JKsの帰り道。
三人で駅前の大通りに繰り出した。
制服姿の割合がそこそこ高い。どこを見ても、どこかの学校の制服だ。
定期券を取り出す。私が学校に行くと告げたその日、父さんが買ってきてくれたもの。また私は、引きこもりかけたけど。
二人は私の手を離さない。そのまま改札の前を通り過ぎて、駅の反対の入口に出る。
「あれ、帰らないのですか? お二人は」
「せっかくですから、少しお茶でもしていきませんか?」
「でしたら、うちの喫茶店で、ココアとケーキ出しますよ。ご希望であれば、夕飯でも……」
「たまには違う味も食べたくないですか? 神代さん」
「それは、わかりますが」
グイっと両脇から、逃がさないと言わんばかりに腕を組まれる。二人は私より少し背が高い。もう少し身長差があれば、捕まえられた宇宙人ごっこでもできたかもしれない。する気ないけど。
「さぁさぁこちらへこちらへ」
「えっ、あの。喫茶店とかじゃないのですか?」
涼香さんがぐいぐいと引っ張ってくる。焼肉屋さんに。
「持ち合わせ、無いのですけど」
「良いから。行きましょっ」
そして後ろから、押し込まれ。前から引っ張り込まれ、肉の焼ける食欲をそそる匂いを、肺いっぱいに吸い込むことになった。
時間が時間なだけに、お客さんはそこまでいない。
七輪の中には赤々と熱された炭が網に熱を与えている。
「まずは豚とろー。次は牛タン。そして豚とろー。あとはミノかなー」
涼香さんのテンションが高い。あのたどたどしさは何処に置いてきたのだろう。
豚トロは塩。牛タンはレモン、ミノは……なんだろう。
というか、涼香さん、意外と食べる。お肉が好きなのだろう。
食べ放題、女子高生三人には重いのでは、なんて思っていたけど、そうでもないらしい。
「カルビも、あと野菜も食べなさい、涼香さん」
「そうですね。影山さん、お肉ばかりですね。後で困りますよ」
「むぐっ、そうですね。ジャガイモジャガイモ」
ジャガイモは、野菜にいれていいのか。私はたまに悩みます。
二時間何てあっという間だ。
「あの、本当に良かったのですか? 後日ちゃんと払いますよ」
「良いの、です。凪、さん。その、復帰祝い、とでも、思ってください」
たどたどしさを取り戻した影山さんは、穏やかに微笑んだ。
「はい。復帰祝いです。神代さんの。勝手に祝っただけです」
少しだけ重い体。でも、歓迎された、と現実の感覚として感じた。じんわりと、景色が滲んだ。
慌てて目元を擦る。歓迎されたんだ、私。
「あの……」
二人は、私の言葉を待つ。
それぞれの夜を迎えた町。スーツ姿の人はもう家に帰ったのだろう。飲みに行く人はもう店を決めて盛り上がっている。
カップルのデートは佳境を迎え、友人同士は誰かの家に帰るなりしている。
町は賑わいながらも、通りは落ち着いている。
「私、人殺しですよ。諭さんと罪を、背負っているんです」
消えない。絶対に。この事実だけは。
「だからどうしたのですか?」
桐原さんは冷たく言い放つ。わざとそうしているのは、一瞬だけ見せた、辛そうな表情が物語っている。
「私にとって、神代さんがそこにいる事。それだけが重要なのです」
「まぁ、不登校児は学校にいるだけで褒められますからね。楽で良いです。真面目な優等生より、更生した不良が評価される日本の謎の不公平採点方式ですね」
「そんな、話では、ないと、思います」
その通りだ。
「今日、うちに、来ませんか?」
涼香さんはそう言った。
「良いですね。パジャマパーティーです」
桐原さんは即座にそう言う。
正気なのか、この人たち。この肉と油とニンニクと、その他諸々の匂いを纏っているのに。
「パジャマ貸しますので。下着買いに行きましょう」
「えっ、えっ?」
思考はうまくまとまらず、ただ戸惑うだけ。二人は穏やかに微笑みながらも、腕にこもる力は強引さをこれでもかと強調する。
下着屋さん。涼香さんが消臭剤と息リフレッシュできるあれを持っていたから、とりあえずどうにかなった、と思いたい。
「来るならこっちが最初だったのでは?」とこぼしたら「思い付きだから、全部」と言われた。少しだけ呆れた。
色とりどりの女性ものの下着が並ぶ売り場。高校生カップルらしき人たちも見て、あぁこの人たち、今から何て思ったりもする。
男性的に居づらい空間だよなぁ。カップルって強い。
強い。私も、強くなりたい。
いや、ああいう強さは求めてないけど。
「凪さん、やはり、大、きい」
私が何となく手に取った物を見て、涼香さんは慄いていた。
「まぁ、恐らく一般的には大きい部類に入るのでしょう」
諭さんをからかうのに主に使われていますが。それ以外だと無用の長物であるのが実際の所。恐らく、実生活の様々な場面を想定した時、無い方が便利だろう。
ジトっとした視線が向けられる。店の鏡には、私の少しげんなりした顔が写っていた。
「贅沢な悩みだと影山涼香は主張します」
「時々饒舌になるくらいなら、ずっと饒舌でいてください」
きょとんと首を傾げる辺り、意識的なものでは無いのか。
ため息を吐いて、手に持つ下着に目を向ける。
これで良いや。
……えっ?
涼香さんの家。やたら広い浴室。三人、洗いっことやらをできる。のは良いが。
「あの、三人で入る意義は?」
「裸の付き合い、というものです」
距離の詰め方が爆速過ぎる気がする。
恐らく、この中でまともに人間付き合いしているのは桐原さんである。えっ、これが女子高生のノリなのか。凄い。JKってコミュ力お化けの集まりだったのか。
縮地とか、そんな古武術の類なのだろうか。いや、それは流石にくだらない事を考えてるな。落ち着こう。うん。
しかし、本当に広い。一体何人入る事が想定されているのだろう。私たち三人が足を延ばしても余裕そうだ。これが富裕層。
「ひゃうっ!」
「可愛らしい声を上げますね、神代さん」
「あの、き、桐原さん?」
背中を急に擦られる。
「背中、流しますね?」
「はい。それは別に良いので、前に回そうとしている手を止めていただいても構いませんか?」
「えっ? 駄目ですか?」
「駄目です」
「つまらない、こと、言わないで、くださ、いよ~」
涼香さんが腕を持ち上げる。
「うわ、肌、すべすべだ~」
「あの、涼香さん? 酔ってますか?」
でも、不思議だ。
慣れない空間の筈だし、結構疲れたりする。でも、不快ではなかった。
私は、そこそこ楽しんでいる。心が、少しだけ喜んでいる。
この時間に、意義を感じている。




