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染み付いた人生観



 それからアンズたちは、何日かをその村で過ごした。その間、ローニャが暮らしていけるよう、手伝いもしてくれたのだ。


 働き口を探す。もしくは引き取ってくれる人を探す……ローニャはメイドとしてのスキルは上々であるため、それを活かせれば生活に困ることはなさそうだった。


 魔物に襲われた村で、唯一の生き残りであったからだろう。アンズたちは、ローニャに優しかった。それとも、そんなの関係なくこの人たちの人柄なのであろうか。


 ……そして、アンズたちと別れる日が、やって来た。



「ローニャちゃん、元気でねぇ」


「うん……ありがとう、ございました」



 アンズは、別れるときまで泣いていた。その泣き顔に若干引きつるものを感じながら、ローニャは礼を言った。


 一応、自分のためにいろいろとやってくれたのだ。……礼の一つでも言わなければ、無礼と言うものだろう。


 勇者のお役目……魔王という存在を討つために旅をしていた少女たちは、そんな重い使命を背負っているとは思えないほどに、元気だった。現に、村に滞在している間、村人と仲良くなっていた。


 ……まさか、その勇者アンズがこの後、世界を滅ぼすために憎しみを抱えることになるなど、ローニャ含めて誰も思わなかった。



「……はぁ」



 彼女らを見送ったローニャは、ベッドに横になった。宿の部屋に備え付けてあるベッドだ、柔らかくも固くもない。


 強いて言うなら、いつも寝させてもらっていたあのベッドには、全然敵わない。ローニャが、身体を触られるのを我慢さえすれば、温かい食事や寝床をもらえたのだ。



「……やっと、一人だ」



 彼女らが村にいた間は、常に誰かしらが側にいた。特に、アンズ含めた三人の女性の誰かだ。


 おそらくは、寂しい思いをさせまいと、気を遣ってくれていたのだろう。だが、そんなのはありがた迷惑も、いいところだった。



「……これから、どうしようかな」



 ローニャはこのまま、この村で暮らしていくのか。そのために、今のままでいいのか……それが、わからなくなっていた。


 ローニャのこれまでの人生は、人から盗み、人から買われ、人に使われ……とても、人の尊厳とはいえないような、人生を歩んできた。いや、歩まされてきた。


 そんな生活から、やっと抜け出せる……そのはずなのに、ローニャは、わからなくなっていた。自分が、どうしたいのか……どう、されることが、自分にとっての幸せなのか。


 だから……



「……すみません」



 宿の店主に、奴隷を扱っているところがないかを、聞いた。


 どんなにきれいに見えている村にも、奴隷なるものは存在する。表に見えていないだけで、どこにだってあるものだ。


 そしてそれは、暗黙の了解として、認知されてもいる。



「……ここか」



 その日ローニャは、奴隷商に自分を売り込んだ。


 奴隷商も、驚いたことだろう。基本は人攫いや、売られてきた者がここにたどり着く。だが、自分から奴隷になりたいなんて言い出してきたのは、おそらく初めてだったから。


 ローニャは、再び奴隷に身を落とした。あれだけ、逃げたかった奴隷から……今こうして、今度は自分から、足を踏み入れている。



「なにをしてるんだろうな、私は」



 ローニャ自身、もう自分がなにをしているのか、わかっていない。だが、これが一番、いい生き方だと……思ってしまった。


 もう、誰かから盗みをして殴られるのも、ただただ苦労して日銭を稼ぐのも、嫌だ。……安定した、生活が欲しい。


 幼い頃の経験、それから何年にも渡って奴隷として育てられたことが、ローニャの人格を、変えてしまっていた。


 獣人、若い女、柔順、メイドとしてなんでもそつなくこなす……それだけの条件があれば、買い手はすぐに見つかった。



「今日から私が、お前の飼い主だ」



 そう、男は言った。この男も、同じだ……ナルハンドや、他の男と同じ目をしている。ローニャは、自分の未来を知った。


 また、魔物に村が襲われるなんてことが、ない限り……この男の下で、好きにされ続ける、運命なのだと。

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