1話:問題児たち
昼、王都の時計塔の鐘が鳴りほとんどの人が休みを取る時間帯。
それはこのイデアル学園の生徒たちも同じで、学園にのんびりとした空気が流れていた。
そんな時間に突然、ドゴンッと爆発音が鳴り校舎の一つ魔術棟の一室が崩れた。
それから少しして爆発音を聞きつけ駆けつけた一人の男性教師がある生徒の名前を叫ぶ。
「またお前か、レイド・オルンクスゥ——!」
教師の叫び声が響き渡った後に崩れた教室の片隅で瓦礫が退かされる音がした。
「あ痛たた、また失敗したな。」
そう言いながら160センチくらいの体つきが良い金髪の少年が、槍を片手に持ちながら出てきた。
この少年こそが今しがた教室を爆発させ、名前を叫ばれたレイド・オルンクスである。
「何ですか、ダクトン先生?」
レイドは自分の名前を叫んだダクトンに尋ねる。
「何が何ですかだよ、用件はお前の後ろにある崩れた教室のことだよ。」
レイドの質問に怒りながらダクトンが言う。
「何で教室が崩れるんだよ、おかしいだろ。いったい何をしたんだ。」
「何って魔術の実験ですよ。」
これ以上のやり取りは無駄だと悟り、ダクトンは
「———ッ。もういい、取り敢えず職員室に来い。」
とレイドに伝え去っていった。
レイドが職員室で説教を受け出てくる頃には午後の授業が始まるまで時間が少ししかなかった。
駆け足で教室に行き、中に入ると男子生徒の一人が声をかけてきた。
その生徒はカイル・アルファルドと言い、銀髪で背はレイドより少し高く、ペンダントを首にかけていた。
カイルは神聖フライヤ国からの留学生でレイドにとっての悪友だ。
「レイド、お前今回は何をやらかしたんだ?」
「魔術の実験をしてたら暴発して、教室を1室ダメにした。」
「ちなみに実験の内容は?」
「複合魔術、途中までは上手くいってたんだけど火属性と雷属性を掛け合わせたら爆発した。」
と話していると、
「あ、レイド。もう戻って来てたんだ。」
「レイド殿、お勤めご苦労様でござる。」
と二人の女子生徒が此方に来た。
「ソニアとオウカか。」
ソニアと呼ばれた少女は紫色の髪を肩まで伸ばし、前髪で右目が隠れていた。
それに対しオウカと呼ばれた少女は黒髪を背中まで伸ばし、後頭部で長い髪を一つに結んでいた。
ちなみにこの二人もカイル同様他国からの留学生である。
また、ソニアはレイドとは幼馴染で親同士が学生の頃から知り合いで、今では家族ぐるみの付き合いとなっている。
「そうだ、レイド殿。今回で呼び出しは何回目でござるか?」
「多分、二十回くらいかな。」
今年で入学してから三年が経ったが、それでこの回数は少ない方だと思う。
「レイド、あんた今そこまでやらかしていないと思ってないでしょうね。」
「いやそうでしょ、歴代の記録と比べると被害も回数も少ない方だよ。」
実際そうである。歴代記録には魔術棟全焼や闘技場の半壊、校庭に大きなクレーターを作ったり、実験の失敗で起こした被害数が三桁を超えるといったものばかりだ。
「まあ、確かに。歴代の記録と比べるとそうなるな。」
「というか、そのうちの一個はレイドのお母さんが作った物じゃなかった?」
「そう言えばそうかも。」
ソニアに言われて思い出す。確か、空間魔法の実験で失敗し魔術棟にたくさんの穴をあけて、それが原因で校舎が崩れたんだ。
「じゃあ、レイド殿も母君と同じように記録を残すのでござるか?」
「いや、別にそんな目標はないよ。」
「でも、卒業までには絶対何かやらかすだろ。」
とそんな話をしていると教室の前の扉が開かれた。
「遅くなって悪い、全員揃ってるかー?」
茶髪の中年の男性がそんなセリフを言いながら疲れた顔をして教室に入ってきた。
「そんな疲れた顔をしてどうしたんですか、ウォルフ先生?」
「お前のせいだよ、レイド。」
そう彼こそがこの授業の担当の先生であり、レイドたちの担任であるウォルフ・ローズルだ。
「お前が昼にやらかした魔術暴発の件のせいで、学園長に呼び出されてたんだよ。これで何回目だと思ってるんだ。まったく、俺が学生の頃はお前の両親のせいで苦労して、教師になったらその息子のお前のせいで苦労してって、お前の家系は俺のことが憎いのか?」
ウォルフは教室に入るなり、愚痴を始める。
「どうすんよ、レイドのせいで愚痴が始まったわよ。」
「だな。」
「でござるよ。」
そう同意するレイドに注意する三人に
「いや、お前らも原因だからな。ソニアは学園で勝手に商売をした件、カイルは格闘系の研究会を荒らした件、オウカは学園外に無断で外出して魔獣を狩った件それぞれ全部俺のところに苦情が来てるんだからな。」
そう注意された全員が気まずそうに窓の方を向く。
「まあ、いい。それじゃあ、来週から始まるダンジョン探索の話をするぞ。」
そう言って、ウォルフは話を進めた。
ダンジョン探索とは十五歳になりダンジョンに入れるようになった生徒たちにダンジョンを体験し、学んでもらうために行われる授業である。
内容は四人から六人の仮パーティーを組み、第一層から第三層までの探索を行い、マッピングや魔物との戦闘を体験することになっている。また、生徒の安全のために教師や上級生をダンジョンに配置し緊急事態も対応できるようにしている。
「ダンジョン探索の説明は以上だ。仮パーティーは同じクラスの者同士でしか組めないから、注意すること。パーティーの組み終わった者たちは俺のところに来て報告すること。それでは各自行動開始。」
そう言われレイドはカイル、ソニア、オウカを誘うべく三人のもとへ行く。
すると、他の三人も同じことを思ったのかすぐに集まった。
「まあ、組むとしたらこのメンバーになるよな。」
「なんだかんだ言っても、仲が良いし付き合いも長いしね。」
「それに互いの戦闘スタイルも熟知しているでござるし。」
「じゃあ早速、ウォルフ先生のところに行こうぜ。」
すぐにパーティーを組み四人でウォルフのところに行き報告をする。
レイドたち四人がウォルフのところに行くと、ウォルフは大きなため息をついた。
「どうしたんですか、先生?」
レイドが尋ねると
「お前ら四人がパーティーを組んだからだよ。いや、こうなるとわかってはいたんだがな。お前らに一言だけ言っておく、問題を起こすな。これだけは絶対に守れよ。」
ウォルフの言葉に対してカイルが
「だってよ、学園の問題児。」
とレイドに言う。
それを聞いたウォルフが
「何を言ってんだカイル、お前も問題児に決まっているだろ。というか、お前ら全員学園でもトップクラスの問題児だからな。」
と言った。
それを聞いた四人がウォルフに抗議するが、ウォルフは一切相手にせず、
「あ、そうだ。お前らのパーティー名だがストゥルトゥスで登録するからな。」
と言って去っていった。
「そうだ、せっかくだしダンジョン探索で何か起こさない?」
「いいな、面白そう。」
レイドの案にカイルが乗り全員が賛成し、何をするか話し合う。
「で、何をするのが一番だと思う?」
「やっぱり、実績と一番目立つことがいいと思うわ。」
「ダンジョン探索って言ったら、魔物討伐でござるか?」
「だったらボスでも倒そう。」
「ボスって言ったら5階層にいる狼のこと?」
「いや、さらに下の10階層のホブゴブリンの方がいいと思う。」
今回挑むノイルダンジョンは現在到達されている階層は68階層で、4階層ごとに出てくる魔獣の強さが変わり、5階層ごとにフロアボスがいる。
ダンジョン探索で活動が許されるのは4階層までで、このフロアには狼の魔獣ウルガと蝙蝠の魔獣ヴァンプが徘徊していて、その下の5階層にはウルガより大きいウルガロードがフロアボスとして待ち構えている。
そしてレイドたちが挑もうとしている6階層からはウルガとヴァンプに加え、ゴブリンも出てくるようになり、8階層からは武器を持ったゴブリンも出てくるようになる。10階層ではゴブリンより大きいホブゴブリンとそれに付き添っているゴブリンが待ち構えている。
「戦力的に10階層程度だったら余裕か。」
「時間的にもそこが限界でござるし。」
「まあ、妥当なところね。」
「それじゃあ早速、準備しよう。」
そう言って1週間後のダンジョン探索のため作戦を練り、武器や回復薬の準備を始め一週間が経ち探索当日になった。
当日朝、ダンジョン前で今回初ダンジョン探索に行く生徒と引率の教師と実力上位の上級生がダ整列し、学園長の話を聞いている。
その中の一列にレイドたちも整列していて、小声で作戦の確認をしていた。
「確認しておく。1から4階層までは最小限の戦闘しか行わず、戦闘は基本的に俺とオウカで対処する。」
「承知でござる。」
「次に5階層前にいる教師対策で死角から閃光を使い、すぐにボス部屋へ行く。この閃光はソニアに頼む。」
「任せなさい。」
「ウルガロード戦はカイルも加わって全員で討伐する。」
「ああ、わかった。」
「その後は教師たちに追いつかれないように4階層までと同じように最小限の戦闘で進み、10階層のホブゴブリン戦に挑む。」
作戦の確認と同時に学園長の話が終わり、各パーティーが順番にダンジョンに入っていく。
最初のパーティーがダンジョンに入ってから15分くらいしたところでレイドたちチームの順番になった。
ダンジョン入場の案内係として立っていたウォルフが、
「いいかお前ら、ルールを守って問題は絶対に起こすなよ。」
と忠告してきた。
それに対して適当に返事をした後、
「みんな行こう。」
レイドの掛け声と共に全員でダンジョンに足を踏み入れた。
足を踏み入れた瞬間目の前が真っ白になり、気づいたら目の前に石造りの壁があった。
予め用意しておいた地図を見て自分たちが飛ばされた地点を把握し、当初の予定通りに探索を始める。
2階層に進む途中横からウルガが現れたが、オウカがすぐに刀で斬り伏せた。
斬り伏せられたウルガが瘴気と共に魔石になった。
「なんか、あっさりしてるな。」
「普通だったら少しは戸惑ったりするんでしょうね。」
「魔獣の討伐は慣れているでござるゆえ。」
「まあ、取り敢えず先へ進もう。」
魔石を回収し5階層へと探索を再開する。
途中、ウルガやヴァンプが襲い掛かってきたがレイドとオウカが難なくと斃し、先に入ったパーティーを抜かし最初の難関の5階層へ続く階段付近に到着した。
階段前には予想通り教員が1名立っていた。
「どうする、あそこまでピタッとしていたら目眩ししても通れないんじゃないか?」
「どうやって気を引く?」
「だったら、さっき拾った魔石を使うか。」
「なるほど。」
「どういうことでござる?」
「あそこにいる教師が階段前から少し移動するような位置に魔石を投げて、魔石を拾った瞬間にうちがフラッシュを撃って階段を下りるってこと。」
「さすが幼馴染だな、相手の考えがすぐにわかる。で、誰が魔石を投げるんだ?」
「それは当然言い出した俺が投げる。」
そう言ってレイドは魔石の一つを取り出して、教師の数歩手前当たりのところに投げた。
教師が魔石を拾い顔を上げた瞬間にソニアが拳銃でフラッシュを撃ち視界を奪ったところで、一気に階段を駆け下りる。
階段を下りた先には石で作られた扉が閉ざされていた。
その扉に手をかざすと、扉が重々しい音をたてながら開いた。
ここでキャラ紹介をしていこうと思います。
レイド・オルンクス
15歳、男。
本作の主人公。
ウォーデン王国出身の平民。
現学園一の問題児で、多くのの失敗と学園の爆破をしながら学会に認められるほどの研究成果も出しているため周りからは「天災」と呼ばれている。
両親は冒険者をしており、王国ではかなり有名だった。
戦闘スタイルは槍を主にして魔術も使い、手数が多い。
カイル・アルファルド
15歳、男。
神聖フライヤ国からの留学生。
レイド同様トップクラスの問題児で周りからは「戦闘狂」と呼ばれている。
銀髪で戦闘職と遜色ない体つきをしている。
戦闘スタイルは聖魔術と片手戦棍を使い、通常時は支援、非常時は前衛として戦う。前衛のときは自分に回復魔術などの支援をし、怪我などを無視してゴリ押しで相手を倒す。
ソニア・ファーレン
15歳、女。
ニエルド都市国家からの留学生。
トップクラスの問題児で狙った獲物と客を逃さないことから「スナイパー」と呼ばれている。
レイドとは幼馴染で両親が生まれる前からの親友だった。
紫色の髪で昼は右目、夜は左目が常に隠れている。
通常時の戦闘スタイルは二丁拳銃を使い、火力が必要になったときはスナイパーライフルを使う。
オウカ・カタギリ
15歳、女。
オクソール国からの留学生。
他のメンバー同様トップクラスの問題児で、教師を撒き学外に無断に外出して魔獣と戦っている姿から「舞姫」と呼ばれている。
黒髪を背中まで伸ばし、リボンでポニーテールにしている。
戦闘スタイルは刀を使い、レイドと共にパーティー内の前衛を務めている。
最後までお読みいただきありがとうございます。
新人なのでまだまだ拙いところがあると思いますが頑張っていきますので、よろしくお願いします。
出来れば作品向上のために評価や意見などをしていただけると幸いです。