表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/62

塔内環境無茶苦茶でした……

 暗転していた視界が開ける。

 塔の中に入った……のだろうか? 茶色い岩壁に挟まれた通路だった。所々に篝火やら魔力灯が焚かれ、雰囲気はこれぞ坑道って感じだ。


 って、坑道だって!?


 白と黒の継ぎ目無い磨かれた石の塔という外観から、全く想像もつかない内部だった。

 幼女が身を寄せて不安そうに顔を上げる。


「あ、あのアルヴィス様。ここは本当に塔の中なのでしょうか?」

「わからん。けど、引き返すのは無理みたいだな」


 振り返ると壁だった。俺とエテルナは通路の袋小路に飛ばされたみたいだ。

 他のパーティーが後方から湧く気配もない。

 現状確認のため【ステータスウインドウ】を開く。攻略階数に1とあった。

 幼女が吠える。


「と、ともかく! 出口でも次のフロアへの入り口でも良いので目指しましょう!」


 エイエイオー! と、幼女は握った拳を掲げた。その声は反響しながら薄暗い通路の奥へと響いて消える。

 意気揚々と進み出す彼女を呼び止めた。


「ちょっと待った。なあエテルナ。もしここで俺が死んだらどうなる?」


 立ち止まると振り返り幼女は哀しげな顔をする。


「戦う前から負ける事を考えていては、勝てるものも勝てなくなってしまいますよ?」

「違う違う。弱気発言じゃないんだ。俺が倒された時に、エテルナは転移魔法で【初心者】の神殿に戻るんだよな?」

「はい。最近ではアルヴィス様も成長なされて、あまりお倒れにならなくなりましたけど」

「ここが【神魔の塔】の中で、転移魔法が封じられていたとするとどうなるんだ?」


 幼女は腰に手を当てた。


「ご心配には及びません! お母様より授かりしわたくしの転移魔法は、いつ何時いかなる場合においても使用できる特別なものですから!」

「試してみてくれないか?」

「ええッ!? 信用してくださらないのですか?」

「念のための確認だって」

「んもー! 仕方ありませんね」


 ぷにぷにのほっぺたを膨らませて、幼女は拳をきゅっと握る。

 一拍おくと幼女は腰を落として踏み込み、虚空めがけて正拳突きを放った。


「チェストぉ!」


 ガコン! と空間に穴が開く。が、普段は維持される穴が少しずつ縮み始めていた。


「あれ? なんだか閉じようとしてます!?」

「よし! 飛び込むぞエテルナ!」

「ええぇッ!? 来たばっかりじゃ無いですかぁ!」


 閉じる前に、俺は幼女を抱きかかえて転移魔法の穴に身を投じた。



 視界が暗転し、再び光が戻るとそこは神殿のいつもの個室だった。

 幼女は「ほら、言った通りではありませんか?」とやれやれ顔だ。

 やった本人は【神魔の塔】から脱出できたことの意味を理解していない。


 お前、何かやっちゃったんだよ。すごいことをさ。


「エテルナって本当に【超初心者】を導く守護精霊だったんだ」

「まさか疑っていらしたのですか? わたくしが守護精霊だということは、この兎めいた装束を見れば一目瞭然ではありませんか!」


 服装でそうだと判断できるもんじゃないだろ。


「ごめん言い方が悪かった。ともかく、これで俺が塔の中で倒れてもエテルナは無事に戻ってこられるみたいだし……」


 幼女は腰に手を当て不機嫌そうに「当たり前です!」と眉尻を上げた。


「その当たり前がすごいんだよ。反則もいいところだ」


 俺は誰かを救える【勇者】になりたいけど、聖人君子って言われるような立派な人間じゃない。

 もちろん流儀に反することはしないが、使えるなら全て利用する。

 与えられた力を行使しない方が、それを与えてくれた神様に失礼だ。


「次はアイテムだな。もう一度、転移魔法で塔に戻れるかも試したいんだけど、できるかエテルナ?」

「試すも何も今日までの冒険で、何度もやってきたことではありませんか」

「頼むよ守護精霊様」

「んもー! アルヴィス様の様付けは禁止なのです!」


 エテルナが再び転移魔法を使って空間に穴を穿った。

 飛び込むと先ほどの坑道のような一本道の袋小路に出る。


 俺は【アイテムボックス】から回復薬の小瓶を取り出して、一度地面に置いた。

 念のため【ステータスウインドウ】を介してアイテムの所有権も放棄する。

 地面に置いた小瓶を再び手に取って【アイテムボックス】へと戻した。


 幼女が首を傾げる。


「そのような出し入れをして何が楽しいのですかアルヴィス様?」

「楽しい……か。うん。そうだなわくわくしてきたぞ」


 これが上手くいくようなら、結構ヤバイことだ。


「よしエテルナ! もう一度【初心者】の神殿に戻るぞ!」

「ええぇ……アルヴィス様がおかしくなられてしまいました」


 半泣きの幼女を「いいからいいから」と促して、再び守護精霊の転移魔法で神殿の小部屋に帰ってくる。

 すぐさま【アイテムボックス】で所持品の数を確認した。

 回復薬の数が――


「減ってない。成功だ! やったぞエテルナ!」

「アルヴィス様が自分で捨てたアイテムを拾って喜んでおられます~! 壊れてしまわれました~! うわ~~ん!」


 泣き出す幼女を高い高いしてその場でぐるぐるとワルツのように回る。


「俺は正気だぞ! 厳密に言えば塔の中で手に入れたとは言えないけど、拾ったアイテムを持ち出せることが確認できたんだ」

「はへ? それがどうしたのですか? 当たり前のことではありませんか?」

「当たり前じゃないだろ。塔の中で手に入れたアイテムの持ち出しには、特定の階層にある出口の転移ゲートからじゃなきゃいけないってルールがあるじゃないか」


 エテルナはフードのウサ耳を揺らして首を傾げる。

 塔だろうとどこだろうと、自身の転移魔法で行き来できるのが当たり前の幼女にはいまいちピンと来ていないみたいだ。


「あのえーと、結論をお願いいたします!」

「レアアイテムを見つけたら、一旦持ち帰ってきちゃえばいいんだよ」


 途端に幼女の瞳がキラリと光る。


「レアアイテムをお持ち帰りッ!?」

「まあ、一度持ち出したアイテムを誰かに売却したあと、俺が塔の中で死んだらそのアイテムが消えるかもしれないけど……」


 売り手としての信頼に関わることなので、塔で得たアイテムの売却はそれが消えないと確信が持てるまで控えておきたいところだな。


「うまくいけばお金持ちではありませんか!?」

「おう! 夕食に一品増えるし余裕ができたら神殿にも喜捨できるぞ!」


 今までは回復薬代でカツカツだったが、上手くいけばとんでもないことになりそうだ。


「喜捨よりもアルヴィス様の装備に投資すべきです!」

「お、おう。いや、いいのか守護精霊がそんなことを言って」

「はうっ! お、お母様今のアルヴィス様を思ってのことですから!」


 天井めがけて幼女は言い訳をするのだった。

 防具に関してはそろそろ変えるのもいいかもしれない……けど、訓練校で最初に至急された冒険者装束は、動きやすいし丈夫だし気に入ってるんだよな。


 なによりこいつを着ていれば【初心者】だと一目でわかる。

 装備の刷新はレアアイテムを拾うか、お金がある程度貯まってからにしよう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「面白かった」「続きが読みたい」と思われましたら更新がすぐわかるブックマーク!
【☆☆☆☆☆】で評価よろしくです。執筆の励みになりますがんばります!
9/24発売!お仕事新作「英雄のヴァルハラがひどすぎる件」(ⅡⅤ KADOKAWA新文芸)もお楽しみに!

― 新着の感想 ―
[良い点] 自分で捨てたアイテムを拾って喜んでる人、怖いですねw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ