、彼女の魔法が生活の大部分を支えていた……だから、彼女の魔法が失われることは、村の生命線がなくなることを意味している。


 優秀であるがゆえに人々は彼女に頼り、大きな負担をかけてきた。彼女も、嫌な顔一つ浮かべずに受け入れていた。

 あるいは、それが彼女の死へと、繋がったのかもしれない。もしそうなら……


「私たちのせいよ……」


 人々は、悲しんだ。いくら大人になってきたとはいえ、村の大半の人間にとって、彼女はまだ子供だ。

 子供に、背負わせていい責任ではなかった。ただでさえ彼女には両親がおらず、甘える相手も満足にいなかったんだ。


 ……シアの両親は、猫型の亜人の父親と、人間の母親。二人は、多様な種族が暮らすこの村で育ったが……

 ある日のこと。二人は突如として、姿を消した。村にたった一人、幼い赤子を残して……

 その赤子が、シアだ。


 シアには両親の話はしていないし、聞いてくることもなかった。だから、事情を知っている者も話してこなかったが……

 もしかしたら、シアは気づいていたのかもしれない。自分が両親に捨てられたと……だから、また捨てられてしまわないように、村の役に立とうとがんばった。


「私たちのせいよ……」


 人々は悲しみに暮れた。もう、どれだけ後悔してもどうしようもないというのに……


 とりわけ男は、人一倍に悲しんだ。それは幼なじみが死んだことに対してか、それとも魔法を研究することが難しくなったからか……

 ……おそらく、後者の理由が大きかっただろう。もう少しで、研究も一段落といったところなのだ。なのに、その道が突如閉ざされてしまった。


 彼女ほどの魔法使いはいない。それは実力という意味だけではなく、男の研究に付き合ってくれるという意味でだ。わざわざ、意義のない研究に付き合ってくれるお人好しはいない。彼女を除いて。

 改めて、彼女の大切さに気付いた…………



 彼女ほど、都合のいい人間は、他にはいない。



 悲しんで、悲しんで、悲しんで……やがて男は、思い付いた。


「そうだ、彼女を生き返らせよう」


 人を生き返らせる魔法なんて、聞いたことがない。あったとして、それは魔法なんて呼べるものではないだろう。第一、男は魔法が使えない。

 それでも、やる以外の選択肢はなかった。魔法は無限の可能性に満ちているのだから。


 再び彼女に会い、魔法の研究に付き合ってもらうために。男は、もはやシアという人間に抱いていた感情さえ、忘れてしまっていた。

 それから、ありとあらゆる方法で死者を生き返らせる方法を探した。


 誰かに聞くか。

 いや、そもそも死者を生き返らせるなんて、世の中の理に反しているだろう。答えてくれる人なんかいないし、シアに比べれば誰も魔法に関して赤子のようなものだ。そんな方法知っているとは思えない。

 これは一人で、かつ誰にも気づかれないようにやらなければならない。


 男は、あらゆる方法を試した。何日も、何カ月も、何年も、何十年も……

 残りの人生を、ただ彼女を生き返らせるための方法を探す、その一点のみで。探し続けた。


「……これで、どうだ」


 もう何百、いや何千にも及ぶ、死者を生き返らせる試み。もはや、どうしてこんなことをしているのか、わからなくなってきていた……

 その日、ただの一度も成功の兆しすら見せなかったそれは、ついに形を持って成功する。


 何十年も時間を費やした男は、今のはいったい、なにをどう試して成功したのか、わからなくなっていた。

 きっと、もう一度同じことをしてみろと言われても、無理だろう。


 だが、それでいい。ただ一人、ただ一度、生き返らせることができれば、それでよかったのだから。


「……ここ、は?」


 彼女は、当時の姿のままだった。

 死んだあと、遺体は埋められていたが……誰にもバレないよう掘り起こした。腐らないように慎重に保管していた。

 とはいえ、何十年も無傷で保管しできるはずもない。魔法が使えれば、また違っただろうが。そんなことを言っても仕方がない。


 シアが生き返る直前までの死体は腐敗し、とても見れたものではなかった。いくら慎重に保管していても、何十年と経過した死体は所々白骨化し、死体を隠していた家からは腐臭が漂っていた。

 まあそれは、家の周りに大量のごみを置き、ごみの山にカモフラージュしてごまかしていたが。


 とにもかくにも、彼女は生き返った。腐敗していた体は、不思議なことに傷一つない、健康的な体へと戻っていた。生き返ったことで、体も元に戻ったのだ。

 当時の¥、死んだときのままの姿で、健康的な肌を持っていた。とても、一度死んだとは思えない。とても、生き返っただなんて思えない。


 男は、喜び舞い上がった。舞い上がり、彼女を抱き締めたあと、村のみんなに触れ回った。彼女を生き返らせることができた、と。

 男ははこれまで、村の人間との関係を断ってきた。村の人間もまた、なにかの研究に没頭する男を放っておいた。


 しかし男は、とにかくこの喜びを誰かと分かち合いたかった。ただ、何十年も費やした時間が報われたことに、自分の努力が報われたことに、誰でもいいから知らせたかった。みんなだって、死んで悲しんでいたシアが行き交えれば、喜ぶに決まっている。

 だから……


「……お前は、なんてことをしていたんだ」


「なんてバチ当たりな!」


「まるで神様に唾するような行為、災いが起きたらどうしてくれる!」


 男を責めるその言葉が、理解できなかった。

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