好きな人の実家に来てから。
ベッドの中で思い返すのは、ここ数日の事。
諭さんの実家に来て一日目、洗礼何てすぐに来た。
覚悟はしていた。当然だ。
来て早々、まずは諭さんのお母様から。
「諭と恋人って、大変じゃない? あの子、頭と成績は良いけど、性格がね~」
「諭さんは良くしてくれます」
ぴしゃりと返せた。大丈夫、私は強い。
伊達に一年、死と並んで歩いていない。
それから、おばあさまにも。
「大変だったでしょ、病気何て」
「その間に、多くを学び、成長しました」
「良いの? あなたに、赤ん坊を殺させた人で」
きっと、わざと直接的な表現にしている。
その言葉だけ聞くと、私は歓迎されていない気がした。
「私たちが、これから背負っていく命です」
「そう」
そう答えると、どこか優しいまなざしを感じた。
「凪さん」
「はい。えっと……」
「諭の祖父です」
「あっ、ご挨拶が遅れました。今回は、お招きいただき、ありがとうございます」
「これはこれは、ご丁寧に。一つお話に付き合ってもらっても良いかな?」
「はい。構いません」
諭さんのおじいさまの部屋。多趣味な人だなと思わされた。書道、陶器、盆栽。部屋はそれらで飾られていた。
「いきなり不躾な質問をされたようで。申し訳ない」
「い、いえ。お気になさらず」
「諭とは、ここ数年、まともに腹を割って話せていなくてな」
おじいさまは、悲し気に目を伏せる。
「いつからか、彼は物語や、空想の世界に、心を預けるようになってしまった。家族を心の拠り所としなくなってしまった。明確なきっかけも無く、ただ、段々と、少しずつ。それ故に、気がついた時には、どんなに走っても、近づけなくらいに、心の距離が離れてしまっていた」
深く、真剣な目が向けられる。
「だから、嫉妬もある。儂らが、彼が生まれた頃から一緒にいた儂らが、出会ってほんの数か月の少女にできたことができなかったと、わかった時には、あぁ、嫉妬した」
「……ただ、全力でぶつかっただけです」
「全力で?」
「はい。死ぬ直前とも言えた私は、ただひたすらに、全力で走っていただけです。やりたい事のために、全力で。拒まれても、拒絶されても、全力で、諭さんにぶつかって行った。それだけです」
そう言い切った。目を逸らさずに。
「そうか。良い目だ。神代さん」
「はい?」
「それだけ真っ直ぐな目なら、諭も心を動かされよう」
話は終わりと、おじいさまは目を閉じた。私は部屋を出た。
……そうだ、全力だ。
諭さんの迷いを吹っ飛ばす。
そう思い、そして、諭さんを知るために、積極的に、諭さんの家族に話しかけて行った。手伝いを申し出た。
「働き者ね、凪さん」
「料理の勉強もできて、とても有意義で、むしろ私の方が感謝したいです」
言葉でぶつかっても、届かない部分もある。
見せるんだ、私の本気を。
私が、諭さんを、一生支える。その覚悟を。
それが、遂にできた。届いた。
元日の夜。安らかに眠る諭さんを抱きしめる。
明日、諭さんは、明日と言った。
明日、諭さんは覚悟を見せると言った。
明日やろうは、諭さんの以外は信用しない。
諭さんが明日と言ったら、明日なんだ。




