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書けなくなった作家擬きが出会ったのは甘党少女でした。  作者: 神無桂花
甘党少女と囲む影

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59/72

甘党少女の居場所。

短め。

 高校生活とは、難儀なものだ。制服が、重い。教室が狭い。

 自由が無い。窓の外の空が恋しい。

 昼寝もできない。ベッドが私を呼んでいる気がする。

 家事もできない。今更ながら思い出したように色んな所が掃除したくなる。

 弁当は冷めてる。諭さんが目の前にいないだけで、弁当が冷たくマズく感じられてしまう。

 諭さん、ちゃんとご飯を食べているのだろうか。そんな心配が頭を過ぎる。

 何の意味があるのでしょうか。

 段々と後悔の念が湧いてきた。でも、心はまだ大丈夫だ。まだ、大丈夫だ。

 壊れそうな心を抱えて生きてきた、荒谷諭と言う人を見てきたんだ。もうすぐ死ぬと知りながら生きてきたんだ。鍛え方が違うんだ。


 視線を感じる。遠巻きの視線を。

 噂が聞こえる。私に関する噂。

 男の人と二人で歩いていたとか。病気に関することとか。くだらない。変な憶測を語る暇があるなら、直接聞きにくれば良いのに。

 本に目を落とす。名前も知らないクラスメイトは、ただ私に対しては、妄想話に花を咲かせるしか、能が無いらしい。

 こんな、くだらない場所だっただろうか、学校は。


 私は、こんな空間に必要性を求めていた時期があったというのか。

 私はここに居場所と意義を求めていたというのか。

 当たり前のように、何かに命じられ、従うように、学校に行っていた。 

 学びは必要だ。でも私は、学校で習うようなことは、自分で勉強できた。今更ここに、私は何を求めていたのだろう。


 ここに来ることを確かに決めた。けれど、いざここに来て、目的を見失った。

 笑顔の見せ方を忘れ、愛想の振りまき方を忘れ、クラスメイトに贈る気の利いた言葉を忘れ、神代凪は、不機嫌そうな美少女になった。

 休み時間の度に来てくれる涼香さんや、忙しそうにしながらもちょくちょく視線を送ってくれる桐原さんは、歓迎する気はあるようだ。

 授業であてられた時は全て解説を交えて正答を返した。

 嫌な子どもだ。嫌な生徒だ。後最低でも来年。センター試験が終わるまでは通わなければならないのか。

 いや、笑顔を見せようと思えば、できる。喫茶店で働くこともあるのだから。

 ただ、私の心が閉じているだけだ。

 何を、期待していたんだっけ、ここに。


「あの、凪さん、次、移動、教室、です」

「えっ、あっ。ありがとうございます。涼香さん」


 化学の時間か。

 教科書を取り出す。

 休んでいる間のプリントは全部もらっていた。テストの度に、大量の紙束を受け取っていた。中身を見たのは学校に行くと決めた時からだが。

 そう、諭さんに宣言してから、本気で学校に通う準備はしていた。していた。

 でも良いや。やっぱり良いや。


「……私帰ります」

「えっ?」

「頭痛と腹痛と腰痛を同時に発症したから、帰るね」


 やっぱり無理だ。

 心はまだ大丈夫。でも、やっぱり無理だ。

 ガス欠にでも、なった気分だ。力が抜けた。


「それでは。失礼します」


 鞄を担いで教室を出た。サボりだ。でも良い。テストで点を取れば。

 空が晴れて青空に。コンクリートの箱庭から飛び出せば、解放感があった。

 そのまま駅まで駆けていく。早く家に帰って、制服を脱ぎ捨てたい。電車を待つ時間も、走り出してから地元の駅までつく時間も、ひたすらじれったくて。息が切れそうでも走って、マンションに入っても、エレベーターを待つ時間もただただ長くて、階段を駆け上がった。

 着替えて、それから荷物を持って、諭さんの部屋まで階段を一気に駆け下りて、鍵を開ける時間も勿体ない。私が私でいるための時間。


「おかえり」

「ただいま帰りました。諭さん」


 そして、私は諭さんに飛びついた。

 私が私の中に戻って来た。


「おっと、意外と早かったな」

「えへへ。諭さん」


 やっぱり。私の居場所はここだ。

 心が、満たされていく。冷え切った心に、温もりが染みわたる。


「ちゃんとご飯食べていましたか?」

「昼はお腹が空かないから」

「不合格ですね」

「左様で」




 家に帰って、電話機を見ると、学校からの留守電が来ていた。。

 すぐに消去して、私は眠る。

 明日も学校行くかどうか。いや、行かなくて良い気がする。

 あの場所は、私がいなくても成り立っていた。私がいる必要は無い。私の代わり何ていくらでもいる。

 人は、自分が自分でいられる場所。自分以外代わりがいない場所にいるべきだ。

 なら私がいるべき場所なんて、一つしかない。

 幸せだ。私は。居場所がある私は、幸せ者だ。





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