作家擬き式の告白。
「拝啓から始めるのは堅苦しい。あと、あんま長々と書きたくないな」
告白は直接派を名乗りたいところだが、正直な所、告白はしてもらいたい派。好きだよーというポーズを見せておいて、あっちからして欲しい。
男らしくない? ほっとけ。
台所でてきぱきと働く凪を見る。学校あるのにさらに俺の所に来てご飯を作っていく。朝と、昼も、今のうちに作ってタッパーに詰めて置いて行く。
そう、物凄く申し訳ない気持ちになるのだ、なるなという方が無理な話だ。
だったら、要望くらいは応えたい。
よし。書こう。
書こう……。
でもなぁ、俺の書いてる小説、みんな声に出して告白するんだよなぁ。ラブレターのマナーって何だろう。
凪は好きだ。間違いない。でも俺は、凪に押し切られて好きになったようなものだ。
とはいえ、ちゃんと気持ちは伝えたと思うんだ。思うんだけど。
言い訳がましいことがうろちょろして、ボールペンは一文字も書かない。
「諭さん、夕飯できましたよ」
「あぁ。なぁ、凪。作らなくてもこっちで勝手にするぞ」
「その勝手に、という選択肢に、食べないが無くなったら考えます」
「それでも考えますなのか、凪は」
勝手にさせるとは言って無い、ってやつか。
「それで、諭さん。書けましたか?」
「いや」
「まぁ、焦っても仕方の無い事ですから。期待してます」
「あぁ、そうかい」
ため息、ちょっと頭が疲れた。
考えるのを放棄して目を閉じる。そのままソファーに横になる。
今の状況なら、凪は頭の下に膝を置きに来ないだろう。
だから、ゆっくりと考える。でも、相応しい言葉が、出てこないんだ。
感謝とか、これからの事とか、色々書きたいことはあるにはあるんだけど、長々とは書きたくない。そもそも俺は字が汚い。手書きの文字とかしばらくまともに書いていないから
左利きと横書きは、相性が悪いし。
縦書きにするにしても、なんか堅苦しくなりそうだ。
文字の配置とか、色々悩みそうだな、書き始めても。
「うへぇ。俺ってめんどくせぇ」
「確かに、物事を考えすぎる傾向にありそうですね」
「聞こえてんのかよ」
「そこそこ声出てましたよ。諭さんにしては」
「俺が普段声小さいみたいに……」
「静かな人だと思いますよ」
凪に優しく言い直されてしまった。
うん。こういう言い直しも大事だよなぁ。
好き。like……月が綺麗ですね、とまで言い直すつもりは無いけど。
でも、ありきたりな言葉じゃ物足りなくて、他に言い直そうにも、思いつかない。
「凪……」
「はい」
「いや、聞こえるんか」
「諭さんの言葉は一言たりとも聞き逃したくありませんから」
信者っぷりは相変わらずか。
「まぁ、色々考えてしまうくらいが、作家にとっては丁度良いのかもしれないですね」
凪はそうまとめた。
「諭さんは、恋愛小説はどうまとめるべきだと思いますか?」
そろそろ帰らなきゃいけない、または寝る事を検討しなきゃいけない時間。
私は、私を抱えて何かを考えている諭さんに、そう問いかけた。
「さぁ、告白するシーンでも良いし、付き合っているにしても、何か事件を解決して、これからは平和だ、みたいな感じで終わらせも良いし。色々あるだろ」
「あぁ、ですよね」
私と、同じ認識だ。
「急にどうした?」
「いえ、諭さんの意見を聞きたかっただけです」
「ん、でもまぁ、物語を畳むのは、早めが良いんだろうな」
「どうしてですか?」
「だらだら続けても、醜いだけだからな」
遠い目をして、諭さんは続ける。
「だいたい、こういう話を書いて、書きたいシーンを書いて、まとめてって、それして、まだ何かアイデアが浮かぶなら続ければ良いさ。義務感で続けるのは、一番駄目だ。次に駄目なのは。人気が出る見込みの無い作品を、諦めきれずに延々と続けること。さっさと次の作品に行った方が良い。とりあえず、この二つさ。だから、広げた風呂敷を畳むタイミングを、しっかりと見極めなきゃいけない」
だから、告白して終わりってのは、綺麗なのかもな。
諭さんはそうまとめる。
私は、私の思う事。を考える。
「そうかも、しれません」
信者の私には、そう答えるのが、やっとだった。
私の視界に何かが降ってくる。私の目の前で、それは少しだけ遠ざかる。
そこには、何も書かれていない。
「やっぱ、ラブレターってがらじゃないわ。やっぱ気持ちは直接言葉で伝えたいよ。手紙にすれば形には残るけどさ」
「はい。聞きましょう」
「俺さ、何というか、まず言っておくと、リアルの恋愛とか疲れるし怠いだけだと思っている」
「ですね」
「そんでもって、俺は恋愛に対して良い思い出が無い」
「はい。それも前に聞きました」
「まぁ、思い出なんて、これから作って行けば良い」
「良い事です」
諭さんは言葉を選ぶかのように、息を吐いた。
「だからまぁ、今の俺は、正直、付き合う、という事に対して、良い感情が無い」
「はい」
「それでも、良いか? 少しずつ、その、偏見というか、偏った思想、凪との思い出で、埋めていく、で。凪が好きなのは、どうしても、否定できないし、したくないから」
きっと、顔は真っ赤だ。諭さんの。
そして、私も真っ赤だ。絞り出すように紡がれた言葉は、今まで私がもらってきた中で、一番真っ直ぐに、心に届いた言葉、だったから。
「ダサいけど、これが、俺なりの、その、告白だ」
滅茶苦茶な告白。文章の並べ方が、諭さんにしては、論理的じゃない。
だからこそ良い。
作家としてのフィルターを通さずに述べられた言葉だと思える。そんな言葉が、心に来るなんて、思いはしなかったんだ。
次の日、応募していた一次選考の発表。ネットで一番大きなものだ。俺の作品は、とりあえず作品としての体を成しているという判定を貰えた。ここからは、売り物として耐えうるかを判定するものだ。それを超えたら次は売れるかどうか。その次は、時代を作る可能性を秘めているか。
四月には、大きな新人賞が二つある。こっちにも、応募したい。
俺が、作家になれるか、どうかだから。
擬きを、取る事が、できるかどうか、だから。




