表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

みちるちゃん

作者: マー・TY

「もうそろそろだな~」


「そうだね~……」


 時刻は午前2時前。

 深夜の小学校に、勇人ゆうと将太しょうた和樹かずき圭祐けいすけの4人は忍び込んでいた。

 彼らは小学5年生であるが、3年2組の教室で時を待っている。

 今この小学校で灯りがあるのは、この教室だけだ。


「ここまで来て今さらって感じだけどよぉ、よく考えたらあの噂、何か嘘っぽい気がするんだよなぁ」


「う~ん……。でも、こういうのって探偵っぽくて面白くね?」

 

 和樹は退屈そうに教室を見渡し、圭祐は誰のものかも解らない机に腰掛けて足をブラブラさせている。

 今彼らのクラスでは、ホラーがブームになっていた。

 怪異、噂、七不思議、都市伝説……。

 季節が夏だけあって、どの生徒もホラーの話で持ちきりだった。

 トイレの花子さんやこっくりさんのような定番な話もあるが、そんな中で特に話題に挙がっていた噂話がある。

 それは、“みちるちゃん”という怪異を呼び出す儀式だ。

 小学3年生の少女の姿をしており、午前2時にとある呪文を唱えることで出現する。

 その後、その場にいる全員が午前2時半までの間、“みちるちゃん”とかくれんぼをすることになる。

 鬼役となった“みちるちゃん”から最後まで見つからずに隠れられれば、無事に帰宅できる。

 しかし、“みちるちゃん”に見つかってしまった者には死が待っているという。

 午前2時から30分。

 丑三つ時という時間帯に、教室という限定された場所。

 こっくりさん等とは違い、試そうとする者はいなかった。

 しかし、勇人達4人の好奇心は留まることはなかった。

 小学校は夏休み期間に入っている。

 そのタイミングで4人はこっそり自宅から抜け出し、今に至るのという訳だ。


「あと1分で2時だな~」


「そうだね。みんな、スマホの充電大丈夫?」


「おぅ!心配すんな!しっかり撮ってやるぞ!」


 圭祐が自分のスマホを構え、カメラマンのようにな振る舞いを見せる。

 4人は“みちるちゃん”の姿を撮影しようとしていた。

 怪異の撮影に成功したとなれば、4人はクラスの人気者になれることだろう。

 教室の時計の秒針は50を過ぎた。


「よし、いよいよだな!」


「あぁ!」


 秒針が過ぎるのはあっという間だった。

 2時になり、4人は同時に呪文を唱えた。


「「「「み~ちるちゃん、遊びましょう!!」」」」


 教室に少年達の声が響き、こだまする。

 その後、すぐに沈黙が戻ってきた。

 4人は恐る恐る黒板の方に注目する。

 特に変わったところはなかった。

 

「何も起きてなくね?」


「そうだね」


「……やっぱ嘘だったのか?」


「な~んだ。つまんねーの」


 少年達の口から、次々と失望の声が零れる。

 しかしその束の間、教室の照明が一瞬点滅した。

 

「うわっ!?」


 不意を突かれた将太が、思わず驚き声を出す。

 他の3人も動揺していた。

 その直後だった。

 異変が顕れたのは。


「い~~~ち………に~~~………」


 教室の後方から、少女の声が聞こえ始めた。

 4人はそちらに顔を向ける。

 掃除用具が入ったロッカー前で、1人の少女が背中を向けてゆるりと数を数えていた。

 制服姿で、長い髪を二つ結びにしている。

 背中を向けているため、顔は確認できなかった。


「さ~~~ん………し~~~………」


「もっ、もしかして!」


「あれがみちるちゃんか!?」


「じ……実在したんだ…………」


「すげぇ……」


 少年達の目は、すっかり少女の姿に釘付けになっていた。


「ご~~~……」


 少女によるカウントダウンに、少年達は我に返った。

 かくれんぼが既に始まっていることに気づく。


「ね、ねぇ……隠れないと不味くない?」


「だっ…だな……。よし、行くか」


「そうだな。……一応その前に……」


 勇人がスマホで少女の姿を撮影する。

 それから、将太、和樹と共に教室から出た。

 しかし、圭祐だけは残っていた。

 勇人は慌て、教室の外から圭祐を呼ぶ。


「圭祐!何やってんだよ!」


「何って……コイツの顔を撮るんだよ!」


「そんなことやってる場合かよ!多分その子ヤバいって!」


「撮った後すぐ逃げれば大丈夫だって!先行っててくれよ!」


「全く…。知らないからな!」


 勇人達3人は圭祐を置いて、暗い廊下を走っていく。

 昇降口まで来たところで、一度止まった。


「まさか…みちるちゃんの噂が本当なんてね……」


「そうだな。どこ隠れるかな……」


「別に隠れるまでもないんじゃね?せっかくここまで来たんだから、帰っちゃえばいいだろ」


 昇降口の扉は、内側から開けることができる。

 和樹は鍵を開け、扉を引いた。

 これで外に出られる。

 普通ならその筈だった。


「はっ?…あれ?」


「和樹、どうしたんだよ?」


「開かないんだよ!どうなってんだこれ!?」


「えっ?」


 勇人は和樹に代わり、扉を引いた。

 鍵は開いている筈なのに、ビクともしない。

 何か強い力に、反対側から邪魔されているようだった。


「ダメだ…。和樹、将太、3人で引くぞ!」


「お、おぅ!」


「わかった!」


 今度は3人同時に扉を引いた。

 しかし、それでも何も変わらない。

 3人は引っ張り疲れ、床に座り込んだ。


「くそっ、どうなってんだよ……」


「……もしかして、これもみちるちゃんの力じゃない?」


 将太が息を整えながらそう言った。


「みちるちゃんの?」


「かくれんぼが終わるまで、外に出られないってことじゃ……」


「……マジかよ」


 沈黙が生まれる。

 好奇心から始めてしまった噂の儀式。

 3人は遊び半分で足を突っ込んでしまったことに、後悔し始めていた。




「は~~~~ち………」


「………」


 圭祐はスマホを構え、少女がこちらに顔を向けるのを今か今かと待っていた。


「きゅ~~~~う……」


「チッ……。焦れったいなぁ!」


 圭祐はイライラした様子で爪を噛む。

 少女はスローペースで数を数えている。

 彼はせっかちな性格だ。

 待つことが何より嫌いだった。

 早く少女の顔を、写真に収めたかった。

 噂の”みちるちゃん”の顔の撮影に成功すれば、クラスの人気者になれる。

 そう信じ、圭祐は我慢してその時を待った。


「じゅ~~~う…………。もういいか~~~~い?」


「もういいよ!」


 カウントダウン終了の合図が聞こえた。

 ようやくといった様子で、圭祐は応える。

 いよいよ少女の顔を拝むことができる。

 圭祐はスマホのカメラのピントを少女に合わせた。

 少女はロッカーから圭祐の方に顔を向けた。


「………はっ───────?」


 圭祐の体は固まって動かなかった。

 意図せずに、手元のスマホを落としてしまう。

 余程大きなショックを受けたのだろう。

 少女は圭祐に人差し指を向けた。


「み~つけた」


 次の瞬間、少女の人差し指が物凄い速度で伸びた。

 指はそのまま圭祐の額を貫いた。




 かくれんぼが始まって7分が経過した。

 勇人は昇降口から注意深く廊下の様子を窺った。

 深夜だけあって、廊下は暗闇で奥まで見えなかった。

 とはいえ、何かがこちらに歩いてくる様子もない。

 勇人は靴箱の陰に隠れる将太と和樹の元に戻った。


「今のところ何も来てないぞ」


「圭祐も?」


「うん」


「噂通りだと、かくれんぼが終わるまであと23分だね。圭祐君大丈夫かな?」


「あいつ、あの感じだともう見つかってるよな」


 少女の顔を撮影すると言って聞かなかった圭祐のことが心配になってきた。

 勇人は再び廊下の様子を窺った。

 危険がないことを確かめ、2人に向き直った。


「俺、圭祐を捜してくる。2人は安全そうなところに隠れててくれ」


「えっ?勇人君1人で大丈夫なの?」


「大丈夫大丈夫。何かあったらLINEで伝えるから。それじゃあ行ってくる~」


「お、おぅ。気をつけてな」


 勇人は昇降口から廊下に出て、3年2組の教室がある2階を目指した。

 残された将太と和樹は、顔を見合わせた。


「みちるちゃんが急に現れた時は焦ったけど、見つかったら本当に死ぬのかよ?」


「う~ん…どうなんだろう。でも実際みちるちゃんは出てきた訳だし……」


「……まぁでもこういう話って、マジで死ぬのがオチだよな?」


「うっ、うん。そんな話は多いよね」


「圭祐の奴、マジで大丈夫か?あいつ、すぐ逃げれば大丈夫みたいなこと言ってたけど」


「……それは鬼ごっこの話だよね。これ、かくれんぼだよ」


「………逃げても無駄ってことか?」


「多分ね……」


「………」


「………」


 見つかっただけで死。

 直接その瞬間を見てはいないが、2人の間に緊張が走った。


“コツッ……コツッ……”


「「!!?」」


 廊下から不気味な足音が聞こえてきた。

 

「何か来る!」


「将太、静かに……」


 和樹が将太の口を抑える。

 足音は徐々に大きくなってくる。

 和樹は靴箱の陰から、こっそり廊下を覗いた。

 少女の姿が見えた。

 和樹は急いで顔を引っ込めた。

 その後、足音が止んだ。

 

「止まった?」


「もしかして、バレたか?」


 2人共小声で話す。

 息を潜めていると、足音が再び鳴り出した。

 しかし、足音は先程とは少し違った。

 木製の床から、タイルの上に移ったような……。

 それに、どんどん近くなってきていた。

 少女は昇降口に入ったようだ。


「ヒッ!?」


 将太が思わず声を漏らしてしまった。

 足音がそれに反応し、一瞬止まった後少し速くなる。

 和樹は焦り、廊下の方に動いた。

 将太にも、逃げることを促すようなジェスチャーを出す。

 しかし将太は動かない。

 足が震えて動けなくなっている。


「将太!何やってんだよ!」


 和樹は小声で叫ぶ。

 それでも将太には聞こえていない。

 その間に、また足音が止んだ。

 嫌な予感がした。


「み~つけた」


 明るくも不気味な少女の声が、和樹の耳を刺激した。

 次の瞬間青白い手が伸び、将太を引きずり込んだ。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁあああああああ!!!!!」


 将太の叫び声が響き渡った。

 同時に、何かが破けるような音も聞こえてくる。

 血液と思われるものが、先程将太がいたところを濡らした。

 将太の声はすぐに聞こえなくなった。

 和樹は恐ろしさで床に膝を着いてしまった。

 破ける音はまだ聞こえてくるが、靴箱の陰に隠れて何が起こっているか解らない。

 しかし、将太が無事でないことは明らかだ。

 

「うっ…うわっ……うわぁああああああああ!!」


 和樹は悲鳴を上げながら、昇降口から走り出した。

 少女にその姿を見られていなかったことだけが幸いだった。




 物陰に隠れながら、勇人は慎重に進んでいた。

 最初に少女がいた場所に戻るのだ。

 何の気配も感じなかったが、油断もしていられなかった。

 こうしているうちに、3年2組の教室前まで来ることができた。


「圭祐~?………いるか~……?」


 勇人は恐る恐る教室を覗き込んだ。

 

「ッ!!!?」


 勇人は反射的に目を逸らした。

 教室の真ん中で、圭祐が仰向けで倒れていた。

 体中に小さな穴が空いており、そこから血が流れ出ている。

 黒板や机にも、血が飛び散っていた。

 

「けっ……圭祐…………?」


 勇人は戸惑いながらも、教室に入って圭祐の姿を確認した。

 右目や鼻、喉元が潰されており、左目は白目を向き、舌が飛び出ている。

 この状態で生きているとは思えなかった。

 あまりの惨さに勇人はショックを受け、その場で嘔吐してしまった。

 勇人は息絶え絶えで、教室から出た。

 震えながら口を抑える。


「けっ……圭祐が………。圭祐が……死んだ……………?」


 圭祐の死体を前にしたといっても、まだこの状況を受け入れることができなかった。

 いや、受け入れたくなかった。

 儀式を始める前、心の奥では何も起こらないだろうと思っていた。

 仮に何かが起こっても、全員無事に帰れると思っていた。

 そんな考えが甘かったと、勇人は今になって後悔した。


「……そっ、そうだ………。和樹と将太……」


 勇人は和樹に電話を掛けるため、震える指でスマホを操作する。

 圭祐が殺された今、この儀式の危険性を2人に伝えなければならない。

 電話は6コール程した後繋がった。


「もしもし和樹!?俺だ……勇人だ!」


『勇人……?』


 電話越しに、和樹の震えた声が聞こえてきた。

 それに触れることなく、勇人は続ける。


「この儀式はマズいんだ!やっちゃダメだったんだ!教室で、……圭祐が死んでたんだ……!」


『マッ……マジかよ……。圭祐まで……?』


「“まで”って……?和樹、将太はどうした!?無事なのか!?」


『将太は……。将太も殺された………』


「ッ!?」


『昇降口で……みちるちゃんに見つかって………。靴箱で見えなかったけど………多分あいつももう……』


「………そんな」


 勇人は何も言えなかった。

 自分も昇降口に残っていれば、もしくは、2人と一緒に移動していれば、という考えで頭の中がいっぱいになった。

 

『なぁ……勇人……』


「……和樹?」


『もう…俺達しかいないんだよな……?俺…怖ぇよ。……次は、俺かもしれない………』


 和樹の泣き声が聞こえてくる。

 将太の死で、すっかり弱気になってしまっていた。

 そんな和樹のことを思うと、勇人の体の震えが止まった。

 泣いている友人を前にして、少し落ち着きが戻ってきたのだ。

 勇人は圭祐の死体を見ぬよう教室に戻り、時計を見た。

 2時15分。

 時刻を確認した勇人は、和樹に語りかけた。


「和樹、今どこにいる?」


『わっ…解らない。……逃げるのに必死になってて………適当に入った教室の………教卓の下に……隠れてる………………』


「じゃあそのまま隠れ続けるんだ。この儀式は、あと15分で終わる。15分見つからなければ、みちるちゃんは消えるし…学校から出れる筈だ」


『あっ…あと……15分も……?』


「大丈夫。15分なんてあっという間だ。俺も隠れる。だから絶対生き残るぞ!」


『あっ……あぁ……。解っ………ヒッ!』


 突然和樹が短く悲鳴を上げた。


「和樹?どうしたんだ?」


『あっ…足音が……聞こえるんだ………』


「……こうして話してたら気づかれるよな?………もう切ろう。……和樹、頑張れよ!」


『あっ…あぁ………。勇人もな……』


 和樹の返事を聞き、通話を切る。

 今いる廊下の様子を窺った後、勇人は3年2組の教室に入った。

 圭祐の死体を一瞥し、掃除用具が入ったロッカーの前に立つ。


「……ここしかない………か」


 勇人はロッカーを開いた。

 ほうきやちりとりが詰まってはいたが、子供一人が入るには十分だった。

 勇人は迷わずロッカーに入り、扉を閉めた。




 それから勇人はロッカーの中でずっと息を潜めていた。

 スマホを起動させ、時間を見てみる。

 2時27分。

 かくれんぼ終了まで、残り3分だった。

 

「あと少しか……」


 勇人は小声で呟く。

 あと3分このまま隠れているだけで、悪夢は終わるのだ。

 勇人は緊張で疲れきっていた。

 和樹は大丈夫だろうか。

 ぼんやりと、そんな心配も出てきた。

 先程の電話で少女に見つかっていないか、不安だった。

 一人で帰りたくない以前に、和樹には死んでほしくなかった。

 和樹だけでなく、圭祐と将太もだ。

 この先4人で一緒に、たくさん遊べると思っていた。

 今回の儀式だって、そのうちの一つに過ぎない筈だった。

 しかし、今日でそれはもう叶わなくなってしまった。

 本当に、軽い気持ちで行ってはいけなかったのだ。

 勇人はスマホを操作し、写真フォルダを開く。

 少女の後ろ姿がはっきり映った写真があった。

 生還した後、みんなに伝えるつもりだ。

 この夜起きたことを。


“コツッ…コツッ…コツッ…コツッ……”


「ッ!!?」


 ここに来て足音が聞こえてきた。

 少女が近くを歩いているようだった。

 勇人は咄嗟に口を抑える。

 最悪なことに、少女が教室に入ってきたことが足音で解った。

 こっそりスマホを見る。

 かくれんぼ終了まで残り2分。

 早く過ぎてくれと、勇人は必死に願った。

 教室中を歩き回るような音がする。

 捜し回っていることが容易に想像できた。

 このままいくと、ロッカーが開けられるのも時間の問題だろう。

 かくれんぼ終了まで残り1分。

 勇人は息を止めた。

 あと1分。

 しかしその1分が長い。

 「早く終わってくれ」という言葉で脳内が埋め尽くされていく。

 このままいけば勝ちだ。

 何も起こらなければ。

 残り30秒。

 勇人が心の中でそこまで数えた時だった。

 

“♪♪♪♪♪♪♪♪”


「ッ!!?」


 なんと、勇人のスマホに電話が掛かってきた。

 ロッカーの中で着信音が鳴り響く。

 勇人は慌てて通話拒否のボタンを押そうとしたが、手が滑って落としてしまった。

 落ちたスマホを拾おうとしたところで、ロッカーの扉が開いた。


「あっ───────」


 勇人の目の前には、少女の姿があった。

 少女の手には、見覚えのあるスマホが握られている。

 勇人の足元のスマホの通話画面は、圭祐の名前を映し出していた。

 

「あっ……あぁ……………」


「み~つけた」


 勇人が叫び声を上げる前に、少女の手が伸びてくる。

 それっきり、何も解らなくなった。




「和樹!夏休みだからっていつまでも寝てないで起きなさい!」


「わっ……解ってるよ…………」


 午前9時。

 母親に叩き起こされた和樹は、布団から出てきた。

 頭がグラグラする感覚はあるが、和樹自身眠くなかった。

 ほんの数時間前に起こったことを、まだ鮮明に憶えていた。

 あの後30分間隠れきった和樹は、無事に学校から抜け出せた。

 昇降口にあった筈の将太の死体は、跡形も無く消えていた。

 勇人にも電話をしたが繋がらず、結局1人で帰ることになった。

 和樹達4人のLINEグループにもメッセージを送った。

 今確認した時点では、既読は一つも付いていなかった。

 和樹はもう一度勇人に電話を掛けた。

 やはり繋がることはなかった。


「……勇人。………みんな、本当に死んじゃったのかよ……?」


 最後に見た3人の顔を思い返す。

 少女の顔を撮影すると言って聞かなかった圭祐。

 その圭祐を一人で捜しに向かった勇人。

 そして将太は………。


「うっ…うぷっ………」


 吐き気を感じた和樹は、トイレに急いだ。

 将太の最期の姿は、いつまで経っても消えそうになかった。




 日付が変わり、午前2時前。

 もうすぐあの儀式から、1日が経とうとしている。

 和樹は布団に入ったはいいものの、なかなか眠りに着けずにいた。

 昼間に3人に電話をしたが、一度も繋がることはなかった。

 LINEのメッセージも既読になっていない。

 学校にも行ってみたが、3人の痕跡も一切無かった。

 3人の家にも行ってみた。

 どの親も息子の行方を心配していた。

 3人の存在が完全に消えてしまったように感じていたため、少し安心した自分がいた。

 それくらい手がかりがなかったのだ。

 とはいえ、3人がいなくなってしまったことには変わりなかった。

 仮に戻ってきたとしても、無事かどうかも解らない。

 昇降口で飛び散った血液を思い出すと、少なくとも将太が無事だとは思えなかった。


「………みちるちゃん…か…………」


 和樹はスマホで、みちるちゃんについて調べてみることにした。

 検索で出てきたサイトを、手当たり次第に開いていく。


『“みちるちゃん”

 “鬼子ちゃん”、“道子ちゃん”、“死のかくれんぼ”という別称も存在する。

 丑三つ時に、小学校の3年2組にて、「みちるちゃん、遊びましょう」と唱えることで出現する。

 その後、“みちるちゃん”を鬼役としたかくれんぼが始まり、“みちるちゃん”に見つかった人は殺されてしまうという』


 ここまではどのサイトにも記載されていた。

 

「どれも同じだなぁ……」


 和樹はそう呟きながら、次のサイトを開く。

 

「………ッ!!?」


 そのサイトには、“みちるちゃん”についてのスタンダードな情報と共に、初めて見る情報が載っていた。

 和樹は恐る恐るその文章を読んだ。

 

『また、一度呼び出し、かくれんぼで勝てたとしても、“みちるちゃん”との縁が切れることはない。

 “みちるちゃん”はずる賢く、執念深いのだ。

 なのでその後も丑三つ時になると、呼んでいなくとも、小学校に居なくとも、“みちるちゃん”は現れる。

 その縁は、一生続く』


 和樹は戦慄した。

 “みちるちゃん”とのかくれんぼは、死ぬまで続く。

 昨晩のかくれんぼでは見つからずに帰ることができたが、それは一時的なものだったということに気づく。

 

「い~~~ち……に~~~………」


 和樹の部屋の中で、数を数える少女の声が聞こえてきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ