ドニとの遭遇
守護精霊にもっと友達ができればいいなと思った翌朝――
息苦しさで目を覚ます。
のしかかられたように身体が重たい。
目を開けても真っ暗だ。
俺の顔に何か柔らかいものが押しつけられていた。
甘いミルクのような匂いが鼻孔をくすぐる。
五感に訴えてくる様々な情報を分析した結果、控えめに言って……女の人である。
まさか師匠か!?
全力で身体を起こす。彼女は俺の腰の上に乗っかった姿勢になった。
だれこのひと。
対面したまま座る格好だ。距離が近い。先ほど感じたミルキーさがふわりと香る。
鎮まれ俺のいろんなアレ。
「どこの誰だか知らんけど、人のベッドで何してるんだ?」
「……他にベッドの空きが無かったから」
俺の上で掛け布団になっていた女性は【アイテムボックス】から眼鏡を取り出して掛ける。
薄い色の金髪に碧眼だ。整った美人さんだけど、眼差しはうつろでぼんやりしている。
青紫色の神官服姿だった。上級の【防魔導士】が着てるやつだ。
胸の辺りが窮屈そうである。パンパンにつまった感じでぱつんぱつんじゃないか。
どうやらセツナ師匠以上に大きく柔らかな物体を押しつけられていたっぽい。
下手すると一晩中。寝苦しさと心地よさって両立できるんだな。
「……ドニ」
「は?」
「……誰って訊かれたから」
声に抑揚がなくて淡々としている。
「……添い寝」
「いや、だからその……」
「……何をしているのか訊かれたから」
いかん。ズレてる。なんか色々と。
「とりあえずどいてくれ」
「……どうして?」
ああもうわざとなの? 説明が必要なの?
【防魔導士】の神官お姉さん――ドニは身体ごと首を傾げて俺をじっと見る。
と、その時。
「ふあ~あ! むにゃむにゃ……おはようございまーす」
二段ベッドの上からにょっきりとエテルナが顔を出した。
対面で密着したまま座るドニと幼女の視線がピタリと合う。
「――ッ!?」
声にならないエテルナにドニが呟いた。
「……かわいい」
まあ確かにエテルナは可愛いよ。愛らしいよ。愛くるしいよ。
一瞬でエテルナの顔が真っ赤になった。
「な、な、な、なにをやっているのですかアルヴィス様!?」
「待て待て待て! 俺がやったんじゃない目覚めたらこうなってたんだ!」
一拍おいて。
「……おはようございまーす」
ドニはエテルナの口ぶりを真似て挨拶した。
やっぱズレてるよこの人。
守護精霊が全身をプルプルと小刻みに震えさせて上の段からはしごを降りる。
腕組みすると幼女はじっと俺を見据えた。
「最近モテ期だからといって……わ、わたくしが膝枕でも添い寝でもしてさしあげますのに……そんなにお胸の大きさが重要なのですか?」
幼女も幼女で俺をなんだと思ってやがるんだ。いや、嫌いじゃないけど。
「落ち着けエテルナ。なあええとドニ……さん。どうしてこうなったか詳しく聞かせてくれないか?」
「……追放された」
「はい?」
「……セツナの紹介」
断片的すぎてさっぱりわからん。
幼女がビシッとドニの顔を指さした。
「まずはアルヴィス様の上から降りてくださいませ」
「……こうすれば頼みを訊いてくれるのでは?」
誰か翻訳してくれよ。
ドニは眉一つ動かさない。
エテルナが顎先を親指と人差し指で挟んで頷く。
「はは~ん……なるほど理解しました。セツナ様にそうせよと命じられたのですね?」
神官はコクコクと二度、首を縦に振った。
「……アルヴィスはおっぱいが好きだから、お願いの仕方が大事」
真顔でなんてことを言うんだこの聖職者は。
「うおおおやめろって! ともかく降りてくれドニさん」
「……ドニで」
さん付け禁止!? このタイミングで!?
会話のキャッチボールが下手かよ。
「……よっこらしょ」
ようやくドニはベッドから立ち退いてくれた。その口ぶりは素なのだろうか。見た目はお姉さんだけど中身はまさかのおばあちゃん!?
腰の辺りの圧迫が解かれたものの、ちょっと事情があって立ち上がりにくい俺です。
幼女と神官が向き合った。横から見ると体格差は歴然だ。
エテルナはスマートな胸をのけぞらせてふんぞり返る。
「セツナ様のご紹介ということは理解しました。アルヴィス様にご用件でしたら、専属守護精霊のわたくしエテルナを通してからになさってください」
「……はい」
「ではご用件を伺いましょう!」
「……アルヴィスの冒険の仲間になりに来ました」
なん……だと?
俺はベッドから飛び出してドニの手を両手で包むようにした。
「マジか!?」
「……」
光の宿っていないうつろな眼差しが俺の下半身をじっと見る。
「うわああああ! 待った! 見ないでくださいお願いします!」
つい握ってしまったドニから手を離し、俺は股間を両手で隠して背中を向けた。
エテルナは「ご立派なのですアルヴィス様」ってばかー! んもー! ばかー! やめて幼女がそんなことを口にしてはいけない。
女性の知り合いが増える度に俺は時々死にたくなる。まあ、死んでも復活する冒険者なので逃げ場はあの世にすら用意されてないんだけど。
ともかく今は落ち着いてドニが何をお願いしに俺なんかの元にやってきたのか、確認するのが先決だ。




