*7* ライバルでも悪役令嬢でもなかった
種植えと水やりを終えてから、わたしはキース様と一緒に身支度をする為、園芸クラス担当のトンプセン先生の部屋まで行って話をした。
どうやら、今年の一年生で園芸クラスを取ったのは二人だけのようだった。
『そうか、二人きりなんだ…』
キース様は顎に手をやり、なんだか考え深げにしていた。美少年のアンニュイな感じ、いいです!
ああ、違う、ごめんなさい。ティナじゃなくて、わたしなんかと二人になってしまって!悩ましいですよね…
申し訳ない気持ちになってしまって、寮への帰り道はキース様の事を見ることが出来なかった。
「それでは、また…」
「アリッサ、ちょっと待って。夕食を一緒にどうだい?」
「…はい。では、ティナと一緒に」
「いや、そうじゃなくて…」
「?え?あ?ティナとですか?」
「いや、ティナと一緒に…」
「分かりました。六時半でいいですか?」
「じゃあ、六時半に」
「では、失礼します」
「じゃ、また」
キース様と女子寮の入口で別れ、わたしは部屋に戻る前にティナの部屋に行った。
「ティナ、いる?」
「アリッサお姉様?どうぞ」
「ティナ、今日の夕食なんだけど、キース様に誘われたの」
「あら、わたしはヨハン様とジョセフ様に誘われてるの」
「何時?わたしは六時半だけど」
「わたしたちも同じよ」
「じゃあ、みんなで食べましょうか?」
「でも、キース様はアリッサお姉様を誘ったのでしょう?」
「違うわよ、ティナとわたしよ」
「そうかしら?」
「そうよ、もう、みんなで食べましょうよ、ね」
「アリッサお姉様さえよければ…」
「では、また六時半に来るね」
「はい」
部屋に戻り、軽くシャワーを浴びて着替えをした。やっぱり園芸をした後のシャワーは気持ちがいい。種まきをしたからこれから毎日、夕食前のシャワーになりそうだ。それだとせわしないかな?なんならキース様と水やりを一日交代ですればいいかな?でも、芽が出るのを逃したくないなぁ…そんな事を考えていたら、あっという間に六時半になってしまった。
「ティナ、ごめんなさい。シャワーを浴びていたら遅れてしまったの」
「ふふ、大丈夫ですよ」
「皆さんもお待ちよね、さ、行きましょう」
『ちゃんと連れてきてくれるかな』
『また夕食を一緒にできてよかった』
『まだかな』
食堂へ行くと、やはり皆さんをお待たせしてしまったようだった。
おまけのわたしが遅れてしまうなんて、ホントに申し訳ないです…
わたしはキース様に近づいた。
「お待たせしてすみません、キース様。ティナはヨハン様とジョセフ様とお約束していたようなので、一緒でよろしいですか?」
「キース、ぜひ一緒に食べよう」
「……ええ、ヨン」
なぜだかまた、わたしの左右にはキース様とヨハン様が座り、ティナの横にジョセフ様が座った。
ん?なんだか、お二人が近いです。顔を寄せて話しかけないでください。
あ、そっか、勘違いしちゃいそうになったけど、ティナがご飯を食べているのを見たかったのか!
納得して、ご飯を食べる事に集中した。今日も美味しいです。
「ジャスミン茶を用意したから、今日も談話室へ行かないかい?」
「……」
「アリッサ?」
「はえ?わたしですか?うーん、今日は宿題もあるのでわたしは遠慮します。ティナは遠慮せずにね?」
「わたしもアリッサお姉様と宿題します」
「あらそう?じゃあ、お部屋にいらっしゃいよ」
「同じクラスなんだから、談話室で一緒に宿題しませんか?」
「そうだね、アリッサ、ティナ」
上手く逃げたと思ったのに、ヨハン様とキース様に誘われてしまったので、もう断れなさそう。
ティナの顔を見ると微笑んでいるから、これはオッケーということのようだし。仕方がない。
「では、部屋からテキストやノートなど持って、談話室に行かせていただきます」
「では、皆さん、後ほど…」
ティナとわたしは一旦、部屋に戻って談話室に行った。
談話室には、夕食では一緒にいなかったアビゲイル様とドルトン様も来ていた。
園芸クラスの時にキース様が話されていた通り、二人はなんだかいい感じになっていた。
……アビゲイル様はティナのライバルでも悪役令嬢でもなかったみたいだ。
わたしが知らないうちに、ストーリーは進んでいるようだった。