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俺=レベル0 あいつ=レベル○○

 歴史講義で習ったのだが、今の世界は光大神シャイニと闇魔神クジャヤの戦いによって生まれたそうだ。


 神話の時代――人間を守護するシャイニによってクジャヤの魂は砕かれ、世界中に散らばった。

 目に見えぬほど細かくなったクジャヤの魂が動植物や鉱物や大気や水などに混ざり込み、魔物や魔族が生まれたらしい。


 クジャヤを倒したシャイニも無事ではなかった。傷ついた光大神は眠りにつき、残された人間が自らの手で魔物や魔族と戦えるようにと、特別な力――職位を授ける六柱の神を生み出した。


 【剣士】を司る剛柱神ストラ。

 【攻魔導士】と【防魔導士】に叡智を授ける賢柱神インテ。

 【斥候士】と【弓術士】に専心を促す技柱神デクス。

 【軽戦士】と【格闘士】に順風を吹かせる駿柱神アジル。

 【騎士】や【重戦士】に鉄壁を付与する護柱神ビイト。



 そして全ての冒険者の始まりとなる【初心者】を守護する幸柱神ルクス。



 【初心者】を除いたそれぞれの職位には上級職も存在した。

 冒険者訓練校で習ったのはここまでだ。

 そう……ここまでなのだ。


 無いのだ。【勇者】が。廃止されたとかでなく、そもそも存在しないって感じだった。


 【勇者】なにそれ美味しいの? というかお前大丈夫か? と、訓練教官に心配されてしまった。

 同期入学した連中も俺の言葉を鼻で笑うか疑うか。


 お前らは何のために冒険者になるんだと訊けば、やれ有名になりたいからとか、金持ちになるためとか、強くなればモテるからとか、王国軍に士官して出世するためだとか。


 魔物や魔族の脅威から人々を守るためという意見は少数派なようだ。

 誠に遺憾である。みんな誰かを助けたいとは思わないのだろうか。


 変人アルヴィスと揶揄されて悶々としつつも三ヶ月の実習過程は無事終了。

 成績は下から数える方が早かった。というか最下位だ。


 チクショウメ!


 出てしまった結果に落ち込んでも仕方ない。一番下ということは、誰よりも伸びしろがあるということである。


 卒業した翌日、俺は朝一番に王都を発つと大橋へと向かい、川を渡った。


 半日掛けて着いたのは内海に面した港町――幸柱神を祀る【初心者】の神殿があるララルクスの町だ。


 空は青く潮風が心地よい。

 雲よりも高くそびえる塔が建ち、町の目抜き通りのバザーは冒険者たちでごった返していた。誇張抜きに王都の十倍は賑わっている。


 【騎士】や【重戦士】は立派な装飾のされた甲冑に身を包み、他の職位の冒険者も身なりからして歴戦の強者感があるな。なんだかわくわくしてきたぜ。


 ここは【初心者】の町なのに、ちょっと意外に思う。


 先輩冒険者たちはバザーや商店で買い物を済ませると、こぞって町の中心――巨塔の方へと向かっていった。

 あっちにあるものと言えば。


 視線を上げる。

 ララルクスのランドマークの塔は本当に大きい。


「見上げてるだけで首が痛くなるぞ。まったく……本当にデカいんだな」


 自然と口が半開きになった。

 白と黒で左右に塗り分けられた巨塔は王都からも見えるほどで、その頂点は雲の上だ。


 ただの目印にしてはあまりにデカすぎる。


 訓練校の教官曰く、こいつの名前は確か……【神魔の塔】だったっけか。

 白と黒に塗り分けられた神秘的な外観にふさわしい名前だと思う。


 そんな巨塔の膝元に俺の目的地――【初心者】の神殿は、添え物のようにちょこんと建っていた。

 白い大理石の柱が並ぶ宮殿みたいな建物だ。

 冒険者訓練校を卒業した者は、この神殿で幸柱神ルクスと契約を交わさねばならない。


 職位【初心者】を得るために。


 神の加護たるレベルが与えられ、持ち物を自在に出し入れできる【アイテムボックス】を使えるようになって、ようやく冒険者を名乗れるのである。


 ふと、漆黒鎧の冒険者に助けられた日の事を思い出す。

 なんで【アイテムボックス】なんて便利な能力があるのに、故郷を救ってくれたあの冒険者は俺に荷物持ちなんてさせたんだろうか。


 今にしてみれば、あれはきっと「ついて行く!」と言ってはばからない俺を諦めさせるためだったに違いない。

 その割に、追走する俺にペースを合わせてくれたりと、少し引っかかるところはあるけれど……。


 と、思い出に浸っている場合じゃない。善は急げだ。

 神殿入り口には古びた案内板が立っていた。文字がかすれて消えかけている。


 というか読めない。出迎える案内板が仕事をしていなかった。


 視線を落とせば神殿の前庭は雑草で埋め尽くされ、白い壁にも緑の蔓がのびのびと領土を広げていた。


 あまり手入れをされていないようだ。町は立派な身なりの冒険者でごった返しているのに【初心者】の神殿の周りだけ閑散としていた。


 本当に大丈夫なのか? ここって【初心者】の神殿だよな? もしかして来るところ間違えた?


 入り口が洞窟のようにぽっかりと口を開けて俺を待つ。

 のぞき込む。建物の中は薄暗い。奥に白い光がぼんやりと揺らいでいた。


 と、その時――


「あれぇ? ストランディア校の72期生最下位のアルヴィス君じゃありませんか?」


 不意に背後から声をかけられてビクッとしながら振り返る。

 ふわふわとした金髪の少年が立っていた。同期生のカマッセだ。王都に立派な店を構える大商人の家の三男坊である。


 目鼻立ちは通っているがややたれ目気味でウェーブがかった髪をしていた。

 ゆるりとしたローブ姿で腰のベルトに短杖を提げている。恰好だけなら【攻魔導士】だ。


「お前も【初心者】の契約をしに来たんだなカマッセ。一緒に行くか?」


 手を差し出すと軽く叩き返された。ハイタッチするには気が早い。


「落ちこぼれの君と? はっはっは冗談はよしてほしいものだね。僕はもうとっくに契約は済ませたんだ」


 前髪を指でつまんでひねりながらカマッセは口元を緩ませる。

 こいつ……なんて熱心なんだ。正直なところ、早朝に王都を出た俺が一番乗りじゃないかと思っていた。カマッセはきっと日が昇る前からララルクスに向かっていたんだな。


「すごいな。てっきり俺が一番乗りだと思ってたんだが、負けたよ」


 カマッセはため息交じりに返す。


「君は本当におめでたいね。同期のみんなはとっくに【初心者】に転職済みだよ。まだ【初心者】にすらなれていないレベル0は君だけさ」


 カマッセが指をパチンと鳴らすと、彼の目の前に薄い板状の【ステータスウインドウ】が浮かび上がった。縁が紫色に光っている。


 くるんとこちらに向けてカマッセは前髪を手櫛でかき上げた。


「僕は三十分前に【攻魔導士】になったんだよ。君の三ヶ月先を行ってるね。あっ……君はまだ職位に就いていないから【ステータスウインドウ】が出せないね? これじゃあ連絡先の交換もできないや。いやーまいったなぁ、はっはっはっは!」


 虚空に浮かぶガラス板のようなそれにはレベル11という表記と、カマッセの能力を表す六角形のグラフがあった。知力値だけが突出して高い。


 職位の欄に【攻魔導士】の文字が燦然と輝いていた。


「お前、もうレベル11なのか!?」


 【初心者】の上限は10で、その先、転職しなければレベルは上がらない。

 訓練教官曰くレベル10に到達するには平均して三ヶ月はかかるという話だった。


 今日【初心者】になったやつが、いったいどうやって三ヶ月分の経験値を得たんだ?

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