6話:キマイラ戦②
今回は少し長くなります。
ダンジョンは一階層ごとに魔獣が少しずつ強くなっていき、五階層十階層ごとでその強さはさらに強くなる。
それに基づき、百階層まであるこのダンジョンは一から三十階層が初級、三十一から六十階層が中級、六十一から九十階層が上級、そして九十一から百階層が超級と定められている。
キマイラは冒険者たちの最初の難関の三十階層のボスであり、第一の試練と呼ばれている。
そんなキマイラは灯りが点きレイドたちの姿を完全に補足すると大声で吼えた。
マジか、こんなところでまさかのコイツかよ。
油断は最初からしてなかった、覚悟は扉を開ける前から決め万全の戦闘状態で挑んだ。
だが、咆哮一つで覚悟は揺るぎ、武器を握りしめる手は震えだした。
正直勝てる気がしない。
初めて経験する死の予感。
だけど、地上に戻るも領域を攻略するにも先に進むしかなく、信じ頼れるのは自分たちの力のみ、ならっ。
震える手を握り直し、揺らいだ覚悟をもう一度奮い立たせ、考えを切り替える。
そして赤い目をしたキマイラに正面から睨み返す。
「「「「勝つぞ。」」」」
全員で叫び、その場から散った。
レイドは正面、ソニアは左側、オウカは右側、カイルは背面に着き、
「炎属性付与。」
「爆発弾、貫通弾風。」
「八重桜流剣術断頭。」
「身体能力強化。」
一斉に攻撃する。
が、レイドの槍は牙、ソニアとオウカの攻撃は硬い毛、カイルの攻撃は尻尾の蛇によって阻まれた。
正面は当然警戒されていて、胴体はゴーレムかそれ以上に硬く、尻尾の蛇のせいで死角がない。
すぐにアイコンタクトで状況を伝え把握する。
位置をローテーションし攻撃の繰り返しをして、それぞれの位置を決めソニアが正面、レイドとカイルが側面でキマイラ本体、オウカが背面で二匹の蛇を担当することになった。
ソニアが注意を引き、レイドとカイルがそれぞれ胴体に炎槍と戦棍で攻撃する。
キマイラは左右から攻撃してくる二人を振り払おうとし、ソニアが顔面に銃弾を撃ち込み攻撃を阻止する。
なんとか連携で攪乱しキマイラ本体の注意を引いているが、決定打がないまま戦闘が続いていく。
正直いってジリ貧状態だ。
魔闘法に加え他の魔術を使いながら戦闘しているせいで魔力の減りは半端じゃない。
それに一撃が重く今は致命傷には至っていないが一定の怪我に達したらカイルに応急処置をしてもらう状況でカイルの負担が大きすぎる。
だけど、この後のことを考えたらソニアに無理をさせるわけにもいけない。
なら、自分のやることは決まっている。
「雷属性付与、さあ無視できるならしてみろ。」
炎属性付与から雷属性付与に換えキマイラのヘイトを向ける。
オウカが来るまでレイドが攻撃の中心となりカイルとソニアがサポートしキマイラとの戦闘が続く。
その間に背面でオウカは二匹の蛇と戦闘をしていた。
蛇は攻撃と防御の役割をもっていて攻めあぐねていた。
「拙者が早く終わらせなければならないでござるに。」
オウカが焦りに駆られていると、一瞬蛇の連携に隙ができた。
そこをすかさず狙いにいくが、二匹の蛇は役割を交代させ防御に回っていた蛇がオウカに牙を剥く。
「罠でござるかっ。」
なんとか回避をするが牙が腕を掠り、小さな裂傷ができる。
立ち上がり構えを取ろうとすると、視界がふらついた。
「毒でござるかっ。」
即座に裂傷から毒を吸い出すが、それでも視界がふらつく。
応援を頼もうと思うが三人はキマイラ本体の相手で手一杯だった。
なにより、自身の技量を信じて此処を任せてくれた期待を裏切りたくなかった。
応援は呼べない、解毒は自分ではできない、時間が経つにつれ不利になる。
なら、臨むは短期決戦。
やることは決まった。
「いざ、尋常に勝負でござる。」
刀を脇構えにし前に倒れるような前傾の体勢になり一気に踏み出す。
落下による重力をも推進力に変え距離を一瞬で詰め、地面すれすれの体勢で刀を地面に滑らせながら、
「八重桜流剣術花火。」
攻撃の役割の蛇を斬り上げ、そのまま上段に構え、
「断頭。」
防御の役割の蛇を切り裂いた。
蛇が完全に死んだことを確認してすぐに三人のもとに合流し、
「かたじけない、思ったより時間がかかったでござる。あと、カイル殿解毒を頼むでござる。」
毒を喰らったことを伝えカイルと共に戦線を一時離脱する。
カイルが解毒するには大体五分ほどかかる。
その間、前衛はレイド一人で持たせなければならない。
雷属性付与を解除し防御に専念する。
このメンバーで唯一キマイラに致命傷を与えられるとしたらソニア一人だけだ。
自分に注意を向けさせながら戦わなくてはいけない。
正直ギリギリだ。
五分、いつものならあっという間に感じられる時間が途轍もなく長く感じられる。
緊張状態が続く中、一瞬集中力がプツンと途切れ回避が遅れた。
眼前にキマイラの爪が迫る。
「八重桜流抜刀術飛燕。」
「倒れろっ。」
オウカが迫ってくる爪に斬撃を放ち、カイルがもう片方の脚に戦棍を叩き込んだ。
「すまん、時間がかかった。」
「大丈夫でござるか、レイド殿。」
左右から二人が現れ、キマイラは後ろに後退した。
「おせーよ。だけど助かった。」
悪態をつきつつ、お礼を言い立ち上がる。
「ソニア、とっておきを頼む。カイルとオウカは注意を引きつけてくれ。」
ソニアはレイドに言われ、アイテムポーチから漆黒のアンチマテリアルライフルを取り出す。
「狙撃銃スコーピオン、起動。」
スコーピオンのレバーを引き、一本の青い腺が浮かび上がる。
弾倉に銀色の銃弾を装填し、魔力を注入する。
それを危険に感じたキマイラはソニアに狙いを定め突撃する。
「「させるか————。」」
即座にカイルとオウカが阻止する。
その間レイドは魔闘法を解き、ウルガロードの魔石を取り出し呪文を唱える。
「それは極寒の囲い、」
キマイラは依然としてソニアに狙いを定めている。
カイルとオウカは振り払われながらもすぐに立ち向かい阻止を続ける。
「生きとし生けるものを凍えさせ、」
カイルとオウカを邪魔に思ったキマイラは狙いをレイドに換え、走り出す。
ヤバい。ただでさえ扱いが難しい上級魔術、さらに足りない魔力を魔石から吸収するという精密な技術まで使っている。
他の魔術は一切使えず、魔闘法も解き一撃でも喰らえば致命傷。
一人で戦線を維持してた時よりも危険な賭け。
「万物を捉えよ、」
爪を受け流そうとするが、力負けして左腕に掠り血飛沫が舞う。
第二撃目の牙をカイルとオウカが武器で受け止める。
が、二人も出血が酷く魔力は底をつきかけている状態ですぐに振り払われる。
振り払われた際にカイルが聖魔術鎖縛を使い、カイルとオウカが光の鎖で左右からキマイラの首を締め動きを止める。
そしてレイドの持っていた魔石が割れ、右手で槍を持ちキマイラの足元に突き立てる。
「氷属性上級魔術凍てつく監獄。」
地面から何百もの棘のついた巨大な氷柱が生え、キマイラに刺さり動きを完全に止めた。
キマイラは寒さと刺さる氷柱の痛みで吼えた。
その隙を見逃さず、
「私の全魔力持ってけ、銀の閃弾。」
ソニアの全魔力が込めれられた銃弾はキマイラの額を撃ち抜いて、体を貫通した。
咆哮はすぐに止みキマイラの死骸はあっという間に魔石になった。
そのこと見届けたカイルとオウカが倒れ、レイドも地面に倒れる。
「レイ..ド..。」
ふらつきながらソニアがレイドのもとに近づいて来たが、途中で力尽き倒れた。
飛びかけの意識の中、三人が息をしていることに安心してレイドも深い眠りに落ちた。
「若人たちよ、成長せよ。」
落ちていく意識の中で男の声が聞こえた。