再会
見つけた……見つけた見つけた見つけた、見つけた!
瞬間、ローニャの胸の奥が熱くなる。こんな気持ち、もうずいぶん忘れたと思っていた……心が動くのさえ、いつぶりだろう。
もし、この感情に名前をつけるならば、それは『恋』ではないだろうか……ローニャは、そう思った。
「はは……」
思わず釣り上がる口端を隠すことなく、ローニャは歩みを進める。
状況を確認し、それを飼い主様に報告する……それだけのはずだった。だというのに、今自分は初めて、飼い主様の命令に逆らっている。
普段ならば、絶対にあり得ないことだ。その、あり得ないことが起こるほどに、今のローニャは高揚していた。
「久しぶりだね……ノット」
気づけば、自然と口から声が出ていた。今、自分はどんな顔を、しているのだろう。
彼女は……ノットは、ローニャに気づく。しかし、どうやらローニャとは違い、ひと目で相手には気づいていないようだ。なんと、悲しいことだろう。
誰だ、と問いかけられ……それでも、めげない。一歩一歩と近づき、己の存在を思い出させる。
そして……
「お前……まさか……」
「やっと思い出してくれた? ねぇ、ノット」
「……なんで、生きてるんだ……ローニャ」
ようやく、名前を呼んでくれた。その瞬間、胸の内から、溢れんばかりの感情が溢れた気がした。実に数年ぶりの再会……しかしそこに、互いに感動を含んだ気持ちはない。
現にノアリは、複雑そうな表情を、浮かべている。
「……私を、恨んでるのか?」
しばらくの沈黙。ノアリがようやく口に出したのは、この言葉だった。
恨んでいるか……それを言われて、古い記憶が呼び覚まされる。二人で盗みを働き、最後……ノットに見捨てられた、あの日のことを。
初めの頃こそ、ノットを恨んだ。なんで、あのとき助けてくれなかったのか……なんで、私を見捨てたのか。
「私は別に、ノットを恨んでないよ」
今はもう、それは紛れもない事実で。
「全部、私が弱いのがいけないんだもんね。私が、役立たずなのが、いけないんだもんね」
ノットを恨んでいない。そもそも、彼女が生きていたのか……それを考える余裕すら、今このときまでなかったのだ。
「聞いたよね、なんで生きてるかって……あれから大変だったんだよ? 逃げ出すこともできずに結局、売られて……金持ちの豚どものいいおもちゃにされてさ。買われた私には抵抗する権利も、力もないし……ずーぅっと、気が済むまで殴られ蹴られ雑用させられ犯されて……男でも女でも関係ないの。それも、何人も何人も、売られてはそこでいいようにされて、また売られて。ノットと一緒だった生活が天国に感じるくらい、だったよ。けどね、何度も繰り返すうちに……世渡りっていうの、覚えたんだ。だからほら、最初はガリガリだった体も、今はいいもの食べさせてもらってるからちょうどいいでしょ。スタイルも維持して、相手に気持ちよくなってもらう方法だって覚えたの。ね、気持ちよくなってもらえれば、相手の機嫌をとれば、お腹いっぱいに食べさせてもらえるの。あの頃はたった一欠片のパンを盗んで、食いつないできたでしょ。でもそんな生活とはもうおさらばなの」
「ろ、ローニャ……?」
「だからね、ノット……私今、幸せなんだよ?」
あの頃は、日々盗みを働き、ようやく手に入れた食料でその日その日を食いつないでいた。ひもじい生活だったといえる。
だが、今は違う。言うことを聞いていれば、おいしいものを食べさせてもらえる。温かい寝床を、もらえる。
これほどにいい生活が、あるだろうか。あの頃は、想像もしなかった。今、私は幸せ……そう告げるローニャの言葉は、心は、真実だった。
だから、目の前で驚いた表情を浮かべているノットが、なぜそんな顔をしているのか……ローニャには、理解できなかった。




