*8* キューピットになれたかな
みんなで宿題をやっていたら、思いのほか早く終了できた。さすがに四人組の皆さんは頭の出来が違う。羨ましいです。
結局、遠慮していたジャスミン茶をご馳走になることになってしまった。
「アリッサは課外授業取ってた?」
「はい、園芸クラスです」
「僕とジョセフとティナは乗馬なんだよ」
「はい、キース様から聞きました」
「キースから?」
「そう、僕とアリッサは園芸クラスで一緒なんだ」
「「「え?」」」
「そうなんです。園芸クラスはわたしたち二人しかいないんですよ」
「そうか、キース。君が園芸に興味あるとは知らなかったよ」
「ええ、興味あるんですよ」
『キース、よくもぬけぬけと!』
『ヨンに園芸は出来ないだろう』
なんだかヨハン様とキース様が睨み合っている?いや、牽制し合っている?ちょっと周りの雰囲気が悪くなったようだ。何かトラブルでも…?
園芸好きだと困ることがあるのだろうか?だから園芸クラスを取る生徒が他にいなかったとか?
園芸はいい事だって伝えなくては!
「このジャスミン茶、美味しいですね。今日、ラベンダーを植えたので、収穫出来たら皆さんにもフレーバーとして楽しんでもらいたいです。ラベンダー以外の花もこれから植えたいなとおもっているんです。園芸って楽しいんですよ」
「アリッサお姉様は家でもお庭のお花の世話をしているんですよ」
「それはぜひ、見に行きたいものだな」
「僕も一度、庭園を見せてもらいたいな」
「どんな花を育てているんだい?」
「バラが中心の庭ですが、裏の花壇には季節の花も育てています」
なんとか和やかな雰囲気に戻せたけど、家に来たいだなんて!ティナの家に来たいということなんだろうけど、第二王子に宰相と公爵家子息が揃って男爵家に訪問なんてありえない。
ティナの相手が決まったら、その方一人だけで来て欲しいわ。
「わたくしたちは先に失礼しますね」
「では、皆さん、よい夜を」
「あ、わたしたちも失礼します。皆さん、よい夜を」
「失礼します。よい夜を」
「「「よい夜を」」」
アビゲイル様とドルトン様に便乗して、ティナとわたしも部屋に帰ることにした。
我が家訪問の事は、早く忘れてほしいものです… 今夜のところは、誤魔化せたはずだ。
翌日、園芸クラスに行こうとしたら、図書館前でジョセフ様に会った。
「やあ、アリッサ。これから園芸クラスかい?」
「はい、そうです。ジョセフ様は乗馬クラスではないのですか?」
「今日は図書館でする事があったから乗馬クラスには行かなかったんだ」
「そうなんですか。お忙しいんですね」
「いや、個人的な用だから。アリッサは 」
「アリッサお姉様!」
「ティナ。どうしたの?」
「アリッサお姉様に用があって。あら?こんにちは、ジョセフ様」
「こんにちは、ティナ。乗馬クラスはどうしたんだい?」
「ジョセフ様こそ。こんな所で何されているの?」
「いや、ちょっと個人的な用があって……」
わたしは二人の会話を聞かずに、ティナと話している彼の頭上にある文を読んでみた。
『本当は二人きりで会いたかったのに。姉妹はいつも一緒だから、一人だけを呼び出すのはなかなか困難だし。どうしたらもっと距離を縮められるのだろうか?この後、二人きりになれるだろうか?』
ふふふ。わたし、お邪魔ね。
「じゃあ、園芸クラスがあるから、わたしはこれで失礼します」
ペコリと頭を下げて、踵を返した。後ろにいる二人に呼び止められたが、聞こえないふりをして二人きりにさせてあげた。キューピットになれたような気がして気分が弾んだ。スキップしそうになりつつも、令嬢らしく、その場を去った。
さあ、水をやりに行こう。




