31話 ※宮廷へ3
フランクは、事あるごとにメアリーに悪意のある口ぶりをフィリックスがするので少しすねてしまいました。
フィリックスも、メアリー、メアリーと、聖母像を拝むように口にするフランクに少しイライラしていました。
もう少しだけでも、社交場に参加すれば、
年頃の令嬢の人気や評価もわかるはずです。
メアリーは、自分で言うだけあって、それなりに人気があり、
身分の高い年配の紳士の中でも、彼女をお嫁さんにとねらっているのです。
フランクには、メアリーは小さな頃のかわいいメアリーのままで、
童話のお姫様のように、どんな運命になっても、メアリーは自分だけを愛してくれる、なんて、少年のように信じているところがありました。
大貴族のフィリックスの家には、自分の欲のためにフィリックス達に近づく人間もやって来きて彼や家族を傷つけたりもしました。
その経験からフィリックスは、無防備に人を信じて疑わないフランクを見ていると、なんだか心配でイライラするのでした。
「フランク、あなたは、メアリー嬢が侯爵家の仮面舞踏会に招待されていることを知っていますか?」
しばらくの沈黙を破るように、ダニエルがフランクに聞きました。
「いいや……知らないよ。」
フランクは、少し驚いたようにダニエルを見ました。
ヴーナオーパンバルが終われば、メアリーは、晴れて大人として社会に受け入れられるのです。
仮面舞踏会は、顔を仮面で隠す為に、身分に関係なく自由に好きな人と踊ることが出来ました。
でも、その為に悪い人も近づいて来るので、
メアリーのような世間知らずの若い娘が行くには早すぎると、フランクは思いました。
それと同時に、高貴な紳士の中でも、身分を気にせずにメアリーと踊りたいと、仲良しになりたいと考える人物がいるのだと悟りました。
「そうですか。」
ダニエルは、少し動揺するフランクの顔に、恋をする青年の不安を見つけて、一度言葉を切りました。
「メアリー嬢の失踪が、本人の計画ではない可能性の根拠の一つに、侯爵家の仮面舞踏会の出席を、行儀見習い先の男爵家のマリア嬢が証言しました。
メアリー嬢は、この日のために、ダチョウの羽飾りのついた見事な仮面を注文していたことが判明したのです。」
ダニエルは事務的に二人に話していましたが、
それが、本当にメアリーを引き留めるほどの動機になるかはわかりませんでした。
「ダチョウの羽飾り…。」
フランクは、どんな仮面か想像がつかなくて困惑しました。
「全く、派手で下品な趣味だな…。」
フィリックスが投げるように呟いたのを聞いて、
ダニエルとフランクは、流行りものの若向けな仮面だと理解しました。
フィリックスは、その容姿とは逆に、
古典的で、上品なスタイルを好んでいました。
「で、それがどうしたの?」
フランクは、よくわからない不安にかられて、ダニエルを見つめました。
「イタリア人との接触の可能性です。
その仮面は、昨年のクリスマス・マーケットで知り合ったヴェニスの商人に注文したようなのです。
現在、クグロフの人間が、その人物を調査していますが、まだ、報告書がきていません。」
ダニエルは、何かを考え込むように一度黙りこみました。