7話:帰還
ダンジョン探索の予定の時間過ぎダンジョン前の広場に多くの人が集まる。
広場は帰ってきた生徒たちとその対応に追われている先生たちによって賑わしかった。
ウォルフも対応に追われているうちの一人で慌ただしく働いていたが、帰還生徒の確認を担当している先生から凶報が届く。
「パーティーストゥルトゥスのレイド・オルンクス、ソニア・ファーレン、カイル・アルファルド、オウカ・カタギリの四名が未だ帰ってきていません。」
ウォルフはその内容を聞き頭を抱える。
探索中に五階層に挑んだ生徒がいると聞きもしやと思ったが、最悪の事態になってしまった。
ただ、あの四人は問題児であるとともにこの学年の上位四席であり、上級生にも実力は通用する。
すぐに事態を把握し、知らせを届けてくれた先生に帰還生徒の状況を聞き出す。
幸い四人以外は全員戻って来ていて、教員たちを集める。
一階層、五階層、十階層、十五階層、二十階層にそれぞれ五人の計二十五人の教員を送り、ボス部屋まで探索し四人を探すことになった。
すると二十五人に選ばれた教員の一人がメンバー表を見て言った。
「ウォルフ先生は探しにいかないんですか。」
「いえ、私はもしものことを考えて二十五階層に行きます。」
「そんな、一人でなんて危険です。」
「大丈夫ですよ、これでも教員になる前は中級冒険者だったんですよ。」
そう答え、ダンジョン前の移動陣に乗り、
「では、先に行きます。」
青色の光に包まれながら二十五階層へ転移した。
光が消え石造りの床と壁の景色に切り替わる。
脚に魔力を込め、下層への階段を一気に駆け下りる。
冒険者時代の記憶を頼りにしながら、レイドたちを探すため下の階層へ目指す。
途中襲い掛かってくるウルガやホブゴブリンを剣で一閃し首を切り落とし命を絶つ。
「レイド、カイル、ソニア、オウカ居るか、返事をしろ。」
四人の名を呼びながら捜索するが、見つからずそのまま三十階層にたどり着いた。
三十階層にはキマイラがいる部屋の大きな扉とちょっとしたスペースがあった。
ウォルフは難無くその扉を開き、平然とボス部屋に向かう。
すぐに壁の灯りが点いてキマイラが近づいてくるウォルフに威嚇の咆哮をする。
「この階層にも居なかったか。すぐに戻って他の先生たちの結果に期待するしかないか。」
しかし、ウォルフは一切気にせず独り言をつぶやきながら歩いて接近し、剣を抜く。
すれ違いざまに一閃、キマイラの首を刎ね返り血も浴びずに通り過ぎた。
剣に付いた血を払い鞘に戻す。
ボス部屋から出て移動陣に乗り、地上に帰る。
地上には浅い階層を担当していた教員が先に帰っていたが、四人の姿はなかった。
ウォルフが帰ってきてから三十分もしないで他の階層を担当していた教員たちが帰ってきた。
しかし、レイドたち四人の姿はなく、痕跡すら見つからなかった。
そのまま此処で今後の対応について会議し、明日明朝まで交代で四人の捜索を行うことになった。
捜索を再開してから二時間、帰還予定時間から四時間後ウォルフが交代で地上で待機していた時、ダンジョンが急に白く輝いた。
「これは。」
周りにいた教員たちが騒ぎ立てる。
ウォルフもいきなりの出来事に驚く。が、すぐに落ち着きを取り戻した。
この光景を過去にウォルフは見たことがある。
冒険者時代、レイドの両親たちがダンジョン探索に行ってから戻らなくなった時と同じ光景。
ウォルフが過去の出来事を思い出している中、傷だらけのレイドたち四人が白い光に包まれながら、芝の上に置かれた。
ウォルフは思い出を振り払い、すぐに近くにいた教員と連携し応急処置を行う。
応急処置をしている間に治癒院の手配ができ、四人はすぐに運ばれていった。
それを見届けながら、
「あの四人も未明領域に行ったのか..。」
夜空に浮かぶ薄暗く白色に輝く星を見ながら溜め息を吐いた。