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ローニャの異変



 それからのローニャの生活は、一変した。とはいえ、朝や昼の生活は、今までとはなんら変わりはない。変わったのは、夜だ。


 毎夜のように、ナルハンドや他の男の相手をする。時には、ナルハンドがいないこともあった。


 他のメイドたちは、ローニャがこのような目にあっていると知っているのか……いや、それとも、他のみんなも同じような目に、あっているのではないか。


 それを確かめようにも……誰にも、聞くことは出来なかった。もし、これが自分だけにされているものだと思ってしまえば、怖かったからだ。



「……」



 それでも、ローニャは日々笑顔を心がけた。そのように教え込まれていたのもあったし、他のみんなに迷惑をかけてしまいたくないという思いもあってだ。


 もし、誰もローニャの現状を知らなかった場合、余計な心配をさせてしまうかもしれないからだ。


 そして、ローニャは働いた。いつものように。いつものように笑顔を絶やさず、そして夜はナルハンドたちの相手をする。そんな生活が、ずっと続いていった。


 ……そんな生活を続けていて、無事でいられるほど、ローニャの心は強くはなかった。



「うっ……!」



 最近、吐くことが多くなった。誰も見ていないところで、嘔吐を繰り返す。胃にもうなにもなくても、吐き気は止まらない。


 まさか……と、頭をよぎるものがある。しかし、あれだけ異性と交わり、その熱を受け止めていれば、まったくありえないなんてことはなかった。


 ……妊娠の、可能性は。


 ただ、聞いた話では、獣人は妊娠の確率は低いらしい。理由はわからないが、人族に比べて、獣人族は妊娠の確率が低い、という情報を知っているだけだ。



「ローニャ、最近顔色悪いけど、大丈夫?」


「! は、はい、大丈夫ですよ」



 異変を、悟られてはいけない。ここにいるメイドたちは、ローニャほどでなくても、そのほとんどがナルハンドに抱かれている者ばかりだ。それは、もはや周知の事実。


 その中で、誰も妊娠した、などという話を聞かない。そりゃ、ナルハンド一人と、その他大勢に押し倒されているローニャでは違いもあるだろうが……


 大丈夫、きっと大丈夫だと、自分に言い聞かせた。



「ローニャ、おいで」


「あ、あの……」


「ん? なんだい?」


「……いえ」



 何度か、ナルハンドに打ち明けようと思ったこともあった。しかし、どうしてか勇気が出ない。


 もしも、本当に妊娠をしていたとして。そうなってしまえば、しばらくナルハンドに触れられなくなってしまう。そんなのは……


 ……それのなにが、悪いのか。ローニャは、ナルハンドのことは好きだ……が、それも以前までの話。複数の男に抱かれるようになってからは、彼にはもう特別な感情を抱いていない……はずだ。


 そうだ、もし妊娠をしていたら、もう触られない。だって、妊婦を乱暴に扱うことなんて、ないのではないか。妊婦をしていたら、もうあんな苦痛の時間を味わう必要もない。


 解放される。だから……



「いえ、妊娠の傾向はありませんな」



 ……そう、医師から言われた瞬間、ローニャの中で淡い希望が崩れ去った。


 休みの日、ナルハンドや他のメイドたちには内緒で、ローニャは医者の下へと足を運んだ。そこで、妊娠の報告を受ければ……そう、期待していたのかもしれない。


 もはや、妊娠していたとして……お腹の子の父親が、誰であるか。そんなものを、気にする余裕さえも、なかった。


 それは、期待だった。苦痛から解放される期待……それは見事に、打ち砕かれた。そして、それがまずかった。


 一度期待を持ってしまえば、それが砕かれたとき……解放されるかもという気持ちを持ってしまった分、突き落とされる底は深い。期待、希望を持ったがゆえ、絶望の深さは増していく。



「…………」



 そして、それまで張り詰めていた糸が……その瞬間、切れた。


 希望を見てしまったがゆえの絶望が、徐々に蝕まれていたローニャの心を一気に、覆い包んでいった……

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