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*10* わたしは平凡なモブ


「アリッサお姉様、どうしたの?なんだか元気がないようだけど?」

「え?そんなことないわ。ティナはいい事でもあったの?」

「ふふふ。ちょっとね」


今朝もまだ、昨日の事で落ち着かないわたしをティナは気にしてくれたようだ。逆にティナはいい事でもあったのか、幸せオーラが溢れているような気がする。

もしかして、昨日何かあったのかもしれない。…また、大事なイベントをミスったのかな?


教室に入ると、既にアビゲイル様とヨハン様とジョセフ様とドルトン様がいた。でも、キース様はいない。授業が終わってもキース様の姿は見えなかった。

次の授業が始まる前にヨハン様に尋ねてみた。


「今日、キース様はどうされたんですか?」

「どうやら風邪を引いたみたいだよ」

「え?熱が出たんですか?」

「詳しい事は分からないけど、そのようだよ」


ああ、やっぱり風邪をひかせてしまったんだ!

様子を伺う為にお見舞いに行きたいけれど、男子寮にわたしは入れないはず。でも、風邪の原因はわたしなのに。せめてお詫びをしたい。


「お見舞いに行きたいのですが、やっぱり、無理でしょうか?」

「うーん、どうだろう?家族以外の女性は寮に出入りできないからね」

「そうですよね…でも…わたしが原因なんです」

「原因って?」

「昨日、園芸クラスの時に誤って水をかけてしまって…きっと風邪は、わたしのせいなんです」

「キースは何も言っていなかったけど…」

「お詫びに伺いたいです」

「……僕が同伴すればいいかもしれない。授業が終わったら寮長に話してみるよ」

「本当ですか?ヨハン様、ありがとうございます!」


ヨハン様のお気遣いによってお見舞いに行けそうだ。キース様の状態も気になるけれど重病ではなさそうなので、ひとまずホッとした。

お見舞いには何を持って行けばいいかな?熱があるならゼリー?それとも、フルーツとお花が無難かな?


授業が終わるとヨハン様と一緒に教室を出た。まずはヨハン様のみ寮長さんに会いに行くので、三十分後に男子寮の前で待ち合わせをする事にした。わたしは女子寮に戻り、ロビーにある売店へ行った。悩んだ結果、結局フルーツとお花を買ってから男子寮の前へ向かった。

無難だ、無難すぎる。さすがわたしは平凡なモブだ。特別な事は想像できない…


既にヨハン様は男子寮の前で待っていた。


「遅れて申し訳ありません」

「いいや、約束の時間より早いよ。君の事を待たせなくてよかった」

「お見舞い、行けそうでしょうか?」

「うん、僕と寮長も一緒ならいいと、特別許可を貰ったよ」

「ありがとうございます!キース様にもヨハン様にもご迷惑をお掛けしまって…すみませんでした」

「君の為なら喜んで」


わたしはティナの義理の姉ということだけなのに、皆さん、本当に優しくしてくださる。だからこそ、本当に申し訳なくなってしまう…

続けて感謝の気持ちを伝えてから、男子寮に入った。

わたしという女子が第二王子様と一緒に男子寮の中を歩いているという非現実に、男子寮に戻っていた方々がびっくりしてわたしたちを見ていた。そりゃそうだよね。


寮長さんへご挨拶に行き、そのまま三人でキース様の部屋へ向かった。

まず、寮長さんがノックをして部屋に一人で入った。しばらくキース様と話をした後、再びドアが開いた。


「殿下、アリシアさん、どうぞお入りください」

「失礼します。キース様…」

「キース、調子はどうだい?」


ベッドには上半身を起こしたキース様は、クッションに寄っ掛かって座っていた。部屋にはメイドと看護師らしき女性が二人控えていた。


「やあ、ヨンにアリッサ。わざわざお見舞いありがとう」

「キース様、申し訳ございません。わたしのせいでーーー」

「アリッサ、気にしないで。本当に大丈夫なんだよ。たいした事じゃないのに、皆に無理やりベッドに縛り付けられているようなものだから」

「でも、熱があると…」

「今朝、微熱があっただけで、もう平気なんだ。明日は授業に行けるよ」


キース様の優しい言葉と笑顔に手をグッと握ったら、胸元でガサリと紙の擦れた音がしたので、自分が手に持っている物を思い出した。


「あの、これ… 食欲があれば、果物、食べてください。お花は…お部屋に飾ってもいいですか?」

「ありがとう、嬉しいよ。ローラ、お願い出来るかい?」

「はい、キース様」

「あ、わたしがお花を活けてもいいですか?」

「じゃあ、お願いするよ。ローラ、アリッサを案内して」

「かしこまりました、キース様。アリシア様、こちらです」


メイドのローラに果物を渡し、二人でキッチンへ行った。

男爵令嬢のわたしの部屋と違って、公爵家子息のキースの部屋にはベッドルームとバスルームだけでなく、リビングとバス、キッチン、そしてメイド部屋まであるようだ。

わたしはローラに花瓶やハサミを借りて、持ってきた花束を花瓶に活けた。


少し三人で話した後、あまり長く滞在するのも皆さんのご迷惑になるだろうと、わたしは早めに引き上げることにした。

ヨハン様はこの後まだキース様と話をすると言っていたのに、女子寮まで送ると言ってくれた。さすがにそれは強く辞退して、男子寮を出た所でキース様の部屋に戻ってもらった。


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