助ける価値は?
こうして三十一階から先に進むとっかかりをがっちり掴むと、俺とエテルナは町にある藁人形を買い占めた。おかげで一時期価格が高騰したけど、すぐに落ち着いた。
なんとエテルナが藁人形を解析して作れるようになったのだ。
藁はごく普通のもので、小粒程度の魔石が核として埋め込まれているだけの簡素な仕掛けだ。
藁なら農場で買えるし、魔石も魔物を倒して手に入れたやつを砕けば事足りる。
自家製藁人形は、期待通りのファントム吸い込み効果を発揮してくれた。
レベルが33に上がり、藁人形抜きで石像系の魔物も倒せるようになった。
ガーゴイルやゴーレムを打ち倒して三十二階に進む。
戦い方の基本は変わらない。ペースがつかめてきたところで、ついに冒険者パーティーとも遭遇した。
崖際の通路は一本道で細い。手前にあった石造りの塔の裏手で様子を見る。
「くそッ! こんなところで死ねるかよ!」
「見通し甘過ぎだろ……ふざけるんじゃねぇよ!」
「残り藁人形三つじゃ無理じゃん! やばいってランディ!」
「みんな諦めちゃいけないよ! 僕らでクランのトップになるんだ!」
全員上級職っぽい立派な出で立ちだ。
前衛四人に後衛二人のバランス型のパーティーが、ストーンゴーレム四体に囲まれて身動きが取れずにいる。崖沿いの一本道で逃げ場がない。
エテルナが心配そうに俺を見る。
「そんな顔するなよ」
少し待っていればきっと、パーティーは全滅して道が空くだろう。手負いのストーンゴーレムなら一体ずつ上手く処理できる。
仮に助けに入って上手くいくかもわからない。魔物の撃退に成功しても、獲物を横取りしたと責められる可能性もあった。
幼女は下唇を噛む。
「行ってくださいアルヴィス様」
「いいのか?」
「はい。それがアルヴィス様なのですから」
俺は剣を抜くと剛体術式ほか覚えた強化魔法を一式自分に掛けながら、ストーンゴーレムの背後に詰め寄った。
無防備なところに全力の火炎十字斬りをお見舞いする。
ガギンと重い手応えだが、刃に纏わせた炎の魔力を高めて溶断する。ストーンゴーレムは動かなくなった。
「こっちだ! 一旦引け!」
俺の声に呼応して冒険者パーティーは一本道を下がる。
挟撃状態から脱して体勢を整えると、前衛の【騎士】がゴーレムの攻撃を受けきり、後衛の魔導士たちが攻撃役を強化&魔物を弱体化させた。
パーティーのリーダーらしき赤いマントの【軽戦士】が、目にもとまらぬ片手剣の連撃でゴーレムの脚部を破壊する。
足の止まったところに【弓術士】の貫通矢が炸裂した。
鮮やかな連携でストーンゴーレムを一掃し、赤マントの男が剣を納めて息を吐く。
「いやあ助かったよ。ありがとう。ランディだ」
続けてランディの仲間たちもそれぞれ俺に挨拶した。
「俺はアルヴィスだ」
赤マントが首を傾げる。
「仲間はいないのかい?」
振り返って石造りの塔の陰に隠れた幼女を手招きする……が、彼女は首を左右に振って出てこなかった。
「あ、ええと、いるにはいるんだけど……」
「そうかい。珍しいね。他のパーティーのピンチを救おうだなんて、所属クランに知られたら大変じゃないか」
「無所属だから心配には及ばないぞ」
ランディの後ろで仲間達が顔を見合わせた。
「嘘だろう? ここは三十一階だよ? 今時、どこのクランにも所属していないだなんて……」
「本当だぞ。それより藁人形の数で困ってたみたいだけど、良かったら俺から買っていかないか。ちょっと持ってきすぎたんだ」
赤マントの青年が目を丸くした。
「君は正気なのか? ま、まあ譲ってくれるというなら、お金は出せるだけ出させてもらうよ」
「町売りの価格でいいって。百個もあれば大丈夫か?」
サンプルを【アイテムボックス】から取り出して見せる。後衛の【攻魔導士】が「作りは甘いが十分使える」と品定めした。
適正価格で取引するとランディが言う。
「君は我々の命の恩人だ。もし良ければ僕たちの所属するクラン……バーガンディーズに招待するよ。百人近い大型クランで強い後ろ盾を持っているんだ。名前くらいは聞いたことあるんじゃないかい?」
「いや、初耳だけど」
「どこかの少数精鋭をうたってるクランと違って、層の厚さがうりなのさ。その【初心者】みたいな装備でも歓迎するよ」
「あっ……その……ありがたいけど……」
パーティーで役割分担をして戦うのに憧れはある。
けどさ、けどね。
スキル急成長もあってどこかに所属したり、誰かと固定で組み難い。俺の事情を知ってる相手じゃないとやりづらい。
それに……パーティーを組んでしまったらエテルナはどうなるだろう。
こちらが乗り気じゃないと知るとランディはため息を吐いた。
「そうか。君の力がどれほどかはわからないけど、剣聖同盟は希望して入れるものじゃないんだよ。英雄剣聖に見込まれるような冒険者じゃなきゃ門前払いなのさ」
勝手にセツナのファンだと思われたな。他のクランからしても剣聖同盟は一目置かれてるみたいだ。
赤マントは続けた。
「まあ、バーガンディーズも人数が多い分、席次を上げるのが大変だけどね……それでも入れないクランを見上げ続けるより、僕らの仲間にならないかい?」
「あのえーと……ごめん。ちょっと訳ありなんだ」
「残念だよ。ああええと……これはお願いなんだけど、今後は僕ら以外にアイテムを売ったりしないで欲しいな。ライバルに先に行かれると困るんだ。もし、約束してくれたなら、僕らが塔を制した時に、君にもその栄誉に浴する権利を進呈したいと思う」
なりふり構っていられないみたいだが、俺は首を左右に振った。
助けるのに理由がいらないように、助けない理由も必要無い。
「断る!」
途端にランディの後方に控えていた彼の仲間たちが、それぞれの得物に手を掛けた。
すぐに赤マントが制する。
「わかったよアルヴィス君。今回、我々を助けてくれたのも君の矜持なのだろうね。助けてもらったのに……謝罪するよ」
掟があっても殺さなければいい。三十一階から先にはそんなやり方をする連中がいると、前にセツナに教えてもらった。
ランディは背を向ける。赤いマントがひらりとはためいた。
「僕らは先に進ませてもらうよ。ああそうだ……知っているかもしれないけれど訊いて欲しい。この先の階層には通常の魔物とは違う、強力な魔物が徘徊している。並のパーティーじゃ全滅必至……気をつけることさ」
この先の階って……三十二階か。そういえばギルドで噂になっていたっけ。
上級職位で固めたパーティーが全滅するなんて、相当な化け物だな。
ランディたちの背中が遠くなる。
やっとエテルナが俺の元にやってきた。隣に立って赤マントにあっかんべーをすると、口をとがらせる。
「まったく失礼なのです! 救ってもらっておきながら、よりにもよってアルヴィス様にこれ以上、人助けをするなだなんて言語道断!」
「激おこだな」
「これが怒らずにいられますか!」
ランディがまだ理性的だったから良かったけど、他の連中は途中から明らかに俺を敵視してたっぽい。
町に戻ってから鉢合わせたらトラブルになるかもしれない。
誰かを助ける時は耐瘴気マスクにマント姿の行商人モードが良さそうだ。




